373話 サリエへの加護付与/リーゼロッテへの加護(小)付与

 翌朝になった。

この街を出発する日まで、まだ1週間ほどある。


 今日も精力的に、いろいろと用事を済ませていこう。

……そう思ったが。

朝食後、女性陣に囲まれてしまった。

何やら責めるような目つきである。


 先頭に立つのは、リーゼロッテとサリエだ。


「タカシさん。責任を、どうお考えでしょうか?」


 リーゼロッテがそう言う。


「せ、責任?」


 俺はそう問い返す。

緊迫した空気に、思わず声が震える。


 サリエが1歩前に出る。


「もちろん、私たちの……ゴニョゴニョ……を見たことに対する責任です。未婚の女性を傷物にしておいて、何も責任を取らないつもりではございませんよね?」


 彼女がそう言って、ニッコリとほほ笑む。

笑顔の裏に何やら迫力を感じる。

怖い……。


「う、うむ。もちろん責任は取るつもりだとも。リーゼロッテさんとサリエが、俺でいいのであればだが」


 俺としては、責任を取って彼女たちと結婚することに問題はない。

しかし、彼女たち自身の意向も汲まなければならない。

場合によっては、なかったことにするのもありかもしれないが……。


「私はタカシさんがいいです。父も喜んでくれるでしょう」


 サリエがそう言う。

俺はかつて、彼女の難病を治療したことがある。

彼女の父のハルク男爵とも面識がある。

治療した功績に加えて、騎士爵に成り上がったことだし、心証は悪くないはずだ。


 さらに、俺としても彼女をぜひとも妻に迎え入れたい理由が2つある。

彼女自身が魅力的な女性であるのが1つ。

そしてもう1つは、彼女に対して加護の付与に成功したことだ。

俺とシュタインの決闘を通して、彼女の忠義度がとうとう50に達したのである。



レベル7、サリエ=ハルク

種族:ヒューマン

身分:モルガン=ハルク男爵家次女

役割:医師

職業:治療魔法士

ランク:E


HP:61(47+14)

MP:35(27+8)

腕力:27(21+6)

脚力:29(22+7)

体力:29(22+7)

器用:34(26+8)

魔力:42(32+10)


武器:オリハルコンクラブ

防具:レザーアーマー(上)


残りスキルポイント:35

スキル:

棒術レベル2

治療魔法レベル2「キュア、ヒール」

裁縫術レベル1

社交術レベル1


称号:

タカシの加護を受けし者



 加護(小)によってもたらされていたステータス補正は、やはり一度リセットされるようだ。

今の彼女の基礎ステータスには、ミティやアイリスたちと同じく3割の補正がかかっている。


 一方で、スキルの強化は永続的だったらしい。

棒術と治療魔法のレベルが2のままだ。

少し得した気分だ。


 そして、加護(小)の時点では???表記だったステータス欄やスキル欄がきちんと表記されるようになっている。


 ステータスは、魔力とMPが高めだ。

魔法使い向きであると言えよう。

本人の希望をもう1度確認して、治療魔法をどんどん強化していくのが良さそうか。

何らかの攻撃魔法を1種類伸ばしていくのもありだろう。


 器用の値も少し高めである。

特技の裁縫で培ったのだろうか。

スキルとしても、ちゃんと裁縫術レベル1がある。


 低めなのは、腕力、脚力、体力だ。

まあ、彼女は難病により長い間伏せっていたからな。

むしろ、その割にはなかなか健闘していると言っていいだろう。


 棒術レベル2を持っているが、基礎ステータスの特性から判断するとムリに伸ばしていく必要はない。

本人の希望を確認しつつ、治療魔法や攻撃魔法を伸ばして後衛として活躍してもらうのがいいだろう。

棒術は、いざというときの最低限の自衛程度でいい。


 あとは、社交術のスキルを持っているのが気になる。

俺のステータス操作の項目にはなかったスキルだ。

闘気術、聖闘気術などと同じくレベル1は自力で取得しなければならないタイプか。


 俺は騎士爵を授かっている。

ステータス操作というチートを駆使すれば、さらなる成り上がりも狙えるだろう。

貴族界との交流や礼儀作法には今のうちに通じていたほうがいい。

サリエから社交術の基本を教えてもらうことにしよう。


 俺はそんな感じで思考を整理する。

サリエとは、俺としてもぜひ結婚したいところだ。


 そしてーー。


「わたくしはタカシさんで十分ですわ。おいしい料理を用意してくれますし、あまりうるさいこともおっしゃりませんし……」


 リーゼロッテがそう言う。

良質な食事を用意して、あまり口出しさえしなければ及第点なのか。

彼女の伴侶に対する合格ラインは結構低いな。

まあ、彼女は色恋よりも食い気が勝っている感じではあるが。


 とは言いつつも、彼女の俺に対する忠義度も実は40を超えた。

俺のことを憎からず思ってくれているのは間違いないだろう。

恋慕の情というよりは、うまい料理を用意してくれる便利屋ぐらいに思われているかもしれないが。


 忠義度40を超えたので、さっそく加護(小)を付与しておいた。



レベル?、リーゼロッテ=ラスターレイン

種族:ヒューマン

身分:リールバッハ=ラスターレイン伯爵家長女

役割:測量士

職業:水魔法使い

ランク:C


武器:アクアロッド

防具:レザーアーマー(上)


HP:???

MP:???

腕力:???

脚力:低め

体力:???

器用:???

魔力:高め


残りスキルポイント:???

スキル:

水魔法レベル5(4+1) 「ウォーターボール、アイスボール、アイスレイン、ブリザード、水魔法創造」

治療魔法レベル2(1+1) 「キュア、ヒール」

???


加護付与(小)による補正:

全ステータスの2割上昇

所持スキルの内の最大3つのスキルレベルをそれぞれ1ずつ上昇



 もともとの水魔法のレベルが4だ。

1年半ほど前の時点では、中級のアイスレインまでしか使えなかったはず。

この1年半で、しっかりと鍛錬を積んでいたようだ。


 加護(小)の恩恵により、水魔法がレベル4から5に上がることになる。

レベル5は、水魔法創造だ。

彼女のオリジナル水魔法を創れるようになる。


 また、ラスターレイン伯爵家に代々伝わる最上級の水魔法である”ディザスターストーム”や”エターナルフォースブリザード”の独力での発動も可能になっているかもしれない。

ファイアードラゴンの再封印に向けて、戦力が格段に強化されたことになる。


 ファイアードラゴンの件が片付いた後、彼女がミリオンズに加入してくれれば、非常に頼りになる。

水魔法レベル5はおそらく相当に強力な魔法だろうからな。

それに伯爵家とのパイプもできるし、もちろん彼女自身が魅力的な女性でもある。


「サリエとリーゼロッテさんがそう言うのであれば、俺が断るわけにはいかないな。……ミティたちも構わないか?」


 どんどん見境なく妻を増やして、そろそろミティやアイリスに愛想を尽かされるかもしれない。


「まあ……仕方ありません。でも、できれば第一夫人の座は私のままにしてほしいです!」


 ミティがそう言う。

彼女が自己主張をするのは少しめずらしい。


 そうか。

第一夫人の座か。


 今までは、単純に結婚した順に第一夫人、第二夫人、第三夫人としてきた。

第一夫人がミティ、第二夫人がアイリス、第三夫人がモニカである。


 しかし……。

伯爵家長女であるリーゼロッテ、男爵家次女であるサリエ、王家の姫であるマリアあたりと結婚するとなると、その序列を崩さざるを得なくなるのか?

ミティが嫌がっているので、俺としても現状のままにしたいところである。


 妻たちへの愛に順位を付けるのは非常に気が引ける。

胃が痛い。


 単純に結婚した順にしておいたほうが、俺の精神的負担が少ない。

まあ、俺がこの世界に来た直後からいっしょに歩んできたミティへの愛情が最も大きいのは間違いないだろうが……。


「言っておくけど、ボクも第二夫人の座を譲る気はないから」

「もちろん私も」


 アイリスとモニカがそう言う。

数字の割り振りは形だけのものではあるが、やはり自分より後に結婚した者の序列が高くなるのは嫌なようだ。

気持ちは理解できる。


「わ、わたしは第四夫人を予約していますから!」

「ふふん。私も、長い付き合いだし第五夫人にしてほしいわね。この間の儀式を、プロポーズということにしましょう」


 ニムとユナがそう言う。

ニムとは大勢の前で婚約を発表しているし、今さら取り下げるわけにはいかない。

ユナとは長居付き合いなので、扱いにも気を配る必要がある。


「……と、いうことだ。貴族であるリーゼロッテさんとサリエには悪いが、第六夫人以降ということになる。……こういうのは、問題ないのだろうか?」


 俺はそう問う。

貴族界においては、結婚した順番ではなくて家格によって序列が決まるのが通例だろう。

リーゼロッテを第一夫人、サリエを第二夫人とするべきかもしれない。

マリアとの結婚は年齢的にまだ先になるが、そのときになればまた入れ替えることになるのか?


「ええと……。伝統にうるさい一部貴族からは顰蹙を買うかもしれませんが、あまり大きな問題はありませんわ。お父様も家格に対する拘りはさほどありませんし……」


 リーゼロッテがそう言う。

彼女の父は伯爵だが、そんなに頭は固くないようだ。


「そうですね……。幸い、サザリアナ王国の現国王ネルエラ陛下も、伝統よりは実力を重視する方です。タカシさんが騎士爵として十分な功績を上げている限りは、とやかくは言われないでしょう」


 サリエがそう言う。

国王陛下か。

俺はまだ会ったことがない。


 いずれは、王都で叙爵式が開かれる。

そのときに粗相をしないよう、それまでに礼儀作法を身に着けておかないとな。


「ふむ……。なら、リーゼロッテさんとサリエが構わないのであれば、第六夫人と第七夫人として迎え入r……」

「タカシお兄ちゃん! マリアを忘れてるよ!」


 俺の言葉にかぶせて、マリアがそう言う。

忘れていたわけではないのだが、年齢の問題もあるし棚上げしていたのだ。


「もちろん覚えているとも。マリアとも結婚しようか。でも、バルダイン陛下とナスタシア王妃にも相談しないと……」


 俺はそう言う。

他国の王族を迎え入れることになる。

伯爵家のリーゼロッテや男爵家のサリエよりも、さらに丁重に扱う必要があるだろう。

慎重に判断したい。


「わかった! 楽しみだね!」


 マリアが無邪気にそう言う。


「マリアさんもですか……。それは確かに、デリケートなところですわね。どの道お父様にも相談しないといけませんし、今日のところはこれ以上の話はしないでおきましょう」


 リーゼロッテがそう言う。

彼女やサリエにも、マリアの素性は説明済みだ。


「では、私もそうしましょう。タカシさん、誠意あるご対応をお願いしますね」


 サリエがニッコリとほほ笑み、そう言う。

だからその笑顔は少し怖いんだって!


 彼女は病弱で儚げな印象があったが、もうすっかり元気になった。

どちらかと言えば、恐妻家の雰囲気がある。

彼女を怒らせないように、気をつけねばならない。

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