514話 昼休憩
ハイブリッジ家のトーナメントが開催されている。
「さあ! ついにベスト4が出揃いました! ここで今一度、ハイブリッジ騎士爵家配下の最強の4人をご紹介致しましょう!」
「「「おおおおぉっ!!」」」
司会のネリーの言葉を受けて、会場は大いに盛り上がる。
最強……というとやや大げさな気もする。
近接戦において最強クラスのアイリスとモニカが謎の体調不良により出場を辞退しているからな。
それに、遠距離攻撃や魔法に秀でているタイプのユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテも出場していない。
今回残った4人が強いことは確かだが、最強の4人と言うと言い過ぎである。
だが、ここで水を差すのはやめておこう。
せっかく盛り上がっていることだしな。
「まずは一人目! ミティ第一夫人様です! 一回戦でCランク冒険者のツキ選手、二回戦でミリオンズの仲間であるニム様を破っています! その圧倒的な破壊力に加え、風魔法も高いレベルで使いこなされます! 優勝候補ナンバーワンでしょう!!」
「ふふ……。優勝して、タカシ様にまた可愛がってもらいます!」
ミティがそう意気込む。
優勝せずとも、いつでも可愛がっているつもりなのだが。
俺の周りには女性がずいぶんと増えたし、ミティも少し寂しがっていたのかもしれないな。
もっとスキンシップをとるようにしよう。
「続いて二人目! 筆頭警備兵のキリヤ選手です! 一回戦ではメイドのレイン選手を相手に順当勝ちを収めました。そして二回戦では、何とあのミリオンズ新メンバーである蓮華選手を死闘の末に破りました! この勢いのまま、勝ち進むことができるでしょうか!?」
「ふん。優勝したら金をたんまりもらうことにするぜ。遊んで暮らして……いや、剣を新調するのもありだな……」
キリヤがそんなことをつぶやいている。
彼は、もともとヴィルナのヒモ同然の生活をしていた。
優勝賞金で遊び呆けるつもりか。
せっかく真人間になりつつあったのに。
ヴィルナが聞いたら泣くぞ。
武器の新調にしておけ。
いや、剣は仕事に必要なものなのだろうし、優勝賞品とは別に用意してやる方がいいかもしれないが。
「お次は三人目! 一般警備兵のヴィルナ選手です! 一回戦では重鎮執事のセバス選手を、二回戦ではCランク冒険者のハナ選手を破りました! この快進撃はどこまで続くのか~!?」
「うう……。私だけ場違いな気がしますね……。皆さん、強そうです……」
ヴィルナが萎縮している。
確かに、彼女はこの大会の参加者の中でも、やや戦闘能力において見劣りする。
だが、それは仕方がないのだ。
彼女の得意分野は索敵や探知だからな。
それでもベスト4まで残れたのは、大健闘と言っていいだろう。
「最後に四人目! 王都の騎士団の元団員のナオン選手! 一回戦でオリビア選手を、二回戦で主任警備兵のクリスティ選手を下しました! 小隊長の名は伊達ではない! 実力を示して、ハイブリッジ騎士爵家の一員として認めてもらうことができるか!?」
「相手にとって不足のない者ばかり……。油断せずにいきます」
ナオンが静かに闘志を燃やしている。
「さあ! さっそく準決勝戦を行います……と言いたいところですが、ここでお昼休憩となります!」
今は昼を少し過ぎたくらいだ。
ここらで腹ごしらえをしておいてもらおう。
俺は、ミティやニムたちミリオンズの面々と集まる。
「やあ。ミティは順調に勝ち残っているね。あんまり無理しないようにね?」
アイリスがそう言う。
彼女は体調不良により出場を辞退した経緯がある。
「だいじょうぶです。今日は調子がいいので。むんっ!」
「それならいいけどね。私がつくった料理を食べて、力をたくわえてよ」
モニカがそう言って、大きなバスケットを渡している。
中にはサンドイッチが入っているようだ。
具材はハムチーズサンド、卵サンド、ツナマヨサンドなど、定番の品々が見える。
「おおぉ~! これは美味しそうです! ありがとうございます! いただきまあぁす!」
ミティがガツガツと食べ始める。
「す、すごい食欲ですね……。やはりミティさんのパワーの秘訣は食にあるのでしょうか……。わたしも負けてられません!」
ニムが負けじと食べ始める。
「わあい! マリア、モニカお姉ちゃんのお料理大好き!」
「わたくしもですわ。観戦を楽しんで、青空の下でおいしい料理を食べる……。すばらしい日になりましたわ~」
マリアとリーゼロッテがそう言う。
彼女たちは試合に出ていないし、やや暇を持て余しているかと思ったが。
意外に楽しんでくれているようだ。
「拙者もまだまだ修行不足を痛感したでござる。きりや殿の試合を見させてもらうことにしよう。そして、たかし殿。今後もともに鍛錬をよろしく頼むでござる」
「ああ、もちろんだ」
蓮華の向上心は強い。
故郷の大切な人を守るために強くなろうとしているのだったか。
俺としても、彼女と親睦を深めて通常の加護の条件を満たしたい気持ちはある。
そんな感じで、俺たちミリオンズは午後からの試合に向けてゆっくりと昼食を味わった。
少し離れたところでは、ナオンが昼食をとっている。
王都から連れてきたという5人の部下たちもいっしょだ。
「ナオン隊長。応援しています!」
「隊長ならきっとできますよ!」
「ああ。任せておいてくれ。しかし、私はもう隊長ではないのだがな……」
ナオンがそう言って苦笑する。
彼女が小隊長を務めていたのは、王都の騎士団においてだ。
このハイブリッジ騎士爵領においては、まだ特定の役職に就いていない。
だが彼女の実力なら、この街でも何らかの隊の隊長を任せても問題ないように思える。
そして、さらに離れたところでは、キリヤとヴィルナがいっしょにいる。
「ふっ。腹が減ったぜ」
「もう。やっぱり、何も持ってきていないのですね。相変わらず計画性がないんですから……」
ヴィルナが呆れ顔で言う。
「うるせえな。いいじゃねえか。俺にはお前がいるんだから」
「えっ!? キリヤくん、それって……」
「どうせ、俺の分の弁当も持ってきてくれているのだろう? 早く食おうぜ」
「がっくし。まったくあなたときたら……。まあ、持ってきてますけどね……」
ヴィルナが二人分の弁当を取り出す。
そして、彼女たちは仲良く昼食をとり始めた。
そんな感じで、昼休憩の時間は過ぎていった。
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