418話 全滅しちゃった……つらたん

 リーゼロッテと俺が率いる第六隊と、ラスターレイン伯爵家一行が戦っているところだ。

 人数比ではこちらが有利だったが、ラスターレイン伯爵家の想定以上の戦闘能力に押されている。

 ここまでのダンジョン攻略やファイアードラゴン戦で俺たちが疲弊していたことに加え、どしゃ降りのこの天候があちらに有利に働いているのも大きい。


「くっ。タカシの旦那のためにも、ここが踏ん張りどころだ」


「いくぜえ! 野郎ども!」


 トミーたちがそう奮起する。

 だがーー。


「レインレーザー!」


「ぐああっ!」


「く、くそっ! 近寄れねえ……」


 リカルロイゼの卓越した水魔法により、為す術がない。

 ピュンッ!

 ピュンピュンッ!

 彼の水魔法により、トミーたちが傷つき倒れていく。


「さて……。そろそろトドメといきましょうか」


 リカルロイゼが大技の構えをとる。


「そう好きにさせるか!」


「むっ!」


 俺はリールバッハの一瞬のスキを逃さず、距離を取る。

 そして、素早く火魔法の詠唱を開始する。


「揺蕩う炎の精霊よ。我が求めに応じ、敵を焼き尽くせ。ボルカニックフレイム!」


 俺の上級火魔法がリカルロイゼを襲う。

 しかしーー。


 ジュワッ。

 リカルロイゼに到達する前に、かき消されてしまった。


「ふん。その程度の火力ではこの『永久凍土』の守りを貫くことはできませんね」


 リカルロイゼがそう言う。


「その通り。それに、天候も我らの味方をしている。お前たちが勝つことはできない。これ以上余計な抵抗はせず、そこで見ているがいい」


「ぐっ!」


 俺の技後硬直を逃さず、リールバッハが突きを放ってきた。

 俺はダメージを受け、倒れ込む。

 彼が俺の体に足を乗せ、押さえ込んでくる。


「く、くそっ!」


 俺は起きようとするが、ダメージは大きい。

 まずは治療魔法で回復しないと。

 だが、そんなことをしている間にも、リカルロイゼがトミーたちに大魔法を放とうとしている。


「……凍てつく氷の精霊よ。契約によりて我に従え。万物凍る絶対零度。生命宿らぬ黄泉の冷気。我が敵を物言わぬ氷像に。『永久氷化』」


 ヒュォッ!

 こちらまで、冷気が届いた。

 あの技をモロにくらったトミーたちは……。


「こ、凍っている……?」


 微動だにしない氷の像になってしまっている。

 実力確かなCランク冒険者たちが、あっさりと全滅だ。

 コーバッツやティーナも巻き添えで凍ってしまっている。


「我らの方針に従わぬからこうなるのだ。残るは……お前たちミリオンズだ」


「く……」


「お前は最後だ。おとなしくしていろ」


 リールバッハに押さえつけられ、俺は身動きが取れない。

 治療魔法を発動しているのだが、リールバッハの魔力により阻害されているようだ。

 うまく回復しない。

 そうこうしている間に、今度はマルセラがユナやマリアに牙を剥こうとしている。


「くっ。雨で動きが……」


「マリアも飛びにくい……」


 獣化状態のユナは、炎の精霊の加護により体温が上昇し、身体能力が向上する。

 この雨天下では、その加護も効力が半減しているようだ。

 そして、ハーピィであるマリアの飛行能力も低減している。


「恨まないでくださいね。……『永久氷化』」


 ピキッ。

 マルセラの放った水魔法により、ユナとマリアが凍りついた。

 トミーたちに続き、彼女たちまでも……。


 さらには、リルクヴィストがモニカとニムに狙いを定めている。


「はあ、はあ……。今までの戦いで、体力が……」


「モニカお姉ちゃん、わたしの後ろに……」


 体力が残っていないモニカをかばい、ニムが前に出る。

 彼女はロックアーマーをまとっている。

 今のミリオンズで一番元気なのがニムだろう。

 彼女の体力はミリオンズで随一だ。

 だがーー。


「悪いな、嬢ちゃんたち。……『永久氷化』」


 ピキッ。

 リルクヴィストの放った水魔法により、モニカとニムが凍りついた。

 強固なロックアーマーでも、最上級水魔法を防ぐことはできなかった。


 これで4人。

 4人が氷像になってしまった。

 俺が不甲斐ないせいで……。


「や、やめろ! やめてくれ! 降参する!」


 ラスターレイン伯爵家に楯突いたのが間違いだったのか……?

 今日会ったばかりのファイアードラゴンなど、切り捨てればよかったのかもしれない。


 しかし、ミッションが……。

 いや、ミッションはあくまでテイムせよという内容だった。

 テイムした後に討伐しても、ミッションに背いたことにはならないとも考えられる。


「今さら信じられぬ。おとなしく、仲間が氷像になっていく様を見ているがよい」


 リールバッハが冷たく言い放つ。

 今さら撤回してももう遅い、か。

 リールバッハの魔力に妨害されつつも、少しずつ治療魔法により回復はできている。

 もう少しで動けるようになる。

 だが、そうこうしている間に、シャルレーヌがサリエとリーゼロッテに攻撃を仕掛けようとしている。


「ひっ。こ、こんな無法は、王国が黙っていませんよ……」


「そうですわ。目を覚ましなさい、シャルレ……」


「……『永久氷化』」


 ピキッ。

 シャルレーヌの放った水魔法により、サリエとリーゼロッテが凍りついた。

 貴族であるサリエと、肉親であるリーゼロッテにすら容赦しないとは。


「お姉様が悪いのですよ。貴族の責務を果たさないからです」


 シャルレーヌが冷たく言い放つ。

 もう少しで動けるようになる……!

 サリエとリーゼロッテは間に合わなかった。

 だが、まだ残っている者はいる。

 今度こそ間に合え……!


「くっ。みんな……。でも、ボクは最後まで諦めない!」


「ふん。確か、ガルハード杯で見かけた女だな。実力がずいぶんと増しているようだが……」


 アイリスとリルクヴィストが格闘で戦い始める。

 あのガルハード杯では、アイリスが1回戦負けでリルクヴィストはベスト4に残り優勝扱いとなった。

 当時の実力はリルクヴィストが上だ。


 しかし、あれからアイリスは実力をかなり伸ばしている。

 リルクヴィストに負けるはずがない。

 そう思ったがーー。


「ううっ」


 アイリスが押され気味だ。

 彼女が体勢を崩し、膝をつく。


「ずいぶんと疲労がたまっていたみたいだな。ここまでご苦労だった。ゆっくり休め」


 リルクヴィストが水魔法の詠唱を始める。

 アイリスに避ける体力は残っていない。


「ぐっ。うおおおぉ!」


「むっ!? まだ動けたのか」


 俺は力を振り絞り、リールバッハの拘束を振りほどいた。

 俺はアイリスのほうに駆け寄る。


「アイリs……」


 俺は必死に手を伸ばす。

 だが、その手はギリギリ間に合わなかった。


「……『永久氷化』」


 ピキッ。

 リルクヴィストの放った水魔法により、アイリスが凍りついた。

 また間に合わなかった……。


「くそっ! 貴様ら、絶対に許さない……!」


 俺は殺意を込めた目でリールバッハたちをにらみつける。


「そんなことを言っている場合か? お前以外には、あと1人だぞ」


 そうだ。

 あと1人残っている。

 せめて、彼女を連れて逃げるんだ。


 マルセラ、リカルロイゼ、リルクヴィスト、シャルレーヌ。

 4人が残った1人に向かっていく。

 多勢に無勢。

 彼女が自力で逃げることなどできないだろう。

 俺が助けないと。


「ミティ!」


 俺はミティに駆け寄っていく。

 必死に手を伸ばす。

 間に合え。


「タカシ様! たすけ……」


 彼女も俺に手を伸ばす。

 だが、俺たちの手が触れ合うことはなかった。


「……『永久氷化』」


 ピキッ。

 マルセラの放った水魔法により、ミティが凍りつく。

 彼女は助けを求める顔のまま、固まってしまった。


 こ、これで全滅……。

 残るは俺1人。

 俺1人なら、何とか逃げ切れるか……?

 だが、大切なみんなを失って逃げて、何の意味があるんだ……。


「何だ……? 俺は……。大層な力を手に入れておきながら……」


 この世界に来て、『ステータス操作』『加護付与』『異世界言語』などのチートスキルを手に入れた。

 それらの力を駆使して、時には苦労しつつも最終的には無双してきた。

 俺にできないことなどない。

 そう慢心した結果が、これか。


「仲間の1人も、守れない……!!!」


 俺はそう慟哭する。


「うふふ。かわいそうなタカシさん。でも、ご心配なく。きっとまた会えますわよ」


 センが優しい声色でそう言う。

 確かにそうかもしれない。

 俺も逝けば、あの世でみんなに会うことができるだろう。


 神様の気まぐれで、みんなでまた別の異世界に転生できないかな。

 今後こそ、みんなで平和に生きるんだ。

 世界滅亡とは無縁の世界で。

 子どもは、それぞれ2人ずつぐらいほしいな。

 畑を耕して、スローライフを送ろう。


 俺とミティの子どもの名前はどうしよう。

 タカシとミティの子どもだから……。

 ミカとかどうだろうか?

 少し安直かもしれない。

 ちゃんと相談して決めないといけないな。


 俺はそんな現実逃避をする。

 そうこうしている間に、リールバッハたちが水魔法の詠唱を進めていく。


「凍てつく氷の精霊よ」

「契約によりて我に従え」

「万物凍る絶対零度」

「生命宿らぬ黄泉の冷気」

「我が敵を物言わぬ氷像に」


 リールバッハ、マルセラ、リカルロイゼ、リルクヴィスト、シャルレーヌ。

 5人がそれぞれ詠唱を進めていく。


「永久氷化」

「永久氷化」

「永久氷化」

「永久氷化」

「永久氷化」


 ピキッ。

 リールバッハたちの放った水魔法が俺を襲う。

 5人それぞれから発動されたため、威力がとても強い。

 俺の『獄炎滅心』の炎を封殺し、俺の体が凍りついていく。


 意識はまだある。

 しかし、体は動かない。

 少しずつ意識も薄れていた。


「後は我らに任せて、ゆっくりと眠るがいい」


 最後に、リールバッハの優しげな声が聞こえた。

 この日、俺が率いるミリオンズ、そして第六隊はーー。

 全滅した。

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