564話 魔道技師ジェイネフェリア

 とある日の朝、謎の少年がハイブリッジ邸に訪問してきた。

 彼の不法侵入に対して、キリヤが毅然と対応して地面に取り押さえているところだ。


「俺に何か用か?」


 俺は少年に声を掛ける。


「おー。騎士爵さん本人のお出ましなんて、これは話が早いんだよー」


 少年が顔をこちらに向け、うれしそうな声を上げる。


「ああ。……キリヤ、とりあえずこいつを離してやってくれ」


「ま、騎士爵サマがそう言うんならいいけどよ……」


 キリヤが手を放す。

 そして、少年が立ち上がって俺に向かって一礼した。


「初めまして。僕はジェイネフェリア。ジェイって呼んでほしいだよー」


「俺はタカシだ。それで、用件を言ってもらおうか」


 つまらない話なら、門前払いでいいだろう。

 不法侵入の件を追及して、衛兵に突き出すのもいい。


 食料を恵んでくれという話であれば、少しばかりの食料を援助してやるか。

 もちろん、来る者すべてに施しを与えてはキリがない。

 基本的には街の行政機関にそういった実務は振り分けている。

 しかし、このジェイという少年は俺に対する忠義度が既に20を超えているし、稼げるときに稼いでおきたい気持ちもある。


「僕が来たのは、騎士爵さんに僕の作品を見てほしいからなんだよー」


 作品?

 なんだそれは?

 よくわからないが、一応聞いてみるか。


「作品は何だ? 絵とか彫刻みたいなものか?」


 俺はそう言う。

 実用的でない物にあまり興味はないな。

 まあ、家があまり殺風景なのも良くない。

 値段や出来栄え次第では買ってやってもいいが……。

 俺がそんなことを考えていると、彼は首を横に振った。


「ううん。僕の作った魔道具なんだよー。僕は魔道技師なんだよー」


「ふむ。魔道具か」


「騎士爵さんは戦闘能力の高さで有名だけど、特殊な魔道具の類いはそれほど使っていないと聞いているんだよー」


「確かにそうだな」


 俺の装備を整理しておこう。

 武器:紅剣ドレッドルート

 防具:オリハルコンアーマー

 その他:光の精霊石

 以上のようになっている。


 紅剣ドレッドルートはミティに作ってもらった一級品の長剣だ。

 火魔法に対して相性がよく、『獄炎斬』『魔皇炎斬』などの必殺技の威力がさらに向上する。


 オリハルコンアーマーも、同じくミティに作ってもらった一級品の防具だ。

 軽くて頑丈な性質を持つ。


 光の精霊石は、”白銀の剣士”ソフィアから譲り受けた特殊な石だ。

 ある程度までの闇の瘴気を打ち払い、寄せ付けない効力を持つ。


 俺が標準装備している魔道具の類いはない。

 ミリオンズ内で言えば……。


 ミティが『アイテムバッグ』を、アイリスが『スプールの首飾り』を付けているな。

 マリアはかつて『意思疎通の魔道具』を付けていたが、最近は取り払っている。

 もう魔道具の力がなくとも俺たちとの意思疎通にまったく問題はない。


 後は、俺のアイテムルームやハイブリッジ邸の倉庫に保管してある魔道具もいくつかある。

 アヴァロン迷宮で手に入れた『でかくてビッグな大風呂敷-ジャンボジャンボクロス-』。

 一見するとただの風呂敷だが、広げても広げてもまだ広がる性質を持つ。

 最大サイズはかなりのものだ。


 かつてハルク男爵家から贈呈された『写し絵の魔道具』。

 現代日本で言うインスタントカメラのような魔道具だ。

 ソーマ騎士爵領の領都リバーサイドで釣りやカキ氷を楽しんだ後に、記念写真を撮ったことがある。

 それにもちろん、それ以降もたまに撮っている。

 愛する妻や大切な仲間たちとの思い出は、しっかり残しておきたいからな。


 最後に、『錆びた剣』。

 これもアヴァロン迷宮で手に入れた物だ。

 錆びていて使い物にならないが、何やらただならぬ気配を感じ取って持って帰ってきたのである。


 今は、ミティが修繕を進めてくれているところだ。

 彼女の父ダディにアドバイスや助力をもらいつつ、日々がんばってくれている。

 こうして整理してみると、俺たちミリオンズは魔道具の類いを戦闘にあまり活かせていない。


「僕の魔道具が役に立つかもしれないんだよー。だから、ぜひ見てみてほしいんだよー」


「なるほど。まあ、いいだろう」


 俺はそう答える。

 魔道具に興味はある。

 そして、このジェイネフェリアという少年自体にも興味があったのだ。

 忠義度がそれなりに高いし、中性的な容姿も気に入った。

 俺はキリヤに目配せをする。


「わかった。とりあえず、応接室に案内するぜ」


 キリヤがそう言って、屋敷の中へ入っていく。

 俺もそれに続きながら、ジェイネフェリアに対して尋ねる。


「ところで、ジェイ。お前、どこの出身なんだ? その喋り方は独特だな」


「これは僕の癖だから気にしないでほしいんだよー」


「ふむ。つまり、遠方出身などではなく、このラーグの街の住民なのだな?」


「そうだよー。工房にこもりがちだから、騎士爵さんを見たのは今日が初めてなんだよー」


 ジェイがそう言う。

 俺は2年ほど前にこの世界に転移した。

 そして、最初に訪れたのがこのラーグの街だ。

 その後は様々な街を旅をしてきたが、基本的にはここを拠点に活動している。

 タイミングが合えばジェイと会っていてもおかしくなかった。


「ジェイ。お前の魔道具とやらに期待しているぞ」


「うん。よろしくだよー。騎士爵さん」


 そんな会話を交わしつつ、俺たちは応接室に入ったのだった。

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