395話 風魔法の修練 森を疾走

 ダンジョン攻略メンバーの選別試験を終えて2日が経過した。

 あと数日後には結果が発表され、さらに数日後にはダンジョン攻略が決行される。


 俺たちミリオンズは、それまでこのルクアージュでゆるりと過ごすつもりだ。

 単なる休養だけではなく、せっかくなので強者たちとも情報共有をしている。


 各ブロックで勝ち残った者とは、ひと通り話して交流を持つことができた。

 彼らはかなりの強者だし、いろいろと参考になる。

 その中でもとりわけ俺が重視したのが、風魔法の使い手との情報共有だ。


 ここで、俺の攻撃魔法のスキルレベルを整理しておこう。

 火魔法レベル5、水魔法レベル5、風魔法レベル3、土魔法レベル2だ。

 これら全てを使いこなせるようになれば、ダンジョン攻略やファイアードラゴン戦、そして今後の冒険者活動でも大いに役立ってくれるだろう。


 火魔法は最初期から使っているし、実戦でもよく使っている。

 高いレベルで使いこなせていると言える。


 水魔法も最初期から使っているが、伸ばし始めたのはつい最近だ。

 リーゼロッテというお手本のもと、鍛錬も続けているところだ。

 彼女の水魔法は加護(小)の恩恵もあり、レベル5に達している。

 その上、水魔法の名門ラスターレイン伯爵家の生まれだ。

 水魔法に対する理解が深く、的確な助言をくれる。


 風魔法と土魔法は取得自体がついこの前である。


 その内、土魔法にはニムというお手本が存在する。

 彼女の土魔法はレベル5。

 普段から土魔法をメインに戦っているし、土魔法に対する理解は十分だ。

 非常に参考になる。


 一方で、風魔法については有力なお手本がいない。

 ミティも風魔法を使えるが、彼女も俺と同じレベル3までしか強化していない。


 それに、ミティはハンマーや投擲などがメインの戦闘スタイルで、風魔法はサブだ。

 俺も同じく、剣や火魔法がメインである。

 風魔法の練度の向上は1つの課題だ。


 そんなわけで、今は風魔法の使い手を招いて講習を受けているところである。

 講師は、蓮華とイリアだ。


 蓮華は、故郷のヤマト連邦では”山風”の二つ名を持つ強者だ。

 この新大陸でも、Cランク冒険者として確かな実力を示している。


 イリアは、”烈風”の二つ名を持つBランク冒険者だ。

 外見は幼女だが、これでもとっくに成人済みらしい。

 口調は年寄りのそれであり、俗に言うのじゃロリである。


「……であるからして、この時に風魔法の情景を脳内に強く浮かべることで、より強力な風魔法の発動が可能になるでござるよ」


「ふむふむ。なるほど」


 ぶっちゃけ半分くらいしか理解していないが、俺はそう相槌を打っておく。


「やれやれ……。ほとんど理解していないのが丸わかりじゃ」


 イリアがそう指摘してくる。

 俺の生返事がバレてしまったか。


「こやつのような半人前には、習うより慣れろじゃ。風魔法には、とっておきの修練方法がある。蓮華とやら、お前もかつてやったのではないか?」


「あう……。あれでござるか……」


 イリアの言葉を受けて、蓮華が何やら顔を赤くしている。


「あれとは?」


「風魔法の修練は……、その……、風を肌で感じて一体になるために……ごにょごにょ」


 蓮華が顔を真っ赤にして、言いよどむ。

 何か言いづらいことがあるのだろうか。


「生娘でもあるまいし、照れるようなものでもあるまい。要するに、全裸になって自然の中を疾走すればいいのじゃ。風を全身で感じて、風魔法のイメージを固めることができる」


 イリアがそう言う。

 露出狂じゃねえか。

 なかなかファンキーな修練方法だ。


「なるほど……。それはぜひ、手本を見せてほしいな」


 俺は前のめり気味にそう言う。

 金髪碧眼の美少女蓮華も、合法ロリのイリアもかわいいからな。

 まあ、イリアは解体者ボネスというお相手がいるようだし、俺が手を出すのはマズいが。


「た、たかし殿。それはせくはらというやつでござるよ……」


 蓮華が弱々しくそう言う。

 彼女はこういうことへの耐性がないようだ。


「すまない。軽はずみな発言だった」


 俺はそう謝罪する。

 おとなしく、1人で全裸になって風魔法の修練をするか。


「タカシ様。私も付き合いますので、元気を出してください!」


 ミティがそう言う。

 俺のテンションが下がり気味だったのがバレてしまったようだ。


「おお、ありがとう!」


 ミティが付き合ってくれると聞いて、俺のテンションは回復した。

 俺と彼女は既に深い仲だが、森の中をいっしょに全裸で疾走するというのはまた新たな刺激を感じるはずだ。

 ……自分で言っておいて何だが、かなりの上級者プレイだな。


「ふむ。裸ぐらい、いくら見られてもよかろう。もしや蓮華は、生娘なのか?」


 イリアがそうブッ込む。

 この口ぶりだと、イリアは経験済みのようだ。

 実年齢は何歳なんだ?


「そ、それはその……。あう」


 蓮華は顔を真っ赤にしてしどろもどろだ。


「まあいいじゃないか。俺とミティで修練をすることにする」


 俺はそう蓮華に助け船を出す。


「いや、せっかくだし妾も参加するのじゃ。強者と修練をすることで、得られるものもあるじゃろう」


 イリアがそう言う。

 言っている内容は立派だ。

 しかし実際にやろうとしていることは、ほぼ初対面の人とともに全裸で森を疾走することなんだよな。


「蓮華よ。お前は、さらなる高みに興味はないのか? 現状の自分に満足している豚か?」


 イリアがそう煽る。

 言っていることはシリアスのように思えるが、実際のところは露出イベントへのお誘いである。


 ちなみに、ブタは几帳面できれい好きな性質を持つと聞いたことがある。

 怠惰で不潔という印象は、勘違いからの風評被害らしい。

 いや、今はこんなことはどうでもいい。


 蓮華がハッとした表情をして、イリアを見据える。


「そうでござった。拙者には、故郷に守るべき者たちがいる。そのために、強くならねばならん」


 蓮華がキリッとした顔でそう言う。

 そんな感じで、結局は4人で風魔法の修練を行うことになった。

 俺、ミティ、蓮華、イリアだ。

 俺たちは服を脱ぎ、全裸になる。


 蓮華とイリアをじっくりと観察したいところだが、ミティに怒られそうな気がするので控えめにしておこう。

 そして、みんな森の中を駆け出す。


 この森は、人や魔物などがあまりいないらしい。

 風魔法の修練にはうってつけである。

 それに、俺の気配察知のスキルもあるしな。

 一般人とばったりなどということは起きないだろう。


「うおおおぉ! 俺は、風と一体になる!」


「これは……。新しい境地が開けそうです!」


 俺とミティはハイテンションにそう言う。

 確かに、新たな境地が開けそうだ。

 いろんな意味で。


「ふふ。あははっ! 拙者も、何やら楽しくなってきたでござる!」


「その調子じゃ! 羞恥心を捨て、風と一体になるのじゃ!」


 蓮華とイリアがハイテンションにそう言う。

 いい調子だ。


 俺たち4人は、そんな感じでしばらく森の中を駆け回った。

 そして、森の中の俺たちに近づいてくる気配に気がついた。

 この足取りは……。


「タ、タカシ……。何をしているの……?」


「わあ……。タカシさんのあれ、すっごくおっきくなっています……」


 アイリスとサリエだ。

 彼女たちがどうしてここへ?


 少しマズイ。

 俺の天叢雲がエレクトしているところを見られてしまった。

 アイリスはドン引きし、サリエは顔を真っ赤にしている。


「たかし殿……。もしや、拙者のことをそんな目で……? これは修練でござるよ……」


 蓮華がはっとした表情をして、そう言う。

 手で胸やあそこを隠している。

 今さら感はあるが。


「うっ! い、いや。これはだな……」


 俺は狼狽する。

 どう言い訳したものか。


「つまらぬことを気にするな。裸ぐらい、いくら見られても構わんじゃろう。それとも蓮華は、戦闘中に服が破ければ、もう戦えなくなるのか?」


「そ、それは……」


「堂々とするのじゃ。妾のようにな」


 イリアがそう言って、全裸のまま堂々と仁王立ちする。

 せっかくなので、俺は正面からその姿を拝謁させてもらう。


「か、覚悟は決まったでござる! 拙者も、いざ!」


 蓮華が意を決して、胸やあそこを隠していた手をどける。

 先ほどまではともに全裸で森の中を駆けていたわけだが、正面から見るのは初めてだ。


「ふむ……。これは……」


 いいものを見させてもらった。

 しかし、おそらく未婚であろう少女の全裸を見ると、興奮とともに謎の罪悪感を感じる。


「はい、そこまでー」


「タカシさん……。もう次の女性ですか? 私との結婚話もまだ本決まりにはなっていませんのに……」


 アイリスとサリエが、少し責めるような雰囲気でそう言う。

 やはり無闇に新しい女性を増やそうとすると、既存のメンバーは複雑な気持ちになってしまうか。

 がんばって自制しないと。

 俺がそんなことを考えているときーー。


 ガサッ!

 ガササッ!

 近くの茂みから物音がした。


 だれか来たのか?

 もしくは魔物か?

 イリアと蓮華の全裸や、アイリスとサリエからの詰問に意識を割かれ、気配察知が疎かになっていた。


 茂みの中から、大男が現れる。


「……イリア、迎えに来たぞ……」


 イリアの相方、熊獣人の解体者ボネスだ。


 風魔法の修練もひと段落したところだったし、ちょうどいいタイミングだ。

 いや、ちょっと待て。


「ミティ、危ない!」


 俺はとっさに、ミティの大切なところを手で隠す。

 胸とあそこだ。

 第三者の男に、俺のかわいいミティの全裸を見せるわけにはいかない。


「あんっ! タ、タカシ様ぁ……」


 ミティがかわいい声を上げる。

 いかん。

 俺の指が、ミティの敏感なところを刺激してしまったようだ。


「……ぬ。これは失敬。覗き見する意図はなかった……」


 ボネスがそう言って、目を背ける。

 その間に、俺、ミティ、蓮華、イリアは服を着る。


「やれやれ。ボネスよ。お前も女に興味を持つ年頃になったか」


「……これは事故だ。それに、何度も言っているだろう。俺はイリアを生涯守り抜く。それ以外の女に興味はない……」


 ボネスがそう言う。


「ふん。物好きなやつじゃ」


 イリアはぶっきらぼうにそう言いつつも、満更でもない様子である。

 ボネスとイリアの年齢や関係性は謎に包まれているが、いい雰囲気なのは確かなようだ。

 俺が下手にイリアに手を出すことは控えておこう。

 まあ、そもそも相手にされるかという問題もあるが。


 そんな感じで、風魔法の修練は終わった。

 いろんな意味で何かを掴めた気がするし、ムダではなかったと思う。

 今後に活かしたいところだ。

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