398話 アヴァロン迷宮 1階層 リトルベア

 ダンジョン攻略メンバーの編成が発表されてから、数日が経過した。

 今日は、いよいよダンジョン攻略の日だ。


 みんなでアヴァロン迷宮の北東の入口に集まる。

 隊長のリーゼロッテ。

 副隊長の俺。

 俺が率いるミリオンズの、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ、マリア、サリエ。

 エルフの侍、蓮華。

 リーゼロッテの筆頭護衛騎士、コーバッツ。

 その他、数名のリーゼロッテの護衛騎士や、10名以上のCランク冒険者たちが同行する。


「いよいよか……。無事に最奥部にまでたどり着ければいいんだが……」


「そうですわね。でも、まずは1階層を突破することに集中しましょう」


 リーゼロッテがそう言う。

 確かに、あまり先を見据えすぎてあれこれ考えても仕方ない。

 まずは、1階層を踏破することに専念しよう。


 俺たちは、ダンジョンに突入する。

 しばらくは、何事もなく進んでいく。

 魔物やトラップなどは何もない。


「ふむ……。順調だな」


「ええ。1階層は、ある程度調査も進んでいますので」


「そうか。それにしても、結構深くまで入ったのにまだ明るいな。どういう理屈だ?」


 ダンジョンの1階層は少し大きなほら穴のようなイメージだ。

 入口以外に、光が差し込むところはない。

 壁にたいまつなど気の利いたものも設置されていない。

 本来であれば、もっと暗くなっていないとおかしいが……。


「ふふん。少し前に、説明されたじゃない。ちゃんと聞いていないからそうなるのよ」


「ダンジョンの壁には、『ヒカリゴケ』と呼ばれる特殊な苔が生えているんだ。それらが淡く発光して、ダンジョン内を照らしてる」


「ああ、そういえばそうだったな」


 ユナとアイリスの言葉を聞いて思い出した。

 ちゃんと、事前にダンジョンについての情報共有をしていたじゃないか。

 うっかりしていたぜ。


 そんなのんきな会話をしつつも、俺たちは歩みを進めていく。

 あまり気の抜けた会話をし過ぎると、同行のCランク冒険者たちからの視線も気になる。

 もう少し気を引き締めるか。


 そして、それから1時間ほど進んだ頃。

 ピクピク。

 モニカの耳が動く。


「……むっ!? みんな、この先にリトルベアがいる。それも複数体! ……いや、これはリトルベアなのかな……?」


「くんくん……。リトルベアに酷似した匂いですが、少し違いますね……」


 モニカとニムがそう言う。

 索敵能力に優れた彼女たちの言うことだ。

 何らかの魔物がいることは間違いないだろう。


 少し遅れて、俺の気配察知のスキルでも、中型の魔物が複数体いることは確認した。


「ダンジョン産のリトルベアのようだな。あちらから動く気配がない」


 俺はそう言う。

 通常の魔物は、食事中や睡眠中を除き、動き回っていることが多い。

 一方で、ダンジョン産の魔物は、基本的には同じ場所で待機している。

 もしくは、定まった経路をルーティーンのように徘徊する。

 そして、侵入者を視認すると、追いかけ回して排除しようとしてくるのである。


 ダンジョン産の魔物は、ダンジョンコアが生み出した擬似的な魔物である。

 魔力によって形成されており、一定以上のダメージを負わせると霧散する。


 魔力の残滓が固形化した魔石がドロップすることもあるが、安定した収入として期待できるほどではない。

 ダンジョンを攻略するのは、今回のように何らかの目的があるときに限られる。


 俺たちはそのまま、魔物の気配がするところへ近づいていく。

 ダンジョンは分岐もあるが、今のところは一本道だ。

 進路を変更することはできない。


 そして、少し開けた場所に出た。

 広間の反対側にはーー。


「…………」


 リトルベアが数体いる。

 しかし、目には生気がない。

 間違いなく、魔力によって生成されたダンジョン産の擬似的なリトルベアである。


「ふむ。複数体とはいえ、リトルベアごときは俺たちの敵ではないな。どれ、俺の火魔法で……」


「ちょっと待ってくださいまし。タカシさん」


 やる気になっていた俺を、リーゼロッテが止める。


「リーゼロッテさん。なぜ止めるのです?」


「タカシさんは、この隊の要です。よほどの窮地でない限り、力は温存してください」


 リーゼロッテが言うことにも一理ある。

 それに、事前に打ち合わせしていた通りの内容でもある。


「へへっ。そうだぜ! タカシの旦那!」


「ここはあっしらに、任せてくだせえ!」


 同行のCランク冒険者たちがそう言う。

 口調や雰囲気はチンピラの三下みたいだが、これでも彼らはCランクなんだよな……。

 ちゃんと、隊長であるリーゼロッテや副隊長である俺への敬意を持ってくれているようである。

 彼らの中のリーダー格は、トミーだ。


「よし。ここは任せた」


 俺はそう言う。

 副隊長として、こういう決断も必要だ。


「っしぁあ! いくぜ!」


「うおおおぉ!」


 トミーの号令のもと、Cランク冒険者たちがそう雄叫びを上げる。


「我が敵を射抜け! ファイアーアロー!」


「我が敵を砕け! ストーンレイン!」


 まずは、先制攻撃としての遠距離魔法である。

 初級火魔法であるファイアーアローや、中級土魔法であるストーンレイン。

 やはり、彼らは一人ひとりが優秀だ。


「…………!」


 リトルベアに確かなダメージを与えているが、まだ討伐には至らない。

 俺たちミリオンズでも、リトルベアを一撃で倒そうとすれば大技を放つ必要がある。

 彼らでは、さすがに一撃では仕留めきれないか。


「お次は接近戦だぜ!」


 トミーが先陣を切る。

 なかなかすばやい身のこなしである。


「おらぁ!」


 彼が力強く剣を振り下ろす。

 ザシュッ!

 リトルベアに確かなダメージを与えた。


「ビッグ……バン!」


「旋風脚!」


 他の者たちも、負けじと攻撃を繰り出していく。

 なかなかの攻撃だ。

 さすがにミティやギルバートの『ビッグバン』には大きく劣るが、十分に強力だと言っていいだろう。


 そして、しばらくしてリトルベアは全て息絶え、虚空へと消えた。

 これにて討伐完了だ。


「見事だ。リトルベア程度は、まったく問題ないということか」


「おうとも! これぐらいなら任せてくんな!」


 トミーがそう答える。

 少し疲れているようだが、大きなケガは負っていない。


「頼りになる皆さんですわ。少しだけ休憩して、先へ進みましょう。2階層へと続く階段があります」


 リーゼロッテがそう言う。

 リトルベアたちが居座っていた奥には、上へと続く階段がある。

 ここが、1階層の最終地点だったようだ。

 先ほどのリトルベアたちは、ここの階層ボスのようなイメージだな。


 このダンジョンは、上へ上へと続くダンジョンだ。

 最奥部には、ファイアードラゴンが封印されている。

 はたして、俺たちは見事に最奥部までたどり着けるのか。

 2階層も、気を引き締めて臨むことにしよう。





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