378話 屋形船でのハプニング

 蒼穹の水晶の使い道を相談した翌日になった。

 

「我が盟友、タカシよ。約束していた通り、今日はこの街”リバーサイド”の名物料理を振る舞おうではないか」


 シュタインがそう言う。


「ああ、期待しているぞ。それで、どんな料理なんだ?」


「ふふふ。見てのお楽しみだ。まずは、付いてきたまえ」


 シュタインがそう言って、付いてくるように促す。

 俺たちは彼に従い、歩きだす。


「わくわくしますね。今日はたくさん食べます!」


「ボクもちょっと期待してる。変わった料理が出てくるのかな」


 ミティとアイリスがそう言う。

 モニカやニムたちもそわそわしている。

 そんな感じで、俺たちは歩みを進めていった。



●●●



「さあ。この船に乗りたまえ」


 シュタインがそう言う。

 彼が示す先にはーー。


「ほほう。なかなか立派な船だな」


「なるほど……。これに乗って、移動するわけですね」


 サリエがそう言う。


 街中を移動しつつ、景色や食事を楽しむための船だろう。

 日本で言うところの、屋形船のような形状だ。


 全長は10~20メートルぐらい。

 屋根が付いている。

 その下には、テーブルも用意されている。

 

 俺たちは船に乗り込んでいく。

 先頭は、モニカとニムだ。


「よっ、と」


 モニカが軽快な足取りで船に乗り込む。


「み、みなさん。足元に注意してくださいね」


 ニムはどっしりと非常に安定感のある立ち姿だ。

 彼女は、ミリオンズの中でも屈指の総合身体能力を持つ。


「むっ!? わわっ。……結構揺れますね」


 ミティが姿勢のバランスを取りつつそう言う。


「そうですわね。何かに掴まらないと、転んでしまいそうですわ」


 リーゼロッテがそう言う。


「ミティ。それにリーゼロッテさん。手を……」


 俺はそう言って、彼女たちに手を差し出す。

 俺たちミリオンズの中で、足腰が弱いのはこの2人だ。


 アイリス、モニカ、ニムは強靭な下半身を持つ。

 ユナとマリアは、筋肉はさほどないが身のこなしは軽快だ。


「ありがとうございます!」


「助かりますわ。ありがとうございます」


 ミティとリーゼロッテがそう言って、俺の左手と右手をそれぞれ掴む。

 ミティの夫として、それにリーゼロッテの将来の夫として、いいところを見せられたようだな。


「タカシさん……。わ、私もお願いします」


「サリエ? わかった。ちょっと待っていてくれ」


 いけない。

 サリエも足腰は強くない。

 彼女にもサポートをしないと。


 しかし、俺の両手は塞がっている。

 少し待ってもらうしかない。


「わかりました。……わわっ。ちょっ……!」


 そうこうしているうちに、サリエがバランスを崩す。

 そして、俺のほうに倒れ込んでくる。


「うおっ!」


 普段の俺であれば、もちろん持ちこたえただろう。

 基礎ステータス強化系のスキルをちゃんと伸ばしてきているからな。


 しかし今の俺は、両手でミティとリーゼロッテを支えている。

 その上、そもそも揺れる船上という不安定な足場だ。

 さすがの俺でも、そこにサリエが倒れ込んできたら、受け止めきれない。


 ドターン!

 俺は倒れ込んでくるサリエ、それにミティとリーゼロッテとともに、盛大に倒れた。


 むにゅっ!


「……ん? なんだ、この感触は……?」


 むにゅっ、むにゅっ!

 柔らけえ……。

 どこかで覚えのある感触だが……。


「ひゃうっ!」


「やあんっ!」


 リーゼロッテとサリエがそう嬌声を上げる。

 何がどうなっているんだ?

 視界が何かで塞がっていて見えない。

 何とか体勢を整えないと……。


「ふごっ! 俺の顔の前が何かで塞がっている。どいてくれないか?」


「はうっ! タ、タカシ様の息が……」


 ミティがそう嬌声を上げる。

 なんだなんだ?

 マジで、何がどうなっているんだってばよ?


「ふふん。何をイチャついているのよ!」


「まったくだよ。ほら、ボクの手を取って……」


 ユナとアイリスの声が聞こえる。

 彼女たちが、リーゼロッテ、サリエ、ミティの体勢を順に整えてくれているようだ。

 そしてようやく、俺自身も自由になれた。


「ふう。やれやれ。ひどい目にあった」


 俺はそうつぶやく。


「……もう! それはこっちのセリフですわ!」


「そうですよ! タカシさんは、ちゃんと責任を取ってくださいね!」


 リーゼロッテとサリエが顔を赤くしてそう言う。


「お、おう? 任せろ」


 何が何だかよくわからないが、とりあえず俺はそう返答しておく。

 もしかして今のは、俗に言うラッキースケベだったのか?


 確かに、あの感触はあれの感触だったのかもしれない。

 この柔らかさを覚えておこう。

 いつか、堂々と堪能できる日がくることを信じて。


「……ふむ。タカシの女好きは、やはり相当だな。私では敵わない」


 シュタインが感嘆したような表情でそう言う。

 いや、これはわざとではなくて事故だ。

 女好きは関係ないのだが……。


「ふふ、シュタイン君は、そんなことを競う必要はないよ。そもそも、私の目が届かないうちに新しく7人も奥さんを迎えているでしょ。君も十分に女好きだよ。いくら私の治療のためだったとはいえ」


 シュタインの第一夫人であるミサがそう言う。

 彼女にしてみれば、自分が記憶障害に陥っている間に、夫がたくさんの女をつくったわけだからな。

 かなり複雑な思いを抱いているのだろう。

 シュタインのことを恨んだりはしていない様子だが、たまに目つきが怖いときがある。


 そんな感じのひと悶着はあったものの、俺たちミリオンズ、シュタイン、ミサは無事に屋形船に乗り込んだ。

 船の操舵のために船頭なども乗り込んでいる。

 そして、船が出発する。


 優雅な気分だ。

 こうして見知らぬ街中をゆっくりと船で巡るというのは、かなり趣深い体験だな。


「わーい! マリア、お船に乗るの楽しい!」


 マリアが元気にそう言う。

 他のみんなも、楽しんでいる様子だ。


 船は、街中をゆったりと進んでいく。

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