357話 ソーマ騎士爵領への道中 山越え前
引き続き、ラーグの街からソーマ騎士爵領へ馬車にて移動しているところだ。
旅は順調。
たまに魔物と遭遇することもあるが、まったく問題なく討伐できている。
俺たちミリオンズの戦闘能力の前に敵はない。
改めて、俺たちミリオンズの戦闘能力をざっくりと整理しておこう。
俺がBランク。
ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナがCランク。
マリアとサリエがEランクである。
俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナの6人パーティの時点で、Bランクパーティの認定は受けている。
そこに、マリアとサリエが加わった。
まだまだ成長途上ではあるが、戦力としてマイナスになるほどでもない。
マリアはステータス操作により火魔法や格闘に秀でているし、サリエは初級の棒術により最低限の護身程度はできている。
戦闘能力において、俺たちミリオンズが窮地に陥ることは考えにくい。
また、ミリオンズは戦闘能力だけでなく、索敵能力も高い。
俺は馬車の進行方向をざっと見渡す。
「順調だな。近くに魔物の気配もなし。このままどんどん進んでいくぞ」
「平和な道だねー。油断大敵ではあるけど」
俺とアイリスがそう言う。
俺は気配察知レベル2、視力強化レベル1、聴覚強化レベル1を持っており、安定した索敵能力を持つ。
リーダーとして、魔物や盗賊などの奇襲を警戒しておかなければならない。
アイリスは気配察知レベル1と視力強化レベル1を持っている。
索敵において、スキル構成だけで言えば彼女は俺の下位互換だ。
しかし、彼女は俺と出会う前からそれなりの経験を積んでいるし、判断力もある。
パーティの安定性の向上に一役買ってくれている。
「だいじょうぶ。近くから強そうな魔物の鳴き声は聞こえないよ」
「くんくん……。異臭もありません」
モニカとニムがそう言う。
モニカは聴覚強化レベル1を持っている。
また、スキルとは別に兎獣人の生来の特徴としても聴覚に優れている。
その並外れた聴覚を活かして、俺やアイリスより先に魔物を発見することもある。
ニムは犬獣人の生来の特徴として、嗅覚に優れている。
その抜群の嗅覚を活かして、俺、アイリス、モニカよりお先に魔物を発見する可能性もある。
ブギー盗掘団の捕縛作戦の帰路では、誰よりも早くビッグスメリーモンキーの接近に気がついた。
「ふふん。ファルも帰ってきていないし、飛行している大型の魔物もいないみたいね」
ユナがそう言う。
ユナはテイム術レベル2を持っている。
数日前には、ファルコンバードという鳥型の魔物のテイムに成功した。
ファルコンバードはファルと名付けられた。
彼女はテイム術の練習がてら、ファルを馬車から先行させて飛ばしている。
何か異変があれば、馬車に戻って来させて報告させる感じだ。
テイムの効力の1つとして、魔物との意思疎通能力の向上もあるらしい。
何となく言っていることがわかる気がするとのことだ。
「マリア、ヒマだよー。ファルちゃんのところに行ってくるね!」
「わかった。くれぐれも気をつけてな」
マリアが馬車上から飛び立って、先行しているファルのほうへと向かっていった。
マリアはハーピィの生来の特徴として、飛行能力を持っている。
彼女はまだミリオンズとしては新米。
あまりムリはさせたくないので基本的には馬車上でおとなしくしてもらっている。
しかし、今回のように、ムリのない範囲で馬車から離れて空を飛んでいることもある。
要するに、ヒマつぶしだ。
マリアが経験を積んで、戦闘能力や判断力が向上してくれば、偵察員としてもっと前面に出していくことも検討したいところだ。
「私は索敵では力になれませんが、戦闘ではお任せください!」
「軽いケガであれば私が治します。それぐらいはさせていただかないと、立場がありません」
ミティとサリエがそう言う。
彼女たちは、索敵に適した特別な技能を持っていない。
索敵で貢献できないのを少し気にしている感じか。
ミティは、戦闘や鍛冶で多大な貢献をしてくれている。
俺はもちろん、本人や他のメンバーにおいても、それは共通認識だろう。
少し懸念があるのは、サリエだ。
彼女が得意とするのは、治療魔法、棒術、そして裁縫術である。
とはいえ、いずれも初級。
ステータス操作により強大な力を持つ他のメンバーと比べると、どうしても見劣りはしてしまう。
俺が彼女のミリオンズ入りに同意したのは、本人の希望やハルク男爵から受けた恩の件もあるが、何より加護付与の条件を満たすことに期待してのことだ。
彼女の忠義度は、ミリオンズに加入した時点で30超え。
今は39。
あと1で、まずはミッション条件を満たす。
その後も忠義度を伸ばせるようにがんばって、早めにステータス操作で能力を伸ばしてあげたいところだ。
俺はそんなことを考えつつ、馬車に揺られる。
今整理した通り、俺たちミリオンズは抜群の戦闘能力と高い索敵能力を持つ。
街から街への道中だろうと、さほどの危険はない。
また、俺たちミリオンズ以外にも、リーゼロッテたちラスターレイン伯爵家一行がいることも大きい。
リーゼロッテはCランクの水魔法使い。
彼女の筆頭護衛騎士であるコーバッツは、Cランクの槍士だ。
確かな槍の技術と、的確な判断力を持つ。
ミリオンズの馬車から少し先行しているラスターレイン伯爵家の馬車から、コーバッツがこちらに顔を向ける。
「タカシ殿。これより山道に入る。さほど高くない山ではあるが、ここまでよりも少し魔物の出現率や戦闘能力は上がるだろう。こちらでも警戒はするが、そちらも十分に注意してくれ」
「わかった。忠告に感謝する」
俺はそうお礼を言う。
コーバッツと俺の関係性は、少し微妙なところだ。
以前の俺は、駆け出しのEランク冒険者。
対して彼は、確かな実力のあるCランク冒険者。
俺が彼に対して敬語を使うことに、何の違和感もなかった。
しかし今の俺は、Bランク冒険者にして、サザリアナ王国から騎士爵を授かった。
対して彼は、Cランク冒険者としては活動を一時休止し、伯爵家の長女であるリーゼロッテの筆頭護衛騎士の任に戻った。
伯爵家長女の筆頭護衛騎士の立場は立派なものではあるが、騎士爵本人である俺のほうが立場は上だ。
俺が彼に対して敬語を使うのは、違和感がある。
周りの目もあるしな。
というわけで、俺は彼に敬語を使うのはやめたのである。
「……むっ! この山の中には、結構強そうな魔物がたくさんいるね。遭遇すると少し面倒かも。今のところ、進行方向にはいないけど……」
モニカがそう言う。
強い魔物に遭遇しないまま山を超えられれば理想的だが、多少の戦闘は覚悟しておいたほうがいいかもしれない。
俺は気を引き締め直し、馬車に揺られて進んでいく。
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