355話 ソーマ騎士爵領への道中 水魔法のお手本

 ラーグの街からソーマ騎士爵領へ馬車にて移動しているところだ。

移動中の時間を利用して、リーゼロッテに水魔法を教えてもらっている。


 俺の水魔法の実力は見てもらった。

次は、リーゼロッテに水魔法の手本を見せてもらうことになる。


 彼女が水魔法の詠唱を始める。


「水球よ。我が求めに応じ現われよ。ウォーターボール」


 大きな水球が生成された。

直径35センチぐらいだろうか。


「おお。俺のよりも一回り大きいですね」


 俺のウォーターボールは直径30センチぐらいだった。

直径としてはわずか5センチの差ではあるが、容量や重量としてはなかなかの差となる。


 彼女が続けて、水魔法の詠唱を開始する。


「……凍てつきなさい。アイスボール」

「……氷の精霊よ。我が求めに応じ、氷の雨を降らせよ。アイスレイン」


 氷の弾が木に向かって放たれる。

これらは、俺と同じくらいの技量のようだ。


「いやあ。リーゼロッテさんの水魔法はすばらしいですね。特に、ウォーターボールは大きかったです」

「ありがとうございます。わたくしは、我がラスターレイン伯爵家の中でも最初級の水魔法を特に得意としているのです。両親や2人の兄、そして妹のシャルは中級や上級の水魔法のほうが得意ですわ」


 リーゼロッテは中級の水魔法があまり得意ではないと。

彼女は、ラスターレイン伯爵家の中でも少し落ちこぼれ気味だったりするのだろうか。

中級のアイスレインが得意であるほうが、有用だろう。

最初級のウォーターボールが得意だったところで、さほどの意味はなさそうだが……。


「そうですか。やはり伯爵家の方は、みなさん魔法がお得意なのですね」

「ええ。しかし、例のファイアードラゴンを再封印するには少し足りないかもしれません。アイスレインやブリザードは、氷結させることに魔力を使用する分、質量が小さくなります。やはり、純粋な放水系の水魔法のほうが火属性を相手取るには有利となります」


 なるほど?

ポ○モンみたいなものか。

水は火に強いが、氷は火にイマイチとなる。


 とはいえ、氷でも火の勢いを沈静化する効果には期待できるだろう。

同系統の火魔法や、あるいは風魔法や雷魔法よりは有効なはずだ。


「それでは、ウォーターボールを得意とするリーゼロッテさんの出番となるわけですね」

「その通り……と言いたいところですが、そううまくはいかないのです。わたくしでは、水魔法の技量と魔力量が足りないので、最上級の水魔法”ディザスターストーム”を発動できません」


 リーゼロッテがそう言う。

俺の知らない魔法の名前が出てきた。


「ディザスターストーム?」

「ラスターレイン伯爵家に代々伝わる、放水系の最上級水魔法ですわ。嵐のような雨を発生させ、大量の水を降らせます。ちなみに、他には”エターナルフォースブリザード”という氷結系の最上級水魔法もあります」


 ラスターレイン伯爵家の先祖には、水魔法レベル5に達した者がいたのだろう。

その者によりオリジナルの水魔法がいくつか創造され、それが子孫に受け継がれているわけか。


「なるほど。しかし、ファイアードラゴンが目覚める恐れのある数か月後までに最上級魔法を習得するのは、さすがに厳しそうですね」

「ええ。放水系の水魔法を補助する、蒼穹の水晶も結局見つけられませんでしたし……。氷結系の水魔法を扱う両親や兄たちがファイアードラゴン再封印の際の主戦力となります。放水系の水魔法と比べると少し相性は悪いですが、仕方ありません」


 火魔法や風魔法、あるいは剣やハンマーでファイアードラゴンと戦うよりは、氷結系の水魔法で戦うほうがいくらかマシだという判断なのだろう。

放水系の最上級水魔法が使えれば理想的だが、そううまくはいかない。


「わかりました。俺も力になれそうですね」

「はい。少しでも父たちの魔力を温存してダンジョンの最深部までたどり着くために、タカシさんたちミリオンズのお力をお貸しいただければと思っていたのです」


 ダンジョンとやらで出てくる魔物がどの程度のものなのかは知らないが、Cランクパーティである俺たちミリオンズであればそこらの魔物など問題ではないだろう。


「ええ。俺たちに任せてください」

「よろしくお願い致しますわ。それに、タカシさんがこれほどの水魔法を使えるようになられていたのは、うれしい誤算です。ダンジョン道中の護衛戦力としてだけではなく、ファイアードラゴンの再封印の際にもお力になっていただけそうです。詳細は、父たちとも相談致しますが……」


 俺のウォーターボールやアイスレインを使えば、ファイアードラゴンとやらを相手にしてもそこそこ戦えるようだ。

しかし、そうなるとスキルポイントを使って水魔法を強化しておきたいところだな。

今はスキルポイントがないのでムリだが。


 サリエの忠義度が38だ。

もうすぐでミッション報酬の忠義度40を達成する。

そうなれば、とりあえずスキルポイント10は手に入る。


 そして、俺の基礎レベルもそろそろ上がってもいい頃だ。

俺は基礎レベルが1上がる度に、スキルポイントが20入る。


 現状の水魔法レベル3から4に伸ばすためには、スキルポイントが15必要となる。

レベル4から5に伸ばすためには、スキルポイントが30必要となるだろう。

合わせて、45の消費だ。

忠義度40のミッションを達成した上で、俺の基礎レベルが2上がれば水魔法をレベル5まで伸ばすことも可能だという計算となる。


「もっとお役に立てるよう、道中でがんばって練習していきます。ちなみに、俺たちと同様に助力を依頼するという、ソーマ騎士爵の実力はどれぐらいなのでしょう? 何でも、二つ名は”聖騎士”ソーマであるとお聞きしましたが」


 聖騎士ソーマ。

女好き。

またの名を、性騎士ソーマだ。

なかなか情けない二つ名である。


「ああ。彼は、数年前にタカシさんと同じく平民の冒険者から騎士爵を授かった身ですわ。相当な実力がありますよ」


 ソーマ騎士爵も冒険者だったのか。


「ほほう。具体的にはどのような武芸に秀でているのでしょうか?」

「ええと。剣の聖地ソラトリアで修行された経験があると聞いています。斬魔剣の氷結斬を自在に操ります。確か、タカシさんは火炎斬をお得意とされていましたよね。それと対になっている武芸ですわ」


 斬魔剣か。

魔法を剣に纏わせて斬りつける技術だ。


 剣術と魔法。

それに、身体能力や武器性能を向上させるために闘気も要求される。

この3つを高い水準で満たせる者は少数であるため、必然的に斬魔剣の使い手も少数となる。


 俺が知っている斬魔剣の使い手は、俺の剣の師匠であり火炎斬を使えるビスカチオ、火炎斬を使える俺、氷結斬を使えるというソーマ騎士爵のぐらいのものだ。

あとは、俺の配下のキリヤが似たようなことを我流でやっていたか。

名付けるなら、雷轟斬といったところだろう。


「氷結斬ですか。俺の火炎斬も、負けてられませんね。Bランク冒険者、そして騎士爵の名に恥じぬ活躍ができるよう、がんばっていきます」

「頼りにしていますわ。ソーマ騎士爵も、タカシさんと同じBランク冒険者ですわよ。それに特別表彰もされています。領主に就任してからは、活動を控えめにされているようですが……」


 同じ斬魔剣の使い手であるだけではなく、冒険者ランクも同じか。

謎のライバル意識が出てくるな。


「参考までにお伝えしておきますが……。ソーマ騎士爵のギルド貢献値は、1億6000万ガルです」


 お、俺の2倍もあるじゃないか。

それに、彼は領主就任以降は活動を控えめにしているという。

今現在の実力はそれ以上にあるかもしれない。


 ライバル心と向上心が失せてきた。

俺は格上には弱いんだ。


 ……いやいや。

29年後の世界滅亡の危機に立ち向かうためにも、俺はまだまだ上を目指していく必要がある。

ステータス操作というチートもあるわけだし、そんじょそこらのやつに負けている場合ではない。


 まあ、ソーマ騎士爵はそもそも敵ではないけどな。

ともにファイアードラゴンという脅威に立ち向かうためにも、彼との友好は深めておきたいところだ。

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