379話 屋形船での釣り
屋形船で街中を回遊しているところだ。
俺たちミリオンズと、シュタインやミサが同乗している。
その他、船頭や船員なども乗っている。
「さて。街の風景を楽しんでもらいつつ、この街リバーサイドの名物料理を食べてもらおうか」
シュタインがそう言う。
「いよいよか。それで、どんな料理なんだ?」
「ふふふ。それは……これさ!」
シュタインがそう言って取り出したのは、釣り竿だ。
何本も用意されている。
「釣り竿?」
「ああ。ただ豪勢なだけの料理は、これまでに屋敷で出させてもらったな。今日は、自分で釣りたての魚を食べてもらうつもりだ」
シュタインがそう言う。
なるほど、そういう趣向か。
「へえ。確かに、それも面白そうだね。味付けや盛り付けだけじゃなくて、こういうシチュエーションも料理のうちの1つか……」
モニカがそう言う。
料理といえば味付けや盛り付けが大切だが、広い意味ではこういったシチュエーションを用意する能力も料理の実力のうちだと言えなくもない。
「エサとして、こいつを釣り針に刺しておくんだ」
シュタインがそう言って、ミミズを釣り針に突き刺す。
「な、なるほどです。活きのいいミミズですね。これなら釣れそうです」
「うん。いい魚を釣るぞー!」
ニムとモニカがそう言って、自分でミミズを掴んで釣り針に刺していく。
彼女たちは、ミミズに忌避感を持っていない。
ニムは農業の経験があるので、ミミズには慣れている。
モニカは料理人として未知の生き物にも物怖じしないタイプなので、今さらミミズ程度に怖気づいたりはしない。
「ひっ! ミ、ミミズですか……」
ミティがそう言って青い顔をする。
そういえば、彼女はミミズが苦手なのだったな。
「安心しろ。俺が代わりに用意してやる」
俺はミティの分の釣り針に、ミミズを突き刺す。
「あ、ありがとうございます!」
「これぐらいお安い御用さ。かわいいミティのためならな」
俺はキメ顔でそう言う。
俺の第一夫人はミティだ。
この世界に来て、かなり最初の頃に出会った。
付き合いはもっとも長い。
俺がこの世界に来た最初のうちは、チートの恩恵もほどほどだった。
そのため、稼ぎもそこそこ程度だった。
具体的には、年収換算で金貨200~300枚くらいのペースである。
日本円にして200~300万円ほど。
食うのに困るわけではないが、裕福とはいえない。
そんなときに、赤き大牙や蒼穹の担い手とともにホワイトタイガーの討伐機会に恵まれ、臨時収入を得た。
その臨時収入と借金により、奴隷として売られていたミティを購入した。
当初は主人と奴隷という関係だったとはいえ、ミティは俺が駆け出し冒険者のときからずっと俺を支えてくれているということになる。
いわゆる、糟糠の妻と言っても過言ではない。
ミティ、アイリス、モニカ、ニム。
ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテ。
今や、俺の妻は8人に増えようとしている。
最初から俺を支えてくれているミティのことを疎かにしないように気をつけないとな。
そんなミティが満足気に、釣り竿を握りしめている。
彼女も楽しめているようで何よりだ。
ええと。
他には、ミミズが苦手な人はいないかな?
みんな女性だし、ミミズが苦手な人がいてもおかしくないが……。
ニムとモニカは、先ほども見た通りミミズに忌避感を持っていない。
アイリスは、以前は少し苦手だったようだが、今ではだいじょうぶだ。
彼女は適応力が高い。
ユナは、山奥の村出身ということもあってか、虫全般に対する耐性がある。
残るは、マリア、サリエ、リーゼロッテか。
彼女たちは高貴な身分だし、やはりミミズは苦手かもしれない。
俺の出番だ。
そう思ったがーー。
「えへへ。これを刺せばいいんだね? マリア、自分でできるよ!」
マリアが無邪気にそう言う。
そして、ミミズを釣り針に突き刺す。
彼女はこういうことが平気なようだ。
「私は少し苦手ですが……。挑戦してみます!」
サリエがそう言う。
彼女は長期間病に伏せっていた。
こういうことに耐性はないはずだが、取り組む意欲はある。
やはり、自分の意思で冒険者に飛び込んだ彼女はやる気が違う。
「わたくしも自分でできますわよ。食用ミミズを食べたこともありますし、問題ありませんわ」
リーゼロッテがそう言う。
彼女は食いしん坊で、おいしい料理やめずらしい料理に目がない。
しかし、ミミズすら食べたことがあるとは……。
うまいのか?
うーん。
あまり積極的に食べようとは思わないな。
もちろん、機会があれば挑戦してみてもいいが……。
そんな感じで、みんなが釣りの準備を整えていく。
結局、ミミズが苦手なのはミティだけか。
みんな女性なのに、たくましい限りである。
ミリオンズ内でもっとも腕力に秀でたミティがミミズを苦手としているのも、それはそれでギャップがあってかわいい。
冒険者として致命的な欠点というわけでもないし、ムリに克服する必要もないだろう。
そして、みんなが屋形船の端にそれぞれ陣取る。
「いっけー!」
「むんっ!」
アイリスとミティが釣り針を遠くに投げる。
ええと、釣り針を投げることを釣り用語で何と呼ぶのだったか……。
……そうだ、キャスティングだ。
昔マンガで読んだことがある。
アイリスは卓越した技巧により、正確なキャスティングを行っている。
ミティは抜きん出た豪腕により、力強いキャスティングである。
そして、俺はーー。
「ぬうううぅ……。スパイラル・キャスト!」
釣り針を円状に回転させ、遠心力を利用して遠くまで投げる必殺技である。
これももちろん、マンガの知識だ。
「へえ……。そういうやり方があるんだね」
「べ、勉強になります!」
モニカとニムがそう言う。
いいところを見せられたか?
ドヤァ。
「ふふん。ドヤ顔しているところ悪いけど、普通に投げるのと大して変わらないんじゃない?」
「そうですわね。まあ、楽しんでおられるのであれば構いませんが……」
ユナとリーゼロッテがそう言う。
た、確かに……。
俺の技術では、普通に投げるのとあまり変わらない。
「そ、そうだ。楽しめばいいのだよ、楽しめば」
俺は震え声でそう言い訳をする。
「マリアもやる! とりゃあああぁっ!」
マリアが俺のマネをして、釣り竿を円状に回転させる。
「ちょ、ちょっとマリアちゃん。危ないわよ」
マリアの隣で釣りをしているユナがそう注意する。
マリアは力加減が甘い。
釣り針が必要以上に大きな円を描いて回転している。
そしてその釣り針が、ユナのスカートあたりに着弾した。
しかし、マリアはそれに気づかずにそのままキャスティングを実行した。
「いっけええぇ! すぱいらる・きゃすと!」
「ちょっ。きゃあああぁっ!」
お?
おお!
マリアの釣り針がちょうどユナのミニスカートに引っかかっていたようだ。
その状態でマリアが釣り針を投げたので、ユナのミニスカートがめくれている。
「「ふむ、なるほど……。赤、か……」」
俺はそうつぶやく。
ちょうど同じタイミングで、シュタインも同じことをつぶやいている。
「むっ!? シュタイン、お前まさか、あれを見たのか?」
「ああ、いいものを見させてもらった。眼福だ」
くっ。
俺の第五夫人(予定)のユナのパンツを他の男に見られるとは……。
ウォルフ村でもドレッドやジークに見られてしまったが、彼らはユナと兄妹だった。
他人に見られたのは、俺が知る限りでは今回が初だ。
ぐぬぬ。
ちょっとした寝取られ気分だ。
俺は寝取られものが大嫌いなんだ。
かくなる上は……。
「シュタイン。申し訳ないが、目を潰させてもらっても構わないだろうか?」
「な……。構うに決まっているだろう! 怖いことを言うな! 落ち着きたまえ」
シュタインがそう答える。
彼の言う通り、少し落ち着こう。
……確かに、俺は冷静でなくなっていたようだ。
別にパンツくらい、減るものでもないしいいか。
そもそも俺とユナは、まだ正式には結婚していないしな。
「ふふん。マリアちゃん。私がお手本を見せてあげるわ。いくわよ!」
ユナもほとんど気にせず、釣りを再開している。
「わあい。ユナお姉ちゃん、上手だね!」
マリアは、ユナやニムあたりと仲がいい。
今回は、3人で近い場所に陣取って釣りを楽しんでいる。
そんな感じで、釣りはなごやかに進んでいった。
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