571話 クリスティの聖水
透明マントの試運転中だ。
入浴中のジェイネフェリアにそろそろ突撃しよう。
だが、その前にトイレに寄ることにする。
俺は屋敷の廊下を歩く。
ふと窓の外を見ると、花がニムやハンナと話しているのが見えた。
「い、いつも助かっています。ありがとうございます、花さん」
ニムがそう言う。
その言葉を受けて、花が首を横に振る。
「気にしないで~。結構な報酬を貰ってるし、これぐらいはするよ~」
花も結構な労働嫌いなのだが、意外とやるときはやる女性だ。
しかし、改めて考えると、ハイブリッジ家には労働嫌いが多いな。
まずは俺だ。
リーゼロッテもあまり労働は好きではないだろう。
ヴィルナの元ヒモのキリヤ。
結婚前は最低限のノルマをこなす以外はひたすら本を読んで過ごしていたトリスタ。
そして、のんびり屋で、生活費と養育費を目当てに俺の妾に立候補している花。
いずれも将来が思いやられるが、まあ俺を含めて致命的なほどの労働嫌いではないのが救いか。
そもそも、働くのが好きな人類なんかめずらしいだろうし。
「花さんの植物魔法は本当にすごいです! 私、尊敬してます!!」
「それに、知識もあるしね。ニムさんと花さんのおかげで、農業改革がとても順調に進んでいます!」
ハンナとニルスがそんなことを口にする。
「い、いえ。もちろんニルスさんとハンナさんの頑張りも大きいですよ」
「豊作だったら、たくさんの食料を報酬として貰えるんだよね~? いっしょにがんばろ~」
ニムと花がそう言う。
この4人が農業改革の主要メンバーだ。
お互いに認め合いつつ、協力体制を築いているようである。
良い傾向だな。
そんなことを考えつつ廊下を歩いていると、トイレの前に到着した。
ガチャリ。
俺は扉を開く。
するとそこに、尻を丸出しにした女性がいた。
「なっ!? 扉が勝手に?」
クリスティだ。
彼女がちょうど用を足していたところだったようだ。
トイレには鍵が付いておらず、代わりに使用中であることが外から分かるようになっている。
俺は考えごとをしていたので、使用中であることに気づかずに扉を開けてしまったわけだ。
普段は自室に備え付けのトイレを使うため、この1階のトイレはあまり使わないということも原因のひとつだ。
うっかりしていた。
とはいえ、これはある意味でラッキースケベというやつか?
意図的にやったのなら性犯罪者だが、うっかりなら許されるような気がしないでもない。
「風か何かか……? あたいが入っているときに開くなんて、運が悪いな……」
クリスティはそう言いつつ、便座から立ち上がる。
俺の存在には気付いていないようだ。
透明マントを羽織ったままでよかったぜ。
あやうく痴漢扱いされるところだった。
「よいしょっと。……って、あれ?」
クリスティがドアノブに手を掛けて引っ張るが、動かない。
俺が押さえているからだ。
ちょっとした悪戯心である。
「ん? なんで動かないんだ? どこか引っかかっているのか?」
彼女が首を傾げつつ、ドア周りを確認する。
「うーん。分からん。勘弁してほしいぜ、これから出そうってときに」
パンツ丸出しの状態のまま、彼女がそう呟く。
出し終わった後ではなく、これから出すところだったらしい。
「ちっ! 無理に動かして壊れても困るしな。しゃあねえ。誰もいないし、とりあえずこのまま出すか」
彼女はそう言って、パンツを下ろして便座に座り直す。
これは……。
ダメだ、見るわけには……。
俺への好意を明言しているレインや、妾に立候補している花とは訳が違うんだぞ……。
クリスティはそういう対象じゃない……。
しかし、だからこそ、この光景は刺激的だ。
見てはいけないと思いつつも、目が離せない。
俺の頭の中で、警鐘が鳴る。
だが、もう遅い。
彼女の下半身が視界に映り込む。
「……んっ!」
彼女が小さく声を上げた。
次の瞬間、プシャァッ!!という音と共に、水分が放出される。
「ふぅ、スッキリしたぜ」
そう言いながら、クリスティがペーパーを手に取る。
俺は、その姿に釘付けになっていた。
ハーレムメンバーの候補にすら上がっていなかった女性のプライベートな光景。
その衝撃は、想像以上だったのだ。
俺は今になって、自分の犯してしまった過ちに気付いた。
そして同時に、とんでもないことをやってしまったのだという実感が湧いてくる。
やっちまった……。
どうしてこう、俺は意思が弱いのだ……。
俺みたいな奴に透明マントなんて魔道具を渡したのが間違いだったのだ……。
シュルリ。
俺は透明マントを脱ぎ捨てる。
「……えっ! ご主人!?」
「よう、クリスティ。とりあえず俺を殴ってくれないか?」
「な、なんでだよ?」
「お前の痴態を見てしまった。しかも、意図的にだ。俺に罰を与えてくれ。頼む」
「あたいの痴態を見たって……、あっ!!」
おおよその状況を理解したらしく、クリスティの顔が赤くなる。
そして、急いでズボンを上げる。
「く……。この変態があああぁっ!!!」
クリスティが大声で叫びつつ、強烈な蹴りを放ってきた。
俺はそれを避けず、甘んじて受け入れる。
「ぶげらっ!!」
変な悲鳴を上げつつ、俺は吹き飛んだのだった。
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