448話 付き合ってそうで付き合っていない2人

 海水浴の続きだ。

 俺はリーゼロッテやサリエたちと砂浜でのんびりしている。

 その他、それぞれが思い思いに過ごしている。


「あはは。モフモフのみんな~! いっしょに遊ぶよー!」


 アルカが従魔たちを召喚していく。

 くまっち、とらっち、うるふっち、きめらっちだ。

 他にも、俺が知らない魔物が数体いる。

 なかなかにぎやかだ。


「ふふん。そういえば、彼女はテイムの上級者だったわね」


 俺の隣でくつろいでいるユナがそう言う。


「そうだな。”ビーストマスター”の二つ名を持つくらいだし」


「ちょっとアドバイスをもらってくるわ! いくわよ、ドラちゃん!」


「わかった!」


 ユナが立ち上がり、アルカのもとへ向かう。

 さらに、ドラちゃんが後に続く。

 もちろん今のドラちゃんはドラゴンフォルムではなく、巨大トカゲフォルムだ。


 ユナのテイム術はレベル5。

 既に達人の領域にある。

 アヴァロン迷宮では、ファイアードラゴンのドラちゃんのテイムに成功したほどの実力を持つ。

 ただし、知識や経験はまだまだのところがある。

 テイマーとしての先輩であるアルカに助言をもらえれば、学ぶことも多いだろう。


「ふふん。ちょっといいかしら、アルカさん。ウォルフ村ではお世話になったわね」


「ん? そう言う君は……。ええっと、ユナさんだったね。何か用?」


 アルカがそう問う。

 ユナとアルカは、ウォルフ村の一件の際に少しだけ交流を持った。

 レッドウルフのテイム目的で村に侵入したアルカと、ひと悶着あったのだ。

 最終的には彼女を味方に引き込むことに成功したが。


「テイマーの先輩として、助言をいただけるかしら?」


「あはは。ファイアードラゴンをテイムしちゃうような人に、僕が教えられるかなあ」


 ドラちゃんの正体がファイアードラゴンであることは、同行していた冒険者たちには知られている。

 また、冒険者ギルドにも報告済みだ。


「ドラちゃんをテイムできたのはいろいろと好条件が重なったからよ。まだまだ学ぶことは多いわ」


「そう。なら、僕にできるアドバイスをしてあげるよ。でも、その代わりに……」


「その代わりに?」


「そのドラちゃんに触らせて……ううん、乗らせてよ。モフモフ度は足りないけど、ドラゴンに接するチャンスなんて滅多にあるもんじゃないからね。今の見た目はトカゲだけど」


 アルカは動物との触れ合いに目がない。

 第一はモフモフしている動物だが、それ以外にもそこそこの興味があるようだ。

 リトルクラーケンに対しても、テイムしたいような空気を少し出していたな。


「ふふん。それぐらいならお安いご用よ。ねえ? ドラちゃん」


「いいよ!」


 ドラちゃんが元気よくそう答える。

 そんな感じで、ユナ、ドラちゃん、アルカが交友を深めていく。

 ドラちゃんの背中に乗り、アルカはご満悦だ。


 彼女は今回、選別試験、アヴァロン迷宮の攻略、リトルクラーケン戦において極端に目立つ活躍はなかった。

 しかし、実力は確かだ。

 彼女から学ぶことは多いし、交友を深めておけばいざというときの連携にも好影響が期待できるだろう。



 彼女たちから少し離れたところでは、1組の男女が火花を散らしている。

 兎獣人のストラスと、オーガのセリナだ。

 ストラスは”嵐脚”、セリナは”敏捷”の二つ名を持つ。

 両名とも、脚力に自信を持っている。


「へっ。ビーチフラッグは久々だな。今回は負けねえぜ。俺は成長したからな」


 ストラスがそう言って、砂浜に旗を立てる。


「ストラス君は確かに成長しているの。でも、自分も成長しているの。簡単には負けないの」


 セリナがそう言い返す。

 この2人の馴れ初めは、ハガ王国の湖水浴におけるビーチフラッグにまで遡る。

 その試合で、ストラスはセリナに負けた。

 それから彼はしつこくセリナに食い下がるようになったのである。

 対するセリナも、ストラスのことを憎からず思っている様子だ。


 くっつくのも時間の問題だと思っていたが……。

 まだ付き合っていないのだろうか?

 じれったいな。

 ちょっとやらしい空気にしてこようか……。

 俺がそんなことを考えているうちに、ビーチフラッグ勝負が始まった。


「へっ。まずは俺が1本だぜ!」


「なかなかやるの。次は、自分も本気を出すの」


 セリナが鬼族鬼化の技を使う。

 オーガとしての特性が強化され、身体能力なども向上するのだ。


 ……まあ、楽しそうに勝負しているしいいか。

 彼女たちには彼女たちのペースがある。

 俺がとやかく言うことでもあるまい。


 俺は彼らの様子を温かく見守る。

 さらに、他にも彼らを見守る者がいた。


「やれやれ相変わらず熱い2人だな……。カイルとレベッカも2人の世界に入っているし……」


 ”雷竜拳”マクセルだ。

 彼が率いる冒険者パーティ”疾風迅雷”の構成員は6名である。

 ストラスとセリナが半ば付き合っている状態。

 さらに、カイルとレベッカは公然と付き合っている。

 残されたマクセルは、気まずい気持ちになることも多いだろう。


「ふふ。マクセルさん。私といっしょにゆっくりしましょう」


 いや、カトレアがいたか。

 ミティの幼なじみである、ドワーフの少女だ。

 闇の瘴気の影響とはいえミティに迷惑をかけたことを反省して、自分探しの旅に出ているのだ。


「ああ。俺の癒やしは、カトレアさんだけだよ。ありがとう」


 マクセルがそう言う。

 この2人はこの2人で、何だか進展しそうな気がするな。

 彼はストラスほどのヘタレではないし、意外にこっちの結婚のほうが早いかもしれない。


 俺がホッコリする気持ちで彼らを眺めているときーー。

 視界の隅で、だれかがコソコソ動いている様子が目に入った。


「(このままじゃ済まさないわよ。見てなさい、ハイブリッジめ!)」


「(ふふ~。準備は完璧~)」


「(……成功するかなあ……)」


 順に、ツキ、ハナ、ユキ。

 冒険者パーティ”雪月花”の面々だ。

 何か企んでいるのか?


 企みを潰しておこうか。

 そう思ったがーー。


「ふぁああ……。日光が気持ちいいな……」


 俺は既にまどろみの中だ。


「ええ……。ゆっくり休みましょう……」


「最高ですわ~」


 サリエとリーゼロッテも同様である。

 俺は、彼女たちとともにうたた寝し始めた。

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