482話 顔合わせ

 ラーグの街の自宅に帰還した。

 セバス、レイン、クルミナ、トリスタなどが出迎えてくれたところである。


「へへっ。これがタカシの旦那の屋敷で働く皆さんですかい?」


「なかなかの粒ぞろいのようね。まっ、Cランク冒険者であるこのツキ様ほどではないけど!」


 トミーとツキがそう言う。

 確かに、俺の配下の者たちと比べても、既にCランク冒険者であるトミーや雪月花は優秀だと言っていいだろう。


「お館様。彼らは?」


 セバスがそう問う。


「ああ、紹介が遅れたな。彼らはこの街を拠点にしばらく活動してくれるようになったCランク冒険者だ。まずは……」


「俺は、トミーですぜ! タカシの旦那に忠誠を誓った身でさあ!」


 トミーがそう言う。

 忠誠を誓う?

 少し大げさだと思う。

 まあ、忠義度30台なのでまるっきり嘘というわけでもないのだろうが。


「私はツキ! いずれハイブリッジ騎士爵の妻になる女よ! ひれ伏しなさい!」


 こちらも大げさだ。

 俺と彼女はまだまだそんな仲ではない。

 忠義度も20台だしな。


「ひいぃ。奥様になられる方でしたか」


 7歳の奴隷少女リンがそう言って恐れおののく。

 彼女はかつて片目を失明していた。

 俺とアイリスの治療魔法により、『ぼんやりと光が見える』程度まで回復したという過去を持つ。


「…………(ぺこり)」


 孤児院出身である6歳の無口少女ロロが頭を下げる。

 2人とも、正直にツキの妄言を信じてしまっているようだ。


「ちなみにハナちゃんもその予定だよ~」


「……僕も……」


 ハナとユキがそう乗っかる。


「へえ。さすがは騎士爵様。並外れた女好きですね……」


「よせ、トリスタまで信じるな。彼女たちが勝手に言っているだけだ。領地開発で人手が足りないだろうと思って勧誘して来てもらったのだ」


 俺はそう言う。


「ふうん。確かに、人手は足りていませんね。よし、僕が仕事を見繕いますよ」


「よろしく頼むぞ」


 トリスタは読書家であり、並外れた知識を持つ。

 それがそのまま仕事に活かせるとも限らないのだが、トリスタはそこそこうまくやっているようだ。

 労働嫌いなのが惜しいな。


「ピピッ! 個体名:セバス、トリスタ、リン、その他複数の情報を登録します」


「ああ、しっかり覚えてくれ」


 ハイブリッジ家もずいぶんと大所帯になった。

 顔と名前を覚えるだけでも大変だろうが、高性能ゴーレムであるティーナにとっては簡単なことだろう。


「私は覚え切れないなあ。タカシとユナだけしかわかんないよ」


 ファイアードラゴンのドラちゃんがそう言う。

 彼女は人間の個体差をまだしっかりと把握できていない。

 テイムで直接的に繋がっているユナ、それに異世界言語のチートにより普段から会話をしている俺以外は、顔と名前が一致しない。

 ミティやアイリス相手でさえ、ややあやふやなのだ。


「そのうち覚えられるだろう。間違っても、攻撃したりしないようにな」


「わかった!」


 ドラちゃんが元気よくそう返事をする。


「ええっとぉ。そのトカゲさんはいったい……?」


 リンがおずおずとそう尋ねる。

 ドラちゃんの声は、ドラゴンの鳴き声に魔力を乗せて発している感じだ。

 俺とユナ以外、完全に理解できるものはいない。


 魔力の感知能力に秀でている者であれば、何となくのニュアンスはわかるだろうが。

 常人にはドラちゃんの声はただトカゲが鳴いているようにしか聞こえない。

 リン視点では、俺はトカゲと会話をしているヤバいやつである。


「このトカゲはドラちゃんだ。俺やユナと仲良くしている」


「へえ! 可愛いトカゲさんですね!」


「何だかのんびりした顔をしているね~」


 レインとクルミナがそう言う。

 ドラゴン形態では凛々しいドラちゃんだが、トカゲ形態では温厚でのんびりした雰囲気がある。

 癒やし系だ。


「ドラちゃんもこの屋敷で暮らしてもらおうと思っている。見ての通り非常に温厚だが、怒らせると暴れる可能性もある。戦闘能力は高いので、万が一にも怒らせないように」


 俺はそう注意喚起をする。

 ドラちゃんが本気を出せば、ラーグの街が灰燼に帰す可能性すらある。

 よく考えれば、結構リスクが高いな。

 まあ、それ以上のリターンがあると考えて連れてきたのだが。


「よろしくねっ! みんな!」


 ドラちゃんがそう吠える。

 俺とユナ以外には言葉が通じていないはずだが、友好の雰囲気は伝わったようだ。

 ハンナとロロが近づいてくる。


「トカゲの世話をするのは初めてですが……。馬の世話で培った経験を活かして、がんばりますね」


「…………(さわさわ)」


 ロロがドラちゃんの頭をなでている。

 巨大トカゲに気軽に触れるとは、なかなかの度胸だな。

 ドラちゃんも心地よさそうにしているし、うまくやっていけそうだ。


「(うふふ……。わたしのお屋敷……。またにぎやかになった……。みんなと仲良くしたいな……)」


 どこからともなく声が聞こえた。

 だれの声だ?

 はっきりとしない。


「(みんなから少しずつ魔力をもらって……。ずいぶんと回復できた……。そろそろ実体化できるかも……)」


 また声が聞こえた気がする。

 しかし、邪悪な気配は感じない。

 今すぐどうこうすべき事柄でもないだろう。

 折を見て、アイリスあたりと相談して対処にあたってみよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る