374話 みんなのスキル強化 前編

 リーゼロッテとサリエからの詰問の時間を何とか乗り越えた。

 彼女たち、それにマリアとの結婚の話を真剣に検討していかねばならない。


 それはそうとして、この街を出発する1週間後までにいろいろと済ませておきたい用事がある。

 まずは、ステータス操作の件だ。


 俺たちミリオンズのレベルがそれぞれ上昇している。

 日々の狩りと、先日のゴブリン討伐作戦によるものだ。

 俺は蓮華との果し合いやシュタインとの決闘もあった。


 俺はレベル23から25に。

 ミティは22から24に。

 アイリスは23から25に。

 モニカは21から23に。

 ニムは21から23に。

 ユナは22から24に。

 マリアは7から12になった。

 ちなみにサリエの初期レベルは7だった。


 レベルアップに伴い、それぞれにスキルポイントが追加されている。

 さらに、忠義度を新たに40達成したことによるミッション報酬のスキルポイントも入っている。

 みんな、たくさんスキルを強化することができる。


 ラスターレイン伯爵領にあるダンジョンの攻略と、ファイアードラゴンの再封印戦で役立ちそうなスキルを強化しておきたい。


 今は、ミリオンズのみんなでソーマ騎士爵邸の客室でゆっくりしているところだ。

 俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ、マリア、サリエ。

 8人がゆったりできるなかなか大きな部屋である。


 ちなみに、リーゼロッテは別室だ。

 彼女ともかなり親密になりつつあるが、まだミリオンズには加入していないからな。


「さて……。みんなには朗報があるぞ。ミッションの達成やレベルアップに伴い、みんなそれぞれスキルポイントがたくさんたまっている。具体的には……」


 俺はそれぞれの現在のスキルと残りスキルポイント整理した紙を渡す。

 サリエにも、事前に俺のステータス操作の力の概要をざっくりと説明しておいた。

 加護(小)による恩恵を感じていたためか、これまでのモニカやユナ以上にすんなりと信じてもらうことができた。


「あと、今までにも話していた通り、次の山場はファイアードラゴンの再封印だ。そこも考慮して伸ばす力を考えてくれ」


「その件だけど……。ボクは、ファイアードラゴン戦ではあまり活躍できないかもね」


 アイリスがそう言う。

 確かに、格闘で戦うアイリスはファイアードラゴンと相性が悪い。

 ファイアードラゴンの体表は超高熱だそうだからな。


「そうだな。しかし、道中のダンジョンを進んでいく際に有用そうな力を伸ばすだけでも、大きいだろう。そのあたりも考えておく必要がある」


 俺の言葉を受けて、みんなが真剣な表情で考え始める。

 自分の能力をどう伸ばすかを判断する重要な局面だ。


 とはいえ、事前に大まかな内容は伝えてあるし、方向性は普段から考えてくれている。

 今この場で深く悩んでいる者はいなさそうだ。


「順番に整理していこう。まずは、ミティの考えを聞いていいか?」


「私は闘気術レベル4を5に伸ばしていただこうと思います!」


 ミティが元気よくそう言う。


「ふむ。長所を伸ばすという方針は、前回と変わらずか? 新たにマリアとサリエが加わったことだしな」


「そうですね。それに、今度のダンジョンとファイアードラゴンの件では、リーゼロッテさんたちラスターレイン伯爵家の方も同行されるでしょう。短所を補うよりは長所を伸ばして、私にしかできないことを増やそうと思っています」


 ミティがそう答える。

 俺たちミリオンズも、ずいぶんと大所帯になってきた。

 下手に個人レベルでバランスを取ろうとして器用貧乏になるよりは、一点特化で突き抜けたほうがいい。


 彼女の場合、特化するポイントはパワーとなる。

 現状で、槌術レベル5、投擲術レベル4、腕力強化レベル5、闘気術レベル4あたりを持っている。

 槌術と腕力強化はこれ以上伸ばせない。

 投擲術か闘気術あたりが第一候補ということになる。

 今回は、彼女は闘気術を選択したわけだ。


「よし、闘気術を強化することにしよう。ミティのパワーは頼りにしている。よろしくな」


 彼女の豪腕は本当にすごい。

 少し前のゴブリンキング戦でも、彼女の”ギガント・ホームラン”や”メテオドライブ”という強烈な技には助けられた。

 ゴブリンキングは相当タフだったので、彼女がいなければもう少し長期戦になっていたことだろう。


「がんばります! むんっ」


 ミティがかわいく意気込む。

 戦闘能力以外にも、彼女には鍛冶という特技もある。

 そういえば、彼女には1つつくってほしい武器があるのだった。

 明日か明後日にでもシュタインのツテで鍛冶場を借りて、つくってもらうよう依頼してみよう。



「次はアイリスだな。どう考えている?」


「ボクは、格闘術レベル4を5に、気配察知レベル1を2に、脚力強化レベル1を2にしてもらおうかな」


 アイリスがそう答える。


「ふむ? レベル4のスキルを5に伸ばす方針は賛成だ。しかし、聖闘気術、聖魔法、治療魔法あたりではなくて格闘術なんだな」


 俺はそう言う。

 ミティと同じ理由で、既に高いレベルにあるスキルをさらに伸ばす方針自体には同意する。

 彼女が持っているレベル4のスキルは、格闘術、聖闘気術、聖魔法、治療魔法の4つだ。

 その中でも、彼女は格闘術を選んだということになる。


「うん。今度のダンジョン攻略とファイアードラゴン戦を考えてみたんだけどね。ファイアードラゴン戦では、ボクはあまり力になれそうにない。格闘と炎は相性が悪いからね」


「ふむ。確かに、高温のファイアードラゴンを相手に肉弾戦を臨むのは厳しいだろうな」


 俺はそう言う。

 ファイアードラゴンについても、わかっている範囲でリーゼロッテから情報提供を受けている。

 体表が超高温であるため、格闘はもちろん剣や槌で戦うのも厳しいらしい。

 基本は魔法や遠距離攻撃で戦うことになる。


「それなら、ボクはダンジョン道中の探索で貢献することにしたんだ。聖闘気は短期決戦向きだから、今回は却下。格闘術と脚力強化を伸ばせば、適度に体力を温存して貢献できると思う。気配察知のスキルで奇襲にも対応できるし」


「なるほど。いろいろと考えているんだなあ。それで問題なさそうだ」


 俺はそう感心する。

 アイリスの方針は決まった。



 次はモニカだ。


「モニカはどうしようか?」


「うーん。本当は、料理術レベル4を5に伸ばしたいと思っていたんだけど……。ダンジョン攻略やファイアードラゴン戦も意識しないといけないし……」


 モニカが難しい顔をしてそう言う。

 彼女が言葉を続ける。


「今回は、魔力強化レベル3を4にしてもらおうかな。それに、MP強化を取得してレベル2にまで伸ばしたい」


 モニカがそう答える。


「ええと。今回は、魔法関係に特化して伸ばすわけだな」


「そうだね。前回は雷魔法をレベル5にしてもらったけど、オリジナルの雷魔法を創るのに苦労しているんだ。魔力やMPが上がれば、何とかなるかもしれない。”雷天霹靂”の持続時間も増えるだろうし……」


 雷魔法レベル5は雷魔法創造だ。

 攻撃力、攻撃対象、攻撃範囲、詠唱時間、イメージ、込める魔力量などに応じて自在に魔法を創り出すことができる。

 とはいえ、もともとのMPや魔力が心もとなければ、その分創り出せる魔法にも制限が出てくる。

 MPや魔力のステータスを伸ばせば、より強力で使い勝手のいい雷魔法を創造することも可能だろう。


「何とか、ダンジョン攻略やファイアードラゴン戦に間に合うといいな」


「うん。がんばってみる」


 モニカがそう意気込む。

 彼女の強化方針は決まった。



 次はニムだ。


「ニムはどう考えている?」


「わ、わたしは、MP強化レベル3を4に、体力強化レベル3を4にしていただきたいです」


 ニムがそう答える。


「なるほど? 既存のスキルを強化する方針だな」


「そ、そうですね。ファイアードラゴンにわたしの土魔法がどの程度通用するかわかりませんので、わたしも道中のダンジョンで貢献したいと思っています。そのために、長く戦うための能力を伸ばしたいのです」


「ふむふむ。つまり、継戦能力の増強か」


 魔力強化や各属性の魔法のスキルを伸ばせば、戦闘能力は上がる。

 しかしそれだけでは、継戦能力の上昇に直接的には寄与しない。


 腕力強化や格闘術などのスキルを伸ばせば、戦闘能力は上がる。

 しかしこちらも同じく、それだけで継戦能力が大きく向上するわけではない。


 MP強化や体力強化を伸ばすことによって、長期戦や連戦にも耐えられるようになるだろう。

 ニムは土魔法によって抜群の防御力を誇る。

 彼女は、ミリオンズの安定感の向上にとても大きく貢献してくれている。

 なくてはならない存在だ。


「わ、わたしもがんばっていくので、婚約の件は忘れないでくださいね」


「ん? それはもちろん忘れていないが」


「な、ならいいのですが……。どんどんすてきな大人の女性がタカシさんと仲良くなっていますし、わたしは不安なのです……」


 ニムがそう言う。

 この国で結婚が可能になる年齢は12歳だ。

 俺がモニカと結婚することになったときにニムとの結婚話も出たのだが、当時彼女は11歳と数か月だったので結婚はできなかった。

 その代わりに、12歳になったら結婚するという約束をしたのだ。


「すまない、不安にさせてしまっていたか。俺はニムのことも魅力的だと思っているぞ。むしろ、今さら嫌だと言われても俺と結婚してもらう」


「そ、そうですか! 安心しました。リーゼロッテさんとの一件が終われば、ラーグの街で結婚しましょうね。楽しみにしています」


 ニムがそう言う。

 リーゼロッテのファイアードラゴンの件が終わる頃には、ニムは今よりもひと回り大人になっていることだろう。

 この年代の数か月は大きいからな。

 そうなれば、ニムの両親が待っているラーグの街で結婚式を挙げるのがいい。

 みんな祝福してくれると思う。


 俺、この戦いが終わったら結婚するんだ!

 彼女との幸せな結婚をするためにも、いろいろとがんばっていかないと決意を新たにする。


 ニムの方針は決まった。



「次はユナだな。どのように考えている?」


「今回は、獣化術レベル2を3に、テイム術レベル2を4にしてもらおうかしら」


 ユナがそう言う。

 彼女は赤狼族という、犬獣人系の少数種族だ。

 普段は人族と同じ外見をしているが、獣化術を使用すると外見が変容する。

 具体的には、耳が狼っぽくなり、牙が生える。


 もちろん外見の変容だけではない。

 運動機能が格段に向上し、身のこなしが軽やかになる。

 ウォルフ村でのニムとの模擬試合では、高い木の上に軽々と登っていた。


 さらに、彼女たち赤狼族は炎の精霊の加護も受けており、獣化時にはそれが強く出る。

 体温が上昇して暑くなるため、獣化時には極端な薄着となる。

 足は靴や靴下を脱いで素足となる。

 スカートは、パンツが見えそうで見えないぐらいの超ミニスカート。

 上は、へそ出しの半袖Tシャツみたいな服装となる。

 あの服装も刺激的で魅力的だった。


「ふむ。弓術レベル4や火魔法レベル4を5に伸ばすのではなく、獣化術とテイム術を強化するのか」


「そっちとも悩んだけれどね。獣化術は火耐性が向上するから、ファイアードラゴン戦で少しでも戦えるようになるかなって。テイム術は、道中のダンジョンで強そうな魔物をテイムしたい感じね」


 ユナがそう言う。


「なるほどな。わかった。それでいこう」


 みんなよく考えている。

 念のためにみんなで情報共有をしているが、俺があれこれ口を挟む必要もなさそうな感じだ。


 これで、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナの強化方針を決めたことになる。

 残りは、マリア、サリエ、そして俺だ。

 続けて、相談していくことにしよう。

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