570話 水やりをしている花ちゃん

 俺はジェイネフェリアから購入した『透明マント』を羽織っている。

 親睦を深めるために彼と裸の付き合いをしようと思ったのだが、せっかくなのでこの魔道具でドッキリを仕掛けよう。


 風呂でくつろいでいるところに俺が現れたら、さぞやびっくりするはずだ。

 自分の魔道具の素晴らしさを知ってもらうことができるし、男同士で親睦を深めることもできるし、一石二鳥の妙案である。

 我ながら、素晴らしい案を思いつくものだな!


(む? あれは……)


 オリビアだ。

 彼女が廊下を歩いている。

 そして、そのまま俺とすれ違った。

 彼女がこちらを振り向く。


「おや? 何者かの気配を感じた気がしましたが……。気のせいですか」


 首を傾げ、そのまま離れていった。

 彼女はサリエの付き人だが、多芸に秀でる。

 特に、人の気配を察知することについてはヴィルナやヒナに次ぐレベルだ。

 そんな彼女でも、透明になった俺を見つけることはできないと。


 俺の魔力が高出力なことも関係しているだろうが、これは素晴らしい魔道具だ。

 このまま風呂場に直行してジェイネフェリアを驚かせるか。


 ……いや、待てよ?

 せっかくだし、この機会に透明マントの性能を思う存分確かめておこう。

 まずは庭に出る。


「ふんふん~。花ちゃんの魔力で、大きく育つんだよ~」


 花がハイブリッジ邸の庭で水やりをしている。

 彼女は植物魔法の使い手であり、水に魔力を込めることで作物の成長を促進することができる。

 俺の配下兼妾候補として、農業改革を手伝ってくれているのだ。

 俺は、花が水を撒いている畑の方へ歩いていく。


「…………? あれ~?」


 花がこちらを振り向いたが、透明マントを羽織っている俺には気付けない。


「ん~?」


 花は辺りを見渡している。

 よしよし。

 オリビアに続き、Cランク冒険者である花にも気付かれない性能と。


 悪くない。

 だが、おぼろげながらも気配は感じ取られている。

 過度の期待は禁物だな。


 次は、もう少し近づいてみよう。

 背後からこっそりと忍び寄る。

 ふむ……。

 いい香りがする。

 彼女の匂いだ。


 日頃から作物の世話をしている影響か、彼女からはいい香りがするんだよな。

 もう少し嗅いでみよう。

 彼女は俺の妾に立候補してくれているが、なんだかんだでまだ手を出していない。

 思う存分に彼女の香りを堪能したことはないのだ。


 俺は彼女のすぐ背後まで接近した。

 と、その時。


「う~ん? やっぱり誰かいる気がするんだけどな~」


 彼女が再び振り向き始める。

 マズい。

 やはり、Cランク冒険者の花を欺けるほどの性能はない。

 いくら透明とはいえ、間近で見られると気付かれてしまう。


 シュンッ!

 ここは、急いでしゃがんでやり過ごすことにする。

 透明化状態を真正面から見られるのと、視界の端で見られるのとでは気付かれやすさに差があるだろう。


「誰もいないなぁ~。気のせいなのかな~?」


 彼女はそう呟いて、再び前を向く。

 そして、畑への水やりを再開した。


 何とか気付かれずに済んだか。

 しかし、油断はできない。

 この低姿勢のまま、花の動向を確認しつつ離脱するぞ。

 俺はそう考え、まずは彼女の方を注視する。


(……むっ!? これは……)


 花柄だ。

 花柄のパンツが目の前にある。

 彼女の豊満なヒップが丸見えだ。


 もともとやや短めのスカートを履いていることに加え、畑に水をやるために前かがみになっている。

 俺はそんな彼女の間近でしゃがんでいるので、パンツが丸見えになったというわけだ。


 ぶっちゃけ、今までにもたまに彼女のパンチラを見たことはある。

 彼女は警戒心が薄いタイプだからな。

 だが、さすがにこんな至近距離で見るのは初めてだ。

 なかなかにエロい光景である。


「ん~!」


 彼女は前かがみの姿勢を解き、伸びをする。

 パンツが見えにくくなった。


 俺は思わず、彼女のスカートの下に顔を潜り込ませる。

 条件反射だ。

 花の尻からは、どことなくいい香りがする。

 花弁の香りだ。


 しかし……。

 透明マントを羽織っていることをいいことに、かなりヤバい行動をしてしまっているな。

 いくら本人が妾に立候補しているとはいえ、こんな変態行為を俺がしているとは夢にも思わないだろう。


 バレたら、俺に幻滅して街を離れてしまってもおかしくない。

 そして花から俺の悪評が広まれば、月や雪も俺に対する評価を下げるだろう。

 さらには、ミリオンズのみんなやハイブリッジ家の配下も者たちからの俺の評価も下がる。

 それだけは避けなければならない。


 ここが潮時だ。

 俺は花のスカートの中から頭を抜く。

 立ち上がってゆっくりとその場を離れようとした。

 だが……。


「やっぱり誰かいるよね~? そこぉ~!」


「ぐあっ!!」


 花のキックが俺にヒットする。

 透明マントにより見えていなかったはずだが、気配を頼りに攻撃したのか。

 さすがはCランク冒険者だ。

 俺はそんなことを考えつつ、仰向けに倒れ込む。


「あれ~。タカシさんじゃない~。何してるの~?」


 花がそう言う。

 彼女の蹴りによるダメージにより、俺の魔力の制御は乱れた。

 透明マントの効力は霧散し、俺の存在がバレてしまっている。


「ああ、いや……。この新しい魔道具の試運転をしていてな」


「そうなんだ~」


 花がのんびりとした口調でそう言う。

 この様子だと、俺が透明マントを利用して変態的な覗き行為をしていたのはバレていないようだな。

 セーフ!

 俺が胸を撫で下ろしていると、花は何かを思い出したかのようハッとする。


「じゃあ、花ちゃんのお尻の匂いを嗅いでいたのはタカシさんなんだ~。気配や視線を感じていたんだよ~」


「ぎくっ」


 バレてるじゃねえか!

 やばいよやばいよ!

 どう言い訳しよう……?


「言ってくれれば、夜にお邪魔させてもらうけど~。昼間からはさすがに少し恥ずかしいかな~」


 花が照れたような表情を浮かべながらそう言った。

 これは……。

 許されたということだろうか?

 俺がやったのは完全な性犯罪なのだが、地位や権力で半ばもみ消したような感覚すらあるな。

 少し罪悪感がある。


「わ、わかった。近いうちに頼むことにする」


 花を妾にする件は、いろいろと自分に言い訳をして先延ばしにしていた。

 俺は女好きで衝動的にホイホイ手を出してしまうのだが、改まって約束を交わすとなると少し物怖じしてしまうのだ。


 しかし、それもここまでだな。

 花に対して、誠実に向き合う必要がある。

 いや、スカートの中を覗いたり、妾だとか言ったりしている時点で誠実ではないのだが。


 まあ、この辺りはおいおい考えよう。

 今は、透明マントの試運転の上、入浴中のジェイネフェリアを驚かせる作戦の途中だった。

 花の件で少し時間を取ったし、そろそろ浴場に向かうか。


 だがその前に、催してきたのでトイレに寄っておくことにしよう。

 あと、自室に行って着替えも用意しておかないとな。

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