400話 アヴァロン迷宮 3階層 キラー・ビー

 アヴァロン迷宮に挑戦しているところだ。

 2階層のボスであるスコーピオンは、俺、ユナ、マリアの合同火魔法により撃破した。

 その際、何やら無機質な声がダンジョン内に響いた。


「あの声は何だったのだろう?」


「『アヴァロン防衛システムに異常発生』って言ってたんだっけ? ダンジョンがしゃべるなんて、ボクは聞いたことがないな」


 アイリスがそう言う。


 一口にダンジョンと言っても、種類はいろいろある。

 単純なほら穴に魔力がたまり、変質したもの。

 龍種など高位の存在の巣。

 そして、古代文明の遺跡などである。


 古代文明の遺跡系統のダンジョンは、中央大陸や新大陸の各地に点在しているらしい。

 しかし、アイリスが知っている限りでは、発声機能がついているダンジョンはないとのことだ。


「防衛という言葉から考えると、このダンジョンは何かを守るために意図的につくられたといったところでしょうか。ラスターレイン伯爵家では、代々ファイアードラゴンをこの地に封印し続けています。それが関係しているのかもしれませんわ」


 リーゼロッテがそう言う。


 俺たちはそんなことを話しつつ、3階層の探索を進める。

 3階層も、引き続き遺跡風の様相である。

 ただ、あちこちにツタが生えており、侵食されている。

 ダンジョン内ではあるが、緑豊かな感じだ。


「……むっ!? 大きな羽音が聞こえる。みんな、注意して!」


 モニカがそう声を上げる。

 ブーン。

 確かに、何やら羽音が聞こえる。


「これは……虫か何かか? しかし、ずいぶんと大きそうだ」


 耳元でカやハチが飛んでいるときの羽音を想像してほしい。

 嫌な音だ。


 そしてそれが、離れたところから聞こえる。

 数センチ程度のかわいいサイズではなさそうだ。


「ふふん。あれは……キラー・ビーね。厄介な相手だわ。とりあえず、みんなしゃがみなさい」


 ユナがそう言う。

 俺たちはその指示に従い、しゃがむ。


「なぜしゃがむんだ?」


「あいつの目は、下方向を見ずらいらしいわ。もちろん、絶対に見つからないわけじゃないけれど……」


 なるほど。

 そういえば、日本のスズメバチなんかもそういう傾向があるのだったか。

 スズメバチに遭遇したら、姿勢を低くして逃げるのがいいのだ。

 決して手で追い払おうとしてはならない。

 攻撃したと認識され、痛烈な反撃にあうからだ。


 キラー・ビーは、体長20センチはあろうかという大きなハチ型の魔物だ。

 今いる数は5匹。

 しゃがんだかいがあり、こちらには気づいていない。


 とはいえ、今の俺たちはダンジョンの攻略中だ。

 ずっとかがんでやり過ごすわけにもいかないが……。


「タカシお兄ちゃん。マリアに任せて」


「私も行きます!」


 マリアとミティが名乗りを上げる。

 彼女たちはミリオンズの中でも特に背が小さい。

 キラー・ビーに、少しだけ相性がいい。


「ああ。任せたぞ」


 大きなハチ型の魔物を近接攻撃で倒すのは厳しいだろう。

 ハチにしては大きいとはいえ、体長20センチかそこら。

 例えばミティのハンマーの一振りをヒットさせるのは難しい。


 マリアの格闘なら攻撃は当てられるだろう。

 しかし、ハチに素手で攻撃するというのも抵抗がある。


 果たして、彼女たちはどのような攻撃方法で攻略するのか。

 俺は彼女たちの様子を注視する。

 いざとなれば、俺の治療魔法の出番となる。


「……とき放て。レビテーション!」


 マリアが初級の重力魔法を発動させる。

 局所的に重力を低下させる魔法だ。

 ディルム子爵領のカザキ隊長は、自身にかけて疑似的な飛行能力を得ていた。

 また、マリアもハーピィとしての飛行能力にこれを合わせることで、飛行性能を向上させていた。


 今回は、なぜこの魔法を使ったのか。

 キラー・ビーと空中戦を繰り広げるのか?


 フワッ。

 キラー・ビーが、突然上空へと跳ね上がった。

 そして、遺跡の天井にぶつかった。

 衝突によるダメージはさほどでもなさそうだが、その後も何やらフラフラと飛んでいる。

 飛行の制御が乱れているようだ。


「あれは……?」


「えへへ。マリアの重力魔法で、ハチさんたちのジャマをしたんだよ!」


「なるほど。その手があったか。いいアイディアだ。マリア」


 確かに、重力魔法にはこのような使い方もある。

 あえて相手がいる場所の重力を低下させることで、動きを阻害するのだ。

 特に、飛行能力のある魔物相手であれば、今回のように効果は大きいだろう。


 しかし、これだけでは致命傷にはならない。

 何らかの追撃が必要だがーー。


「……風よ荒れ狂え。ジェットストーム!」


 ブオンッ!

 ミティの風魔法により、強力な竜巻が巻き起こる。

 キラー・ビーは竜巻になすがまま巻き込まれつつ、遺跡の壁や天井に体を打ち付けていく。


 しばらくして、やつらは死に絶えた。

 これにて討伐完了だ。


「いい風魔法だ。さすがはミティ。しかし、風魔法なら俺も合わせたのに」


 俺とミティは、合同風魔法を普段から練習している。

 選別試験では参加者たちを吹き飛ばしたこともある。


「いえ。タカシ様のお力は、階層ボスやファイアードラゴンに向けて少しでも温存させておくべきでしょう。私で何とかできそうな魔物は、ぜひとも私に任せてください」


 ミティがそう言う。

 ファイアードラゴンに有効な水魔法は、この隊では俺とリーゼロッテしか使えない。

 確かに、できるだけ温存しておくべきだろう。


 うまく、他の隊と合流できれば話は別だが。

 入口こそ6か所ではあるが、ダンジョン内部で繋がっているはずだと聞いている。

 探索速度やダンジョンの構造次第では、他の隊と合流することもあるだろう。


 俺は気を引き締め直す。

 そして、俺たちは3階層の探索を再開した。





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