399話 アヴァロン迷宮 2階層 スコーピオン

 アヴァロン迷宮に挑戦しているところだ。

 1階層のボスであるリトルベアは、同行しているCランク冒険者たちによって撃破された。


 俺たちは、少しだけ休憩してから、2階層に向かう。

 どんどん歩みを進めていく。


「2階層は……。雰囲気が変わったな」


「そうですね……。何かの遺跡のようです」


 サリエがそう言う。

 1階層はほら穴のような感じだったが、この2階層は遺跡のような趣がある。

 通路のところどころに石版が置かれてある。


「ふうん。興味深いけど、なんて書いてあるかわかんないね。だれか読める人はいる?」


「どうやら古代言語のようですわね。ただ、それ以上のことはわたくしにはさっぱり……」


 リーゼロッテが首を振る。

 他のみんなもわからないそうだ。


 謎の遺跡に、意味深な石版。

 気になるが、解読できないのであれば仕方がない。


「……ん? あれ?」


「どうしました? タカシ様」


 俺はあらためて、石版を注視する。

 ……読めるぞ?

 俺はこの文字を読める。

 俺の異世界言語のスキルのおかげか?

 こんな古代言語まで読めるとは、地味ながらかなりのチートである。


「ええと、なになに……。『ここは新大陸に隣接する孤島。山奥で、新種のドラゴンを発見』か」


「読めるの!? すごいね!」


「い、意外な特技ですね」


 モニカとニムがそう言う。

 意外とは何だ。

 俺だって、やるときはやる男だ。


「どこで古代言語を? ……いえ、今は置いておきましょう。それよりも、その内容ですわ」


「うーん。新大陸に隣接する孤島って言えば、この島のことだよね?」


 モニカがそう言う。


「そうだろうな。新種のドラゴンっていうのは、普通に考えてファイアードラゴンのことか」


「確かに、ボクも中央大陸ではファイアードラゴンという名称を聞いたことがなかった。とてもめずらしいドラゴンだろうね。外界から来たのかもしれない」


 この新大陸の北東部には、中央大陸がある。

 新大陸よりも大きな大陸だ。


 中央大陸や新大陸からはるか海を超えた先には、さらに広大な大陸が広がっている。

 その名を、外界と言う。


 外界には、行くだけでもかなりの危険が伴う。

 50年ほど前に、当時のS級冒険者たちが力を合わせてなんとか上陸だけは果たしたと言う。


 しかし探索は早々に頓挫し、やむなく帰還。

 その際に、いわゆる5大災厄を持ち帰った。

 そのうちの1つが、ミティの故郷ガロル村で猛威を奮った霧蛇竜ヘルザムである。


「ふむ……。興味深い内容だったが、ダンジョン攻略には直接関係なさそうか……」


 ファイアードラゴンが外界から来たのだろうと、もともとここで生きていたのだろうと、俺たちがやることは変わらない。

 何とかダンジョンを踏破した上で、ファイアードラゴンの再封印をすることである。

 俺たちは、再び奥に向けて歩みを再開した。



●●●



 その後は、順調に2階層の探索を進めていった。

 この2階層では、ファイアーバードやポイズンコブラなどが出現した。


 ファイアーバードは、文字通り火を纏っている鳥である。

 ポイズンコブラは、毒を持った蛇である。


 それぞれさほど強くはないものの、油断はできない魔物だ。

 ファイアーバードはうかつに攻撃すれば火傷するし、火が服に燃え移る可能性もある。

 ポイズンコブラは、もちろん毒をくらったら厄介だ。


 とはいえ、これらのリスクは近接戦のときに発生するものである。


「水球よ。我が求めに応じ現われよ。ウォーターボール」


 コーバッツが初級の水魔法を発動し、ファイアーバードにぶつける。

 衝撃力はさほどないが、火を纏った鳥に対して水は特効だ。

 ファイアーバードはあっさりと息絶え、虚空へと消えた。


「炎のせいれいよ。火のたまを生み出し、わがてきをめっせよ。ファイアーボール!」


「炎の精霊よ。火の矢を生み出し、我が眼前の敵を撃ち抜け。ファイアーアロー!」


 マリアとユナが、それぞれ火魔法を発動させる。

 狙いはポイズンコブラだ。


 ポイズンコブラは毒こそ厄介ではあるものの、直接的な戦闘能力は下級だ。

 俺が駆け出し冒険者の頃に、西の森で狩ったこともある。


 今のマリアやユナの火魔法をくらえば、ポイズンコブラごときはひとたまりもない。

 やつは息絶え、虚空へと消えた。


 その後も順調に進んでいく。

 1時間以上は経過しただろうか。

 ダンジョン内なので、時間の感覚が掴めない。


「ここが2階層の最奥部のようだ」


 俺はそう言う。

 少し開けた場所だ。

 奥には3階層へ上る階段が見える。

 しかしその前に、階層ボスを倒さなくてはならない。


「…………!」


 大型の魔物がこちらの存在に気付き、戦闘態勢を整える。

 あれはーー。


「スコーピオンか!」


「ふふん。さすがに、2階層のボスは一味違うってわけね」


 スコーピオン。

 本来は砂漠に住まうサソリ型の大きな魔物である。

 体長は3メートル以上。


 強固な外骨格を持つため、剣や槍の攻撃は効きにくい。

 尻尾には毒があるため、ハンマーなど打撃系の近接攻撃で押し切るのもリスクがある。


「くっ。こいつはやべえ……」


「だが、タカシの旦那に負担をかけるわけには……」


 トミーたち同行の冒険者がそう言う。

 確かにできるだけ彼らに対応してもらいたいところだが、ムリをして死傷者が出るのも避けたい。

 多少のケガなら俺たちの治療魔法で治療できるが、MPにも限りがあるしな。


「スコーピオンは火に弱い。ここは俺たちに任せてもらおう」


「ふふん。あれからさらにパワーアップした、私たちの合同火魔法ね」


「マリアもがんばる!」


 俺、ユナ、マリアの3人で、詠唱を開始する。


「「「……燃え盛る地獄の業火よ。我が敵を灰燼となせ。ファイアーテンペスト!!!」」」


 ごうっ!

 激しい炎の竜巻が発生する。


 俺たち3人での合同火魔法だ。

 コツコツと練習して、練度が上がっている。


「…………!!!」


 超高熱の炎に焼かれ、スコーピオンが苦しむ。


「す、すげえ火魔法だ」


「さすがはBランクの超新星! そこに痺れる憧れるぅ!」


 同行しているCランク冒険者たちがそう持ち上げてくる。

 もちろん悪い気はしない。


「練度がとんでもなく高い。1+1+1が3になるどころじゃねえ」


「威力は3倍、5倍……いや、10倍だ!」


 すっげえアバウトだな。

 しかし確かに、俺、ユナ、マリアが単独で発動したときの火魔法の威力をそれぞれ1とすると、合同火魔法の威力は3を超えているように感じる。

 さすがに、10に達しているかは微妙な気もするが。


「…………!」


 スコーピオンが燃え盛る体のまま、こちらに向かって走り出した。

 破れかぶれの特攻か。

 俺、ユナ、マリアは火魔法の持続に集中しているため動きづらい。

 ここはーー。


「ロック・デ・ウォール」


 ニムだ。

 彼女が土魔法で防壁を作ってくれた。


 彼女の土魔法はレベル5。

 MP強化や魔力強化のスキルを伸ばしていることもあり、柔軟性に富んだ魔法を扱える。

 ネーミングセンスはやや怪しいが。


「…………!」


 ズガン!

 スコーピオンが土壁に阻まれ、停止する。

 そうこうしている間にも、俺たちの火魔法は継続している。


 そして、しばらくしてやつは霧散した。

 これにて討伐完了だ。


「よし。いい感じだな」


「うん! がんばって練習したかいがあったね!」


「ふふん。悪くないわね」


 MP以外はほとんど消耗せず、2階層を突破できた。

 順調だ。


「この調子だと、最奥部まで簡単につきそうだな」


 俺はそう軽口を叩く。

 そのときーー。


「……警告、警告。アヴァロン防衛システムに、異常発生……」


 ダンジョン内に、無機質な声が響き渡った。

 この声はいったい……?

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