569話 風呂に入っていくといい
ジェイネフェリアとの商談は無事に終わった。
『透明マント』『魔法の絨毯』『アイテムバッグ』など、便利な魔道具をたくさん入手することができた。
購入費はなかなか高かったが、今後のことを考えると必要投資だったと言えるだろう。
これで、俺の成り上がりは加速していくことになる。
Aランクへのランクアップ、騎士爵から男爵や子爵への陞爵、ハーレムメンバーの拡充。
そして最終目標である、世界滅亡の危機の回避。
その実現に向けて一歩前進することになる。
「じゃあ、僕はこの辺で失礼するんだよー。また機会があったらよろしくなんだよー」
「うむ。こちらこそ。……と言いたいところだが」
「まだ何かあるんだよー?」
「ジェイの頭や服に、少しホコリがついてしまっているぞ」
俺がこの部屋の天井を突き破ってしまった影響だろう。
あのときのホコリが、ジェイネフェリアの頭や服についているのだ。
「んー。気にするほどではないんだよー。帰ったら井戸水で流すんだよー」
ジェイがそう言う。
この世界、この国にも、風呂は存在する。
ハイブリッジ邸はもともと風呂があった物件だし、ミティの故郷ガロル村の近郊には秘湯があったし、リーゼロッテの故郷ルクアージュには海洋温泉が存在した。
ただし、一般民衆にまでは風呂に入る習慣が広まっていない。
「そうか。それなら、俺にいい考えがある」
「どういう意味なんだよー?」
「ここの屋敷には風呂があるんだ。入っていくといい」
「それはありがたい話だけど、僕が入ると騎士爵さん一家の邪魔になるんだよー」
「大丈夫だ。今の時間は誰も入っていない。それに、1人が風呂に入る程度、別に負担には思わないだろう」
風呂掃除は、主にメイドのレイン、クルミナ、リン、ロロあたりがやってくれている。
ジェイネフェリアが入浴したことによる多少の汚れ程度、特別大きな負担にはならないはずだ。
「えっ? そうなんだよー?」
「ああ。それに、汚してしまったのは俺のミスだしな。ゆっくりしていくといい」
「そういうことなら……お言葉に甘えるんだよー」
「分かった。……おおい! クルミナはいるか?」
俺は大声でそう言う。
レインは俺の部屋でまだダウンしているかもしれないし、幼いリンやロロに接客させるのも少し微妙だからな。
まあ、別に彼女たちでもちゃんと対応はしてくれるだろうし、そもそもジェイネフェリアは極端な賓客というわけでもないのだが。
「はい~。お呼びですか~? お館様~」
クルミナがやってきた。
ずいぶんと久しぶりに声を聞いた気がするが、気のせいだ。
普段から日常会話や業務連絡ぐらいはしている。
「彼を風呂場に案内してやってくれ。魔道技師として、今後も付き合うことになる大切な客だ。丁重に扱うように」
「かしこまりました~。さ、どうぞ~。ご案内いたしますね~」
「うん。ありがとうなんだよー」
ジェイネフェリアがクルミナについて、部屋の出口へと向かう。
こうして、俺は彼と別れた。
彼が風呂を上がった後、最後に一言ぐらいは挨拶しておくか。
俺はそんなことを考えながら、部屋のソファに改めて座り直した。
「……ん? こんなところにホコリが……」
俺の肩にホコリがついている。
当たり前か。
天井に激突した俺自身にもホコリがついていないわけがなかった。
そういえば、レインを責めるのに夢中で着替えるのを忘れていたな。
「ふむ……。後で俺も風呂に入るか。いや、待てよ?」
ジェイネフェリアは男だ。
別に、今入ってもいいかもしれないな。
貴族と平民が同じ風呂に入るのは少し微妙かもしれないが……。
ま、そこまで深く考える必要もないだろう。
彼はなかなか優秀な魔道技師のようだし、初っ端から裸の付き合いをして親睦を深めるのも悪くない。
彼の忠義度は、商談が順調に終わったこともあり、20台中盤に達している。
いっしょに風呂に入ることに、極端な忌避感は抱かれないはずだ。
「よし、そうと決まれば……」
俺は立ち上がる。
ふと、先ほどジェイネフェリアから購入したばかりの魔道具たちが目に入った。
「高価なものだし、とりあえず俺のアイテムルームに収納しておくか。このアイテムバッグは、誰に持ってもらおうかな……」
ミリオンズの荷物持ちは、アイテムルームを使える俺と、既にアイテムバッグを所持しているミティの2人だけだ。
3人目の荷物持ちが誕生することになる。
アイテムバッグは軽いとはいえ、戦闘時には多少の邪魔にはなる。
軽快な動きを長所とするアイリス、モニカ、ユナ、マリア、蓮華あたりには少し微妙かもしれない。
アイテムバッグには、狩った魔物の他、武器やポーションなどを入れることもできる。
ポーションを多めに入れておけば、治療魔法を使えない者でも回復役を務めることができるようになる。
その点を考慮すると、もともと治療魔法を使えるアイリス、マリア、サリエ、リーゼロッテあたりは優先度が下がるか?
総合的に考えると、ニムがいいかもな。
しかし、彼女の場合は土魔法を駆使した激しい肉弾戦闘を行うことがある。
アイテムバッグが破損するリスクがある。
マリアはどうだろう?
空を飛ぶマリアには、少しの荷物もできれば増やしたくない。
また、治療魔法を扱える彼女にとって、アイテムバッグでポーションを持ち運べるのはさほどのメリットにはならない。
しかし、アイテムバッグに大岩を入れておけるというメリットがある。
空を飛んでいる状態から大岩をアイテムバッグから取り出して落とせば、それだけで高威力が期待できるだろう。
ま、このあたりはみんなとも相談して決めようかな。
「『魔法の絨毯』も練習しておかないとな。魔道具は、何度も使ってみないと感覚が掴めないし」
そう呟き、俺は『魔法の絨毯』をアイテムボックスの中にしまった。
「練習と言えば……。こっちの『透明マント』も練習が必要か」
魔力を込めると背景に溶け込んで透明になる魔道具だ。
先ほど最低限の確認はしたが、まだ本格的には使っていない。
「そうだ。いいことを思いついたぞ。くくく」
俺はニヤリと笑い、『透明マント』を羽織る。
そして、応接室を後にしたのだった。
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