394話 選別試験Dブロック 決着

 Dブロックの選別試験が進められている。

 残るは、俺たちミリオンズと、ウィリアム一行だけだ。


 イルとシェーラが唱えたウォーターウェイブという合同水魔法により、大波が生成された。

 ミティがビッグバンで迎え撃ったことで、大波の威力は大幅に減退した。


 だが、まだ余波は残っている。

 余波が俺たちを襲う。


「ぐぼ……」


「あう……」


 俺、ミティ、アイリス、ニム、サリエが余波によってダメージを受ける。

 ニムが生成した浮き代わりの中型ゴーレムがなければヤバかっただろう。

 それに、ミティのビッグバンによる大波の威力減退も大きかった。


 俺は何とか耐え切った。


「ぐ……。はあ、はあ。みんな、無事か……?」


 俺は周囲の状況を確認する。


 大きな質量の水が襲ってきたことによる物理的なダメージ。

 水に溺れて一時的に呼吸不能になったことによるダメージ。

 水温による体温低下によるダメージ。


 俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニムの5人は、戦闘不能に近い。

 マズいぞ。


「ふん。あれを食らってまだまだ無事だとは。大したやつらだぜ」


「しかし、今回は私たちの勝ちのようですね。ミティ=ハイブリッジ、覚悟!」


 ボロボロの俺たち5人に対して、ウィリアムたちは無傷に近い。

 ただし、合同水魔法を発動したイルとシェーラの消耗は大きいだろう。

 加えて、クロメも何やら疲労困憊の様子である。


 彼女が何らかの手段により大波を防いだのだろうか。

 自分のことで精一杯で、様子をうかがう余裕がなかった。

 まあ、対抗策がなければそもそもこんな戦法を取らないだろうが。


 ウィリアムとニュー。

 2人が俺たちにトドメを刺しに来る。

 卑怯とは言うまい。

 選別試験という特性上、自分たちのアピールを全力でするのは正しい。


「く……」


「ぐぬぬ……」


 俺は臨戦体勢を整えようとするが、やはりダメージは大きい。

 ミティも同様のようだ。

 そんなとき。


「私たちのリーダーに……」


 ダンダンダン!

 モニカの青空歩行の音が聞こえる。

 斜め上空から俺とウィリアムのほうに高速で近づいてくる。


「手を出すんじゃないよ!」


 モニカの強烈な蹴りがウィリアムを襲う。


「ふん。強そうなやつが残っていたな。……ニュー! そっちのトドメを急げ!」


 ウィリアムがモニカの蹴りを防ぎつつ、そう叫ぶ。

 いかに彼といえども、モニカを短時間で撃破することは難しい。

 早めにニューと合流して、モニカと戦おうといったところか。


「はっ! 承知しました!」


 ニューがミティに攻撃を仕掛ける。

 しかしーー。


「ふふん。私の存在を忘れてもらっちゃ困るわね」


 ユナだ。

 獣化状態の彼女が、かろうじてミティの救援に間に合った。

 彼女とニューが攻防を繰り広げる。


「く……。ウィリアム様、こやつもなかなか強いです! すぐにはそちらへ向かえそうにありません!」


「ふん。落ち着いて対処しろ! こいつらは、実質的にこの2人が最後の戦力だ。イルたちも、最後の力を振り絞って加勢しろ!」


 ウィリアムが言うことにも一理ある。

 俺、ミティ、アイリス、ニム、サリエは大波によるダメージにより実質的に戦闘不能。

 残る戦力は、モニカとユナの2人だけと言っても過言ではない。


 それに対して、あちらはウィリアムとニューがほぼ万全の状態。

 イル、クロメ、シェーラは魔法の発動などで疲労困憊の様子だが、肉体的なダメージは少ない。

 まだまだ戦闘自体は可能だろう。


 総合的に見て、あちらのほうが優勢だ。

 しかし、これは1人の存在を忘れている。


「えへへ。マリアもがんばるよ!」


 マリアが颯爽と現れてそう言う。

 彼女は飛行能力を持つので、大波を無事に回避していたのだ。


「マリア! 俺を……いや、サリエの治療を頼む!」


 マリアの治療魔法はレベル1。

 応急措置程度の治療を行うことができる。

 応急措置程度とはいえ、この状況下で発動できれば大きい。


 俺にかけてもらえればベストだ。

 しかし俺の近くでは、ウィリアムとモニカが戦っている。

 容易には近づけない。


 同じくミティの近くでは、ニューとユナが戦っている。

 こちらにも近づき難い。


 残るアイリスとニムに対しても、イル、シェーラ、クロメが向かっている。

 疲労困憊の彼女たちが相手なら、マリアでもひょっとしたら勝てるかもしれないが……。

 今は、それよりもいい選択肢がある。


 サリエの治療だ。

 どうやら、ウィリアムたちはマリアとサリエをあまり警戒していない様子だ。

 確かに、彼女たちはミリオンズの中でも新入りで特別表彰者にはなっていない。

 警戒度を下げるのも当然と言えば当然であるが……。


「……神のみわざにてかの者をいやしの力を。キュア」


 マリアの治療魔法による治療の光がサリエを覆う。


「ありがとうございます。マリアちゃん」


 サリエが回復し、立ち上がる。

 初級の治療魔法とはいえ、この状況下では大きい。


「ふん。Dランクの新入りが復活したところで、大した脅威ではないぞ」


 ウィリアムがそう言う。

 その認識が命取りなのだよ。


「……神の御業にてかの者たちを癒やし給え。エリアヒール」


 サリエの中級の治療魔法が発動する。

 範囲内にいる者を治療する魔法である。

 応用として、発動者が意識した者のみを回復させるという芸当も可能である。

 そして、治療魔法をレベル4まで伸ばした上で日々の鍛錬も欠かさない彼女は、そういった芸当も可能となっている。


「なっ!? バカな……。新人が、中級の治療魔法だと……?」


 ウィリアムが驚愕の声を上げる。


 大きな癒やしの光が、俺、ミティ、アイリス、ニムを覆う。

 さらに、モニカ、ユナ、マリア、サリエもひと回り小さな癒やしの光で覆われている。


「っしゃあ! これで復活だ! 加勢するぞ、モニカ!」


 俺は起き上がり、ウィリアムと戦っているモニカに加勢に向かう。


「私も戦えます! このニューとやらの相手は私がしましょう!」


 ミティが立ち上がり、さっそくニューと戦おうとしている。

 やはり、彼女はニューをライバル視しているな。


「くっ。これはマズイ……」


 ニューが焦った声色でそうつぶやく。


 さらに、アイリスとニムも立ち上がり、イル、シェーラ、クロメと対峙する。

 全体の状況としては、8対5。

 圧倒的にミリオンズ有利だ。


 これで勝確。 

 そう思ったときーー。


「時間だ! Dブロックの試合はそこまでとする!」


 リルクヴィストにより、試合の終了が宣言されてしまった。

 いいところだったのに残念だ。

 まあ、明らかにミリオンズ優勢だったし、ラスターレイン伯爵家からの評価は悪くないはずだ。

 上々の結果といえるだろう。


「ふう。いい試合だったな、ウィリアム」


 俺はウィリアムに手を差し出す。


「ふん。今回は実質的に俺たちの負けだ。しかし、俺たちはもっと鍛錬して、強い仲間も手に入れる。次は負けないからな」


 ウィリアムは俺の手を取りつつ、そんなことを口にした。

 彼は彼で、かなりの向上心の持ち主だな。

 ダンジョン攻略やファイヤードラゴン戦で頼りになるだろうし、今後も会う機会はいくらでもあると思われる。

 よきライバルとして、切磋琢磨していくことにしよう。





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