446話 青海歩行

 海水浴を満喫しているところだ。

 まあ、俺はビーチで日光浴をしているだけだが。

 人によって、いろいろと趣味嗜好に違いがある。

 ユナ、サリエ、リーゼロッテ、千は俺の近くで日光浴をしている。


 サリエとリーゼロッテは、のんびりした性格なので遊び回るよりもこちらのほうが似合う。

 ユナからは活発な印象を受ける。

 しかしそれと同時に、彼女には暑さを好む嗜好もある。

 ポカポカ陽気の日光浴を楽しんでいるようだ。

 そして千は、お目付け役の俺の近くに置いている感じである。


 ミリオンズの他のみんなは、思い思いに遊んでいる。


「い、いくよ。マリアちゃん」


「うん。ニムお姉ちゃん! それっ!」


 ニムとマリアが浅瀬で無邪気に遊んでいる。

 戦闘時には頼りになる2人だが、こうして見るとまだまだ子どもだ。

 そして、その近くにはミティとティーナもいる。


「ふふ。マリアちゃん。久しぶりに、私の拳を味あわせてあげましょう」


「わあい! ミティお姉ちゃんのあれ、楽しみ!」


 マリアが喜ぶ。

 あれか。


「ビッグ……バン!」


 バシャーン!

 大きな水しぶきがマリアたちを襲う。


「わあい! 楽しいな!」


 マリアは喜んでいる。

 しかしーー。


「ピピッ。当機への攻撃を確認。反撃します」


 バシャーン!

 高性能ゴーレムのティーナが反撃する。

 もちろんガチの反撃ではなくて、水しぶきによる反撃だが。

 彼女もかなり溶け込んでいるな。


 そんな風に海水浴を満喫している者たちの一方では、真面目な顔で何やら鍛錬をしている者たちがいる。

 少女が3人だ。


「青空歩行(スカイウォーク)」


 1人は、モニカだ。

 空中で多段ジャンプする技を披露している。


「うーん。相変わらず、モニカのそれはすごいね。ボクはなかなかできないよ」


 そう言うのは、アイリスだ。

 せっかく海水浴に来ているのに、ともに技の練習をしているのか。


 ちなみにモニカは標準的な水着を着ており、アイリスはやや露出の少ない水着を着ている。

 そして、残りの1人はーー。


「すごいね、モニカさん。ナーティアさんも使っていたけど、僕には習得できなかったんだ」


 ”白銀の剣士”ソフィアだ。

 彼女が驚嘆した表情でそう言う。


 ナーティアは、モニカの母親である。

 記憶を失い、ブギー盗掘団の一味として活動していた。

 ソフィアはブギー盗掘団にやや肩入れをしており、ナーティアとも面識がある。


 ちなみにソフィアの水着は、布面積が非常に大きい。

 手首足首や首周り以外は、すっぽりと覆われてしまっている。

 アイリス以上の鉄壁の防御だ。

 ぐぬぬ。

 もっと際どい水着ならよかったのに。


「ボクも以前から教わっているんだけど……。なかなか難しいねー」


 アイリスがそう言う。

 彼女の脚力は、ミリオンズ内でモニカに次ぐレベルだ。

 闘気や聖闘気を合わせれば、彼女にも青空歩行が使えてもおかしくはない。


「ちょっとしたコツがあるんだ。3人でいっしょに練習しようか」


「ソフィアさんもいっしょなら、新しい刺激がありそうだね」


「ありがとう。よろしくお願いするよ」


 そんな感じで、モニカ、アイリス、ソフィアの3人で練習を始めた。

 せっかくの海水浴なわけだが、練習熱心だな。


 彼女たちはしばらく練習を続けていく。

 そして、そこに近づく人物がいた。


「君たちはスジがいいね。その年齢で、”虚空飛翔”を練習しているのか」


 武闘家のジョージだ。


「虚空飛翔?」


 聞いたことのない名称に、モニカが首をかしげる。


「ジョージ。この大陸では、”青空歩行”という名称が一般的だったはずよ」


 ジョージの相方であるセニアがそう口を挟む。


「ああ、そういえばそうだったな。”青空歩行”は、なかなか難易度が高い技術だ。他の歩行術の練習はどのような調子なのだい?」


「ええっと。他の歩行術というと……?」


 アイリスが首をかしげる。


「まさか、知らないのか? 独学でそこまでの力を? 順序がメチャクチャだな……。それはそれですごいが、少しもったいない」


「ジョージ。せっかく海に来ているわけだし、あの技を教えてあげましょう」


「ふむ。そうだな。私たちの奥義を見せてあげよう」


 ジョージが闘気を開放し、海に近づいていく。


「はああ! ”青海歩行(ブルーウォーク)”」


 バシャバシャバシャ!

 ジョージが海上を走っている。


「す、すごいね。海の上を走るなんて」


 ソフィアが驚く。

 確かにすごい。

 しかし、空中での多段ジャンプに比べるとひと回りすごさは落ちるか?

 そして、しばらくしてジョージは戻ってきた。


「見ただけでも、概要はわかっただろう? まずはやってみたまえ」


「うまくいかないようだったら、私たちがアドバイスしてあげるわ」


 ジョージとセニアがそう言う。


「わかりました。やってみます!」


「ええと。足に闘気を集中させて……」


「僕もがんばって習得してみよう」


 モニカ、アイリス、ソフィアが練習に励みだす。

 その様子を、ジョージとセニアが満足げに見守る。


「ふふふ。ハイブリッジ騎士爵は、今回の功績でまた貢献値が跳ね上がるだろう。”白銀”も然りだ。”あの御方”も満足されるはず……」


「それに、パーティメンバーのお嬢ちゃんたちも想像以上だわ。もしかすると、彼女たちも”条件”を満たすかもしれないわね。うふふ。楽しみだわ」


 ジョージとセニアがそうつぶやく。

 何やら意味深な発言だ。

 そういえば、彼らは何かの目的でこの街に来ているのだったか。

 そのあたりの詳細も、できれば聞いておきたいところだが……。


「ふぁああ……」


 俺は大きなあくびをする。

 今日はやる気が出ない。

 このままのんびり日光浴をすることにしよう。

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