515話 ミティvsキリヤ
ハイブリッジ家のトーナメントが開催されている。
昼休憩を挟み、続きが行われようとしているところだ。
「皆さまお待たせ致しました! これより準決勝戦を行います! ミティ様対、キリヤ選手です!!」
ネリーがそう叫ぶ。
ミティとキリヤがそれぞれステージに向かう。
ミティは武器を持っていない。
ストーンハンマーが二回戦で壊れてしまったからな。
「解説席のお二方、この組み合わせについて、いかがですか?」
「ふふん。もちろんミティが有利! と言いたいところだけど……」
「だけど?」
「彼女は組み合わせ運が少し悪かったわ。二回戦でニムちゃんと当たって相当消耗しているわね」
ユナがそう言う。
平等を期してくじ引きで決めたのだが、それがミティにとっては悪い方向に働いた。
また、俺やアイリスの治療魔法を彼女に掛ければ消耗を回復できただろうが、それもしていない。
本人の意向だ。
これは身内だけの大会だし、勝利だけが目的ではないからな。
「なるほど。一方、キリヤ選手は比較的体力が残っているでしょうか?」
「いえ。彼も二回戦の蓮華さんとの戦いで消耗しています。ヘトヘト同士の戦いがどうなるか、予想ができないところですね」
サリエがそう言う。
ミティとキリヤの状態がそれぞれ万全なら、ミティが有利だろう。
しかし、両者が疲労困憊ならどうか?
また少し有利不利が変わってくる。
キリヤが勝つ可能性もあるかもしれない。
「なるほど! それでは、両者とも準備はよろしいでしょうか? …………始め!」
ネリーの合図で、戦いが始まった。
「時間は掛けてられません! 短期決戦です! むんっ!!」
ミティは開始と同時に投石を繰り出す。
「おおおぉ!」
キリヤも迎え撃つ構えを見せる。
その手にはすでに双剣が握られている。
「はあっ!」
「おりゃあ!」
ガキンッ!
キリヤが双剣で石をいなす。
「まだまだです!」
「うおっ!?」
ミティは石を投げる手を休めない。
一方のキリヤも、次々と迫りくる投石を見事に防いでいる。
うーむ。
これは、ミティが有利そうだな。
この攻防において、キリヤは一回のミスが命取りになる。
対するミティは、多少ミスったところで致命的ではない。
次の投石を繰り出せばいいだけだからな。
彼女のアイテムバッグには石がまだまだ入っているだろう。
それに、彼女は体力もある。
加護による基礎ステータスの2割向上に加えて、体力強化レベル1を取得済みだからな。
いくら二回戦で消耗しているとはいえ、それはキリヤも同じだ。
このままだと戦況はミティ優位に傾いていくはず。
俺はそう思った。
しかし……。
「はぁ……はぁ……。しつこい奴ですね……」
「ぜえ……ぜえ……。それはお互い様だぜ。いつまでも投げ続けやがって……」
両者とも同じくらい息が上がっている。
妙だな?
ミティがこれほど体力を消耗するとは。
二回戦の消耗が俺の想像以上だったのだろうか。
それとも、キリヤの体力が想定以上だったのか。
ミティは、投石の手を緩めたくないだろう。
近接戦闘になれば、手ぶらの彼女は双剣使いのキリヤを相手に劣勢になるだろうからな。
二回戦でストーンハンマーが壊れたのが悔やまれる。
「持久戦もいいですが……。これで決めてあげます!!」
ミティが闘気の出力を上げる。
ニムとの二回戦で相当消耗していたし、なけなしの闘気だろう。
「ビッグ……」
彼女が巨石を振りかぶる。
「メテ……。うっぷ」
しかし、途中でなぜか吐き気が襲ってきたようだ。
彼女は動きを止めてしまった。
「おい! 大丈夫か!?」
俺は急いでステージ上に駆け寄る。
俺の大切なミティ。
もはや試合どころではない。
「うぅっ……。気持ち悪いです……」
「サリエ! ミティを看てやってくれないか!?」
俺がそう叫ぶと、すぐにサリエがやってきた。
「ミティさん、お薬です。これを飲んで落ち着いてください。治療魔法も掛けますね」
サリエが水筒に入ったポーションを差し出す。
ミティはそれを受け取り、飲み干した。
そして、治療魔法の効果により、少し落ち着いたようだった。
「ありがとうございます。もう、平気です」
「やっぱり、こんなときにムチャしたらダメですよ。ナックさんから経過観察と言われていますのに」
「うう……。わかってはいたのですが、最近は体調がよかったのでつい……」
サリエの注意を受けて、ミティがしゅんとする。
「ミティ、とりあえず今日はここで終わりだ。いいな?」
「はい。わかりました。棄権しますね」
彼女が棄権を宣言する。
容態は落ち着いたようだし、試合にさえ出なければ今日のところは問題なさそうか。
観客席でゆっくりと試合を観戦してもらうことにしよう。
念のため、医師のナックを呼び寄せる指示だけしておく。
「ミティ様がご棄権を宣言されました! よってこの試合、キリヤ選手の勝利となります!!」
ネリーがそう叫ぶ。
「ふっ。助かったぜ。正直ギリギリだった。立っているのもやっとだぜ」
キリヤが足をぷるぷるさせながら、選手の控え席に戻る。
「キリヤくん、ナイスファイトです! 応援していましたよ!!」
「ヴィルナか。もちろん聞こえていたぜ。応援ありがとな。決勝で会おう」
「ええ。私も次の試合を勝てれば決勝戦です。ここまでくれば、自分の全てを出し切ります!!」
ヴィルナが力強くそう言う。
彼女が出場する準決勝第二試合にも、注目させてもらおう。
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