440話 接触、リトルクラーケン

 アヴァロン迷宮のある孤島からルクアージュへ船で戻っているところだ。

 リトルクラーケンという巨大なイカが出現した。

 俺たちミリオンズは、千とともに船の前方へ向かう。


「父上。タカシ殿をお連れしました。状況はどうなっていますか?」


「ご苦労。リトルクラーケンは、こちらのスキをうかがっておるところだ。このまま何事も起きなければ理想的だが、そうもいくまい。迅速に撃退、もしくは討伐する必要がある」


 リカルロイゼの問いに、リールバッハがそう答える。

 彼の隣には、マルセラ、リルクヴィスト、シャルレーヌもいる。

 ラスターレイン伯爵家が勢揃いだ。

 さらにーー。


「ダンジョン攻略では不覚をとった。臣下のラスターレイン伯爵家の異変に気づけなかったのは、我の落ち度だ。ここは挽回させてもらおう」


 ベアトリクス第三王女がそう言う。


「僕にできることがあれば、もちろん協力するよ」


「あはは。くらっちも仲間にしたいけど、モフモフはしていなさそうだねえ」


 ”白銀の剣士”ソフィアと”ビーストマスター”アルカもいる。


「フレンダちゃんのお友だちは、剣士さんばかりだからね~。ここは自分でがんばっちゃうよ~」


 ”魅了”のフレンダもいる。

 なかなかの強者が集まっているな。

 まあ、そもそも今回のダンジョン攻略メンバーは全員が実力者だが。

 比較的下のほうのトミーたちでも、Cランク冒険者だ。


「ふむ。彼女たちも参戦か」


「ええ。リトルクラーケンに有効打を持つ方々に声を掛けました」


 シャルレーヌがそう言う。

 ここにはいない”雷竜拳”マクセルや”解体者”ボネスも実力は確かだが、リトルクラーケンを相手にはやや相性が悪い。

 そのため、彼らには声を掛けなかった感じか。

 逆に言えば、ベアトリクス、ソフィア、アルカ、フレンダには有効打があるのか?


「せっかく来てもらったところ悪いが……。お前たちの出番はない。下がっていていいぞ」


 俺はそう言う。

 リトルクラーケンに、強者たちの手をわずらわせる必要はない。

 まずは千が試し、それでムリなら俺たちミリオンズが戦えばいいだろう。

 そう思ったがーー。


「ちっ。ハイブリッジ騎士爵よ。そなたの活躍は認めるが、我を低く見るその態度は看過できぬぞ」


 ベアトリクスがそう言う。

 言葉選びをミスったか?

 低く見たのではなくて、手をわずらわせたくないという意味だったのだが。


「へえ。ならば見せてもらおうか」


 本人がやる気なのであれば、止める必要もない。

 ベアトリクスの戦闘は、選別試験のときに少し見たことがあるだけである。

 二つ名の”剣姫”に恥じない戦闘能力があるか、改めて見せてもらうことにしよう。


「ソフィア殿、アルカ殿、フレンダ殿も我に続け。行くぞ!」


 ベアトリクスの号令のもと、彼女たちが攻撃態勢を取る。


「はあああぁ……! サザンクロス!!!」


 ベアトリクスの双剣から、十字型の大きな闘気弾が射出される。

 かつてCランク冒険者たちを一掃していた強力な技だ。


「神よ。僕に力を……。聖剣エクスカリバー!」


 ソフィアが剣を前に突き出す。

 剣の切っ先から、白く輝く光の波動が放たれる。


「あはは。モフモフたちの力を結集だ! ライオン・キング・ファング!」


 アルカの口から、牙状の闘気弾が射出される。


「愛と勇気と希望の名の元に、いっくよ~。ビューティー・セイント・アロー!」


 フレンダが弓を構え、闘気でできた矢を射出する。


 ベアトリクス、ソフィア、アルカ、フレンダ。

 いずれも、鍛え抜かれた強力な闘気弾だ。


 これをくらっては、リトルクラーケンはひとたまりもないだろう。

 俺はそう思った。

 しかしーー。


 ぬるんっ。

 リトルクラーケンの体表を滑るかのようにして、闘気弾は逸れてしまった。

 やつにダメージはない。


「なっ!? 我のサザンクロスが通じぬだと?」


 ベアトリクスが驚愕の表情を浮かべる。


「うーん。遠距離攻撃は効きにくいのかな」


「あはは。ヌルヌルの体表がジャマしてるみたいだね」


 ソフィアとアルカがそう分析する。


「ショック~。フレンダちゃんの必殺技が~」


「くっ。ならば、接近戦で切り刻んでくれるわ!」


 ベアトリクスが船上を駆け出す。

 そして、リトルクラーケンに向かって大きくジャンプした。

 思い切りがいい。

 しかし、海の魔物に海上で勝負を挑むのは無謀じゃないか?


「あっ。もう! 僕も手伝うよ!」


「あはは。仕方ないなあ」


「いくぞ~」


 ソフィア、アルカ、フレンダがベアトリクスのフォローに向かう。

 だがーー。


 ぬるんっ。

 がしっ。


 リトルクラーケンの触手により、4人とも捕らえられてしまった。

 何やってんだ。

 高ランク冒険者の名が泣くぞ。


「あはは。うひひ! ヌルヌルがくすぐったい!」


 アルカが触手に悶える。


「そ、そこはダメだよ! 勇者として、純潔は守らないと……。ふああぁっ!」


 ソフィアが悲鳴を上げる。

 リトルクラーケンの触手が、彼女の大切なところを襲おうとしているのだ。

 さらにそれは、フレンダとベアトリクスにも襲いかかろうとしている。


「にゅ~。フレンダちゃんの体に触れていいのは、白馬の王子様だけなのに~」


「くっ。イカ風情が、王族たる我を辱めるつもりか。殺せ」


 いや、ただのイカがそこまで考えていないと思うが。

 自分の縄張りに侵入した獲物を捕獲したぐらいの認識だろう。


 強者のはずの彼女たちでも、相手に有利な海上で戦うとこのザマである。

 俺たちミリオンズや千も、気を引き締める必要がある。

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