417話 第六隊vsラスターレイン伯爵家
闇の瘴気に汚染されたラスターレイン伯爵家一行と戦うことになってしまった。
彼らはリーゼロッテの家族だし、万が一にも殺したりしないように注意する必要がある。
「術式纏装『獄炎滅心』」
俺は炎の力を再び纏う。
雨天下のため出力は低下しているが、それでもないよりはマシだ。
「力を振り絞ってがんばります!」
「ボクも戦うよ。MPや闘気はほとんど残ってないけど、何とか素の格闘で……」
ミティとアイリスがそう言う。
彼女たちは、ダンジョン攻略やファイアードラゴン戦でたくさん戦ってきてくれたからな。
余力があまり残っていない。
モニカ、ニム、ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテ。
それに蓮華やトミーたちも同様だ。
俺も結構疲れているが、ここが踏ん張りどころである。
人数ではこちらが圧倒しているし、勝てない相手ではないはず。
「燃え爆ぜろ。フレア……ドライブ!」
俺は爆速で移動し、炎を纏ったパンチを繰り出す。
狙いは、リールバッハだ。
当主である彼を撃破すれば、断然有利になる。
しかしーー。
パシッ。
彼の手のひらが俺の拳を受け止める。
「ふん。甘すぎる……。雨天下では、スピードが半減するようだな」
確かに、雨により俺の火魔法の威力は減退している。
今のフレアドライブについても、速度や火力がイマイチではあった。
とはいえ、そこそこ程度の実力者を葬るには十分な威力があると思っていたのだが。
「我らの水魔法、そして流水拳は雨天下でも威力が減退することはない。むしろ、技によっては倍増さえするのだ!」
リールバッハがそう言って、闘気を開放する。
「急光! 腹下し蹴り!」
「ぐおっ!」
リールバッハの強烈な蹴りが俺の腹に直撃する。
彼は水魔法使いではなかったのか?
かなりの身体能力だ。
体勢を崩した俺に、リールバッハが追撃しようとしている。
彼が足を大きく上げる。
「華夏カカト落とし! ……カチアゲ背足!」
カカト落としで沈みかけた俺を、下から蹴り上げるような攻撃。
怒涛の連撃に手も足も出ない。
そして、彼が腕に一際大きな闘気を纏う。
「巨海底爆掌(こみていばくしょう)!!!」
「ぐああああっ!」
リールバッハから放たれたトドメの攻撃で、俺はふっ飛ばされる。
マズい……。
開幕早々、大ダメージを受けてしまった。
水魔法専門だと思いこんで油断していた俺のミスだ。
リルクヴィストも武闘は修めていたし、リールバッハが武闘を使えても不思議ではなかったのに。
「く……。まだまだぁ!」
俺は自身に治療魔法を使い、何とか立ち上がる。
「やはりしぶとい……。ハイブリッジは我が抑える。お前たちは、他の者を無力化していけ」
リールバッハは俺をにらみつつ、他の4人にそう指示を出す。
「承知しましたわ」
「承知しました」
「わかったぜ!」
「承知致しました」
マルセラ、リカルロイゼ、リルクヴィスト、シャルレーヌがそう答える。
リールバッハが俺と1対1で戦うのは理解できるが……。
「この大人数を相手に、他の4人だけで戦うつもりですか? 自惚れないでいただきたい」
「ふん。それはこっちのセリフだ。お前たちの戦闘能力は認めるが、環境も意識したまえ」
環境?
この第5層は、もともとは火口風のダンジョンで暑い環境だった。
今はダンジョンの天井が崩落しており、空から雨が降りしきっている。
最初は小雨だったが、どんどん雨足が激しくなっており、今はどしゃ降りだ。
この雨天下では、俺と同じく、ユナやマリアの戦闘能力も落ちてしまうだろう。
しかし、それ以外の者にはさほどの影響はないはず。
と、思ったがーー。
「……慈しむ水の精霊よ。我が求めに応じ、水の一閃を走らせよ。レインレーザー!!!」
ピュンッ。
ピュンピュンッ。
リカルロイゼが最上級の水魔法をぶっ放す。
「ちっ。なんて連射性能だ!」
「ぐあっ!」
トミーたちが苦戦している。
先ほど、リーゼロッテがファイアードラゴン相手に放った水魔法だ。
彼女のよりも性能がいい……?
リーゼロッテは、俺の加護(小)の恩恵により水魔法がレベル5に達している。
そして、基礎ステータスも2割向上している。
そんな彼女以上の水魔法の腕を持つとは……。
リカルロイゼの実力は、想定以上だ。
「……氷の精霊よ。我が求めに応じ、氷の雨を降らせよ。アイスレイン!」
ヒュンヒュンッ。
シャルレーヌの中級水魔法がミティやアイリスたちを襲う。
「ビッグ・ホームr……。ううっ!」
「くっ。数が多い。ボクでも捌き切れない……!」
ミティは槌術レベル5だ。
飛び道具を打ち返すのは彼女の得意技である。
アイリスは技巧派の武闘家だ。
飛び道具をいなすのは朝飯前である。
そんな彼女たちでも、シャルレーヌのアイスレインに対処できていない。
シャルレーヌの水魔法の練度は、相当なものだ。
「バ、バカな……。いくら水魔法の名門が相手とはいえ、俺たちがこうも押されるだと……?」
「ふん。成長著しい超新星だと聞いていたが、経験は浅いな。雨天下で水魔法使いに挑むことの無謀さを知らんらしい」
リールバッハがそう言う。
そうか。
このどしゃ降りの雨のせいか。
水魔法使いにとっては、自分の武器となる水があちこちに降り注いでいるような状況となる。
水魔法は、無から水をつくりだすこともできるが、既にある水を使ったほうが自由度や速度が増す。
ちなみに、土魔法や植物魔法もある程度は似たようなイメージである。
「ちっ。だが、水魔法なら俺とリーゼロッテも使えるぞ」
俺たち第六隊で、中級以上の水魔法を使えるのは俺とリーゼロッテだけだ。
こうなれば、俺たち2人が主力となって巻き返しを……。
「付け焼き刃の水魔法で我らに勝てると思わんことだ。せっかくだ、面白いものを見せてやろう。……お前たち、やれ」
リールバッハの指示を受けて、マルセラたちが何やら魔法の詠唱を開始する。
あれは……。
「術式纏装『結晶白女』」
「術式纏装『永久凍土』」
「術式纏装『氷竜氷牙』」
「術式纏装『明鏡止水』」
纏装術だ。
マルセラ、リカルロイゼ、リルクヴィスト、シャルレーヌ。
4人がそれぞれ術式纏装を発動させている。
これは相当に高度な技術のはず。
俺の『獄炎滅心』やモニカの『雷天霹靂』の習得にも、かなりの時間を費やした。
まさか、ラスターレイン伯爵家が当たり前のように使ってくるとは……。
「レインレーザー!」
「ブリザード!」
「アイスレイン!」
リカルロイゼ、リルクヴィスト、シャルレーヌから水魔法による怒涛の攻撃が繰り出される。
「くっ。わ、わたしのロックアーマーでも防ぎ切れません……」
「つ、強い……!」
ニムとモニカがダメージを受け、膝をつく。
ミティやアイリスたちも、同じくダメージを受けている。
マルセラとリカルロイゼが冷たい眼差しで俺たちを見る。
「なかなかやるようですが……。この環境で私たちに勝てるとは思わないことです」
「その通りですね。雨天下の野外戦闘で我らラスターレイン伯爵家に勝てる者など……そうそういませんよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます