447話 我々に語りかけるな。貴様は、我々の仲間ではない

 みんなでルクアージュの海水浴場にて楽しんでいるところだ。

 ミリオンズの他、アヴァロン迷宮に挑戦していた冒険者たちがほとんど来ている。

 そして、ラスターレイン伯爵家の面々の姿もある。


「タカシさんにアピールをする、絶好のチャンス……! ですが、お姉様と普段からいい雰囲気なのが気になるところです」


 俺から少し離れたところにいるシャルレーヌが、小声でそうつぶやく。

 普通なら聞こえないぐらいの声量だが、俺は聴覚強化のスキルを伸ばしているので聞こえるのだ。


 しかし、シャルレーヌは俺にアプローチをしようとしているのか?

 確かに、彼女の忠義度は30を超えている。

 なかなかの数字だ。


 以前、女性や年下の者ほど忠義度が上がりやすいのではないかという仮説を立てた。

 今のところ、全体的にその仮説の通りの傾向はある。

 シャルレーヌの忠義度が高めでも、おかしいというほどではない。

 彼女たちとの戦闘後に、ちょっとした出来事もあったしな。


「我が娘、シャルレーヌよ。リーゼロッテに遠慮する必要はないぞ。ハイブリッジはあれほどの男だ。今さら1人増えたところで構わぬだろう」


「ええ。それに、ラスターレイン伯爵家としても悪いことではありませんわ。特定の新興貴族家に肩入れし過ぎるのはマズいですが、彼は別格ですから」


 リールバッハとマルセラがそう言う。

 彼らは、リーゼロッテやシャルレーヌの両親である。

 ファイアードラゴンや闇の瘴気の件で、彼らからの信頼と評価を勝ち取ることができた。

 なかなかの好感触である。


「その通りですね。可愛い妹を2人を取られるのは癪ですが、彼には恩もあります」


「へっ。ロイゼ兄、リーゼのことを散々無能呼ばわりしていたくせによ」


 長男のリカルロイゼと次男のリルクヴィストがそう言う。


「出来の悪い妹ほど可愛いものです。……ああいえ、もちろん出来のいいシャルレーヌも可愛いですよ。それに、リーゼはいつの間にか私たちの水魔法を超えているようですし」


 リカルロイゼからは少し嫌味な雰囲気を感じ取っていたのだが、今は普通の印象を受ける。

 むしろ、物腰柔らかで丁寧な好青年である。

 闇の瘴気の影響で、少し性格が悪くなっていたようなイメージだろう。 


「わかりました。タカシさんの愛を勝ち取ってみせますっ!」


 シャルレーヌが気合を入れた様子でこちらに向かってくる。

 俺はどう対応すべきなのだろう?

 

 俺のパーティメンバーにはたくさんの女性がいる。

 俺と結婚済みのミティ、アイリス、モニカ。

 婚約済みのニム。

 結婚話が具体的に持ち上がっている、ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテ。

 加護(小)の付与に成功し、今後しばらくはミリオンズとして活動する予定の蓮華。

 ここにシャルレーヌが加わってもいいものかどうか。


 あまり無節操に女性を受け入れ過ぎるのは良くない気がする。

 しかし、今さら感はあるか。

 ここまで来たら、1人ぐらい増えても問題ないだろう。

 たぶん。


 ゆっさゆっさ。

 シャルレーヌが巨乳を揺らしながらこちらに歩いてくる。

 リーゼロッテほどではないが、彼女の胸もなかなか大きい。

 マルセラもそうだったし、遺伝か。


「タカシさ……、あうっ!」


 シャルレーヌが何もないところでつまずく。

 彼女が俺に倒れ込んでくる。


 むにゅっ!

 柔らかい感触だ。

 胸に加えて、腹や二の腕など全身が密着している。


 先ほどサリエたちに塗ってもらった日焼け止めがいい感じにヌルヌルしている。

 気持ちいい。

 いや、こんなことを考えている場合ではない。


「だいじょうぶか? シャルレーヌ」


「す、すみません……。粗末なものを押し付けてしまって」


「いや、すばらしい感触だった」


 俺は思わずそう言う。

 シャルレーヌは顔を赤くしつつも、ややうれしそうな雰囲気だ。

 そして、そんな俺たちを少し離れたところから見る者が3人いる。


「うう……。みなさん、胸が大きすぎです……」


「気持ちは同じでござるよ。にむ殿。拙者も肩身が狭いでござる……」


 まずは、ニムと蓮華だ。

 彼女たちの胸は、ミリオンズの中でも小さいほうである。

 まあニムはまだ12歳だし仕方ないだろう。


 蓮華は……。

 あまり大きくない。

 エルフの特性だろうか。

 もしかすると、今後も成長の見込みがないのかもしれない。


 まあ、俺としてはサイズに特段の拘りはないので問題ないのだが。

 みんな違ってみんないい。

 世界に1つだけの胸さ。


「ふん。いくらなんでも女好きが過ぎるぞ。サザリアナ王国の面汚しめ」


 3人目の、ベアトリクス第三王女がそう言う。

 彼女から俺に対する心象が悪いようだ。

 マズいぞ。

 ネルエラ陛下にあれこれ吹き込まれたら、俺の成り上がり計画に悪影響が出るかもしれない。


「べあとりくす殿も、拙者たちの仲間でござるな……」


 ぽん。

 蓮華がベアトリクスの肩に手を置き、そう言う。


「そ、そうですね……。王女様相手に恐れ多いかもしれませんが、いっしょに大きくする手段を考えましょう」


 ニムが哀れみの目でベアトリクスを見ている。


「ええい! 我は胸の大きさなど気にしてはおらぬ! 哀れみの視線を向けるな!」


 ベアトリクスがそう叫ぶ。

 彼女はかなりの貧乳だ。

 いや、王女にこんなことを言ったら不敬なので絶対に言わないが。


 蓮華、ニム、ベアトリクスの3人が騒いでいる。

 そこに、さらに1人の女性が近づいてきた。


「どうしたの~。女の子たちで集まって~。フレンダちゃんも混ぜて~」


 ”魅了”のフレンダだ。

 いつもは多くの男性冒険者を侍らせているが、たまには女性とも交流を深めようといったところか。

 彼女が豊満な胸を揺らしながら、ベアトリクスたちの元へ向かう。

 しかしーー。


「……我々に語りかけるな。貴様は、我々の仲間ではない」


 ベアトリクスが冷たい目でそう言い放つ。

 胸の大きさを気にしていないといいつつ、メチャクチャ気にしてるじゃねえか。

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