356話 ファルコンバードのテイム/センの暗躍
引き続き、ラーグの街からソーマ騎士爵領へ馬車にて移動しているところだ。
俺たちミリオンズは、馬車で移動しながらでもできる鍛錬を行うことでヒマを潰している。
「サリエ。初級の治療魔法のコツだが……」
「……ふむふむ。なるほどです。勉強になります」
俺は、サリエに初級の治療魔法の手ほどきをしている。
彼女は既に最初級のキュアは使える。
治療魔法レベル2のヒールを練習中だ。
彼女の忠義度は、とうとう39に達した。
あとたった1で、40を達成する。
40になれば、ミッションの条件を満たす。
そうすると、ミッション報酬をもらうことができる。
スキルポイント10と、加護付与(小)とやらが気になるところだ。
さて、この数日で起きた新たに特筆すべき事柄が1つある。
「いきなさいっ! ファル!」
「クアアァッ!」
ユナの指示に従い、鳥型の魔物が空を飛んでいく。
ファルコンバードだ。
ユナのテイム術はレベル2。
そこそこの魔物を手懐けることができる。
ファルコンバードは高速の飛翔を得意とする。
攻撃力や耐久力はさほどでもないが、これはこれで役に立つこともあるだろう。
「テイムって、どんな感じなんだ? ただ動物が懐いてくれるのとは違うのか?」
「ふふん。そうね。何か、見えない線で心が繋がれているような感覚があるわ。単純に懐くだけとは違うわね。レッドウルフと仲良くやってきたつもりだったのだけれど、今思えばまだまだだったわ」
ユナがそう言う。
テイム術は、やはりスキルとして何かしらの補正がかかっていると考えてよさそうだ。
彼女はウォルフ村でレッドウルフの扱いに長けていたが、テイム術を持ってはいなかった。
魔物の扱いに長けていることとテイムの技術は少し違うということか。
中型以上の魔物をテイムできれば、戦力的には頼りになる。
しかし、馬車の移動の際に少し邪魔になる。
加えて、食費の問題もある。
とりあえずの最初の1匹としては、ファルコンバードは悪くない選択だったと思う。
様子を見つつ、今後のテイム対象も検討してほしいところだ。
●●●
タカシたちがラーグの街からソーマ騎士爵領へ馬車にて移動している頃。
ラスターレイン伯爵領で、暗躍する1つの影があった。
「うふふ。これまで長かったですわね。もうひと頑張りです」
謎の女センだ。
彼女はとある目的のために活動している。
ハガ王国では、国王夫妻のバルダインとナスタシア、それに六武衆を闇の瘴気で汚染し、人族の街への侵攻をけしかけた。
その結果、カリオス遺跡にてとある魔法陣を作動させた。
ガロル村では、ミティの幼なじみのカトレアに憑依していた霧蛇竜ヘルザムの死体をどさくさ紛れに回収した。
ヘルザムは、彼女の上級闇魔法のいい触媒になるのである。
ディルム子爵領では、数年前から子爵家に出入りし、ディルム子爵に闇魔法をかけていた。
彼が暴走してキメラを解き放ったスキを突いて、紅蓮の水晶を盗み出した。
以上の3件がタカシたちミリオンズとかかわった出来事である。
そしてもちろん、それ以外にもいくつかの活動をしてきた。
「今回のファイアードラゴンの件が片付けば、国外での任務がとうとう完了します。国に戻るのが楽しみですね。久しぶりに天ぷらを食べたいところです」
センがそうつぶやく。
サザリアナ王国やウェンティア王国の料理は、決してマズくはない。
しかし、やはり慣れ親しんだ味を恋しく思う気持ちもあるのだ。
「そのためにも、この国外最後の作戦は万全を期さないといけません。ラスターレイン伯爵家への闇魔法の仕込みは何とか完了……。彼らの魔法抵抗力が高く苦労しましたが、最低限の仕込みはできています。タイミングを見計らってヘルザムを触媒にして増強すれば、彼らも闇の瘴気に汚染されるでしょう」
センの闇魔法は、ラスターレイン伯爵家にも牙を剥いていた。
魔法の名門であるラスターレイン伯爵家の面々は、バルダインやディルム子爵よりも魔法に対する抵抗力が高い。
そんな彼らに対しても、センは粘り強く闇魔法を仕込み続けていた。
最後の仕上げとしてヘルザムを触媒にして出力を上げれば、さしものラスターレイン伯爵家といえどもひとたまりもないだろう。
「うふふ。そして、ラスターレイン伯爵家と寄り親・寄り子関係にあるソーマ騎士爵への対策も万全です。彼は、ラスターレイン伯爵家からの助力要請には応じないでしょう」
ソーマ騎士爵は、ラスターレイン伯爵家と懇意の関係である。
本来であれば、ラスターレイン伯爵家からの助力要請に二つ返事で了承したことだろう。
「不確定因子としては、ハガ王国やディルム子爵領で遭遇したタカシさんでしょうか。焼け死にたくなければラーグの街あたりでおとなしくしているように、彼には忠告しました。言うことを聞いていてくれるとありがたいのですが……。彼とは敵対気味ですが、個人的にはさほど嫌いではありませんし」
センは、別に好き好んで人を貶めたり害したりしているわけではない。
ちゃんと目的があって活動している。
目的に反しない範囲においては、タカシを巻き込みたくないという気持ちがあった。
その感情がどこから湧き出ているものなのか、当の本人も意識はしていないが。
「さて……。わたくしは、ラスターレイン伯爵領に身を潜めつつ、来たるべきときを待つことにしましょう」
センは怪しげな笑みを浮かべて、闇の中に姿を消した。
タカシたちが彼女と激突するのは、まだ先のことである。
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