513話 ヴィルナvsハナ、ナオンvsクリスティ

 ハイブリッジ家のトーナメントが開催されている。

 次は二回戦の第三試合だ。


「さあ! 会場の興奮はどんどん高まっております! 続きまして、警備兵ヴィルナ選手対、Cランク冒険者のハナ選手! 両者とも女性同士の対戦となりました!」


「「「ワアァ~ッ!!!」」」


 観客たちが盛り上がる。

 この世界には闘気や魔力という概念がある分、男性と女性の戦闘能力の差はさほどない。

 しかしどちらかと言えば、冒険者や兵士などの危険な職に就くのは男性の方が多い。

 強力な女性同士の試合を見れる機会は、ややめずらしいのだ。


「それでは試合開始!!」


 ネリーの合図とともに、ヴィルナとハナが戦い始める。

 美人な二人の戦闘姿は見ごたえがある。


 …………ん?

 よく考えれば、今回の大会の女性比率は相当に高いな?

 参加人数は男女合わせて16人。

 男性は、キリヤ、ネスター、セバス、トミーだけだ。

 他は全員女性である。

 ミティ、ツキ、ニム、ヒナ。

 レイン、蓮華、ヴィルナ、ハナ。

 ナオン、オリビア、クリスティ、ユキだ。


 今大会の参加者は、全員が俺の関係者や配下、もしくは配下志望の者だ。

 俺の女好きが如実に表れてしまった格好である。

 加護の件を考えると、忠義度を比較的稼ぎやすい若い女性を優先的に配下に登用し重用することは間違ってはいない。


 しかし、こうして露骨に数字に出ているのを見ると、何とも言えない気分になるな。

 まあ、16人中16人が女性だったりしなかっただけ、まだマシだと考えておこう。

 数少ない男性である、キリヤ、ネスター、セバス、トミーの今後の活躍に期待したい。

 特にキリヤは一回戦と二回戦を突破しベスト4に入っているし、期待できるだろう。

 俺がそんなことを考えている間にも、試合は進んでいく。


「はああぁっ!!」


「えい~」


「うぐっ! まだです!」


「きゃっ!」


 二人の戦いはかなり拮抗した様子を見せている。

 どちらもなかなか良い勝負をしているな。


「く……中々やりますね」


「そちらこそ~」


 ヴィルナとハナがそう言う。

 ヴィルナの冒険者ランクはDで、戦闘よりも索敵や探知が得意なタイプだ。

 一方のハナのランクはCで、植物魔法などによる攻撃が得意なタイプのようである。


 どちらかと言えばハナが格上な気もするが……。

 ヴィルナもここ最近でずいぶんと実力を上げているようだ。

 まあ、アイリスやモニカから武闘の指導を受ける機会がたくさんあるし、同じく植物魔法の使い手であるサリエと情報共有する機会もあるからな。

 ハイブリッジ家の配下の者は、加護の件を別としても、成長機会にとても恵まれることになる。


「はっ! せいやぁっ!!」


「ひゃあ。あう~」


 ヴィルナの蹴りが決まり、ハナが吹き飛ばされている。

 ハナが場外に転がる。


「そこまで! 勝者ヴィルナ選手!!」


 実況のネリーがそう叫ぶ。

 ヴィルナが勝ったか。

 少しだけ意外だ。




「続きまして、二回戦最後の試合です! 王都騎士団の元団員のナオン選手対、ハイブリッジ家主任警備兵のクリスティ選手! はたしてどちらが勝つのか!?」


「「ワアァ~ッ!!」」


「「キャー!」」


 観客たちの歓声が一段と大きくなる。


「それでは試合開始!!」


「やあやあ! 我こそはナオン! いざ尋常に勝負せよ!」


 名乗りを上げる彼女に対して、クリスティは……。


「はん。しゃらくせえ! 『赤猫族獣化』!!!」


「「おおぉっ!!!」」


 クリスティの体が赤い光に包まれていく。

 光が収まると、そこにはネコ耳の生えた赤色の毛並みをした女戦士がいた。

 いや、もともと彼女はこういう外見なのだが。

 猫耳がより強調され、髪色の赤みが増し、全体的に荒々しく野生っぽい雰囲気になっているのである。


 それにしても、一回戦で奥の手として披露したこの技をいきなり使用するとは。

 ナオンがそれだけ厄介な相手と判断したのだろうか。

 まあ、クリスティは一回戦も激戦で消耗していたからな。

 これ以上出し惜しみしている余裕はない。


「ほう。それが噂の獣化というやつか」


 ナオンは特に驚いたような顔を見せず、落ち着いた態度を見せる。

 しかし、その声音には若干の緊張が混じっている。

 ナオンは真剣勝負の経験が少ない。

 騎士団における鍛錬や模擬試合、それに王都近郊の魔物退治くらいなものだろう。

 もちろん今回の大会も命までは賭けていないのだが、それでも優勝賞品を目指してみんなが全力で取り組んでいる。

 勝利に貪欲なクリスティに対峙して、緊張しない方が難しい。


「いくぜえっ! おらあっ!!」


「ふんぬぅ!」


 二人の激しい打ち合いが始まった。

 クリスティの武闘に対して、ナオンの剣術。

 両者とも互角に見える。

 だが……。


「うりゃああぁ!!」


「ぐっはあぁ!」


 一瞬の隙をついて、ナオンが剣戟を繰り出す。

 そして、クリスティはそのまま場外へと弾き飛ばされてしまった。

 彼女の獣化状態が解ける。


「そこまで! 勝者、ナオン選手!!」


「「ワアァ―――!!」」


「「きゃあぁ~!!」」


「「いいぞおぉ!!」」


 会場内が再び盛り上がりを見せている。


「さすがは騎士団の元団員ですね。安定した実力を持っているようです」


「ふふん。そうね。クリスティちゃんは、一回戦に続いての獣化で、体力が限界だったようね。あれは体力を消耗するから」


 解説のサリエとユナがそう言う。

 これはトーナメントなので、組み合わせ運による有利不利は当然ある。

 ナオンとクリスティが互いに万全の状態から戦っていれば、また違った結果になった可能性はある。


 何にせよ、これで二回戦は全て終わった。

 ミティ、キリヤ、ヴィルナ、ナオン。

 これが今大会のベスト4である。


 はたして、優勝して望みを叶えるのは誰になるのだろうか。

 あんまりムチャな願いは、俺には叶えられない。

 常識人が優勝することを祈っておこう。

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