358話 エルフの侍 蓮華登場

 俺たちミリオンズの馬車と、リーゼロッテたちラスターレイン伯爵家の馬車が山中を進んでいく。

この山には、どうやらリトルベアなどそこそこ強い魔物が生息しているようだ。

しかし、俺たちの索敵能力のおかげもあり、不用意に魔物と遭遇することはなかった。


 そして、とある村に到着した。

村の規模は、さほど大きくはない。

人口100人程度ぐらいか。


「今日はここで夜を明かすことにしよう。行きにも寄った村だ。交渉は私に任せてくれ」


 コーバッツがそう言って、村の中央へ向かう。

俺も一応付いていく。

コーバッツがある老人に話しかける。


「村長殿。ご無沙汰している」

「おお。コーバッツ様。新貴族様へのごあいさつは無事に済みましたかな?」


 村長がそう言う。

平民である彼からすると、貴族はもちろん目上の存在だ。

さらに、伯爵家の長女であるリーゼロッテの筆頭護衛騎士であるコーバッツも、彼にとっては目上の存在だと言える。

なかなかに丁寧な対応だ。


「おかげさまでね。何を隠そう、こちらがそのタカシ=ハイブリッジ騎士爵様だ」


 コーバッツが村長に俺を紹介する。

俺は1歩前に出る。


「タカシ=ハイブリッジだ。少し前に、騎士爵を授かった」

「これはこれは、お会いできて光栄でございます。私はこの村の村長をしております。よろしくお願い致します」


 村長がそう言って、頭を下げる。

彼が頭を上げ、言葉を続ける。


「見ての通り、何もない村です。貴族様に大したおもてなしもできず心苦しいですが……」

「気にするな。貴族とは言っても、平民の冒険者上がりだ。過度のもてなしは必要ない」


 恐縮する村長に対し、俺はそう言う。

おもてなしと言うと、豪勢な食事、快適な寝床や風呂、そして美女の世話役などだろうか。


 食については特に困っていない。

俺のアイテムボックスやミティのアイテムバッグに、適度な食料や食材を入れてある。

パーティの一員として料理人のモニカがいる。

そして、火魔法、水魔法、土魔法により、どこでもそれなりの環境を整えて料理することができる。

基本的に旅先ではそこの名物料理を食べたいところだが、そういったものがなくともいざとなればどうとでもなる。


 寝床や風呂についても、ある程度は同じようなイメージだ。

俺のアイテムボックスやミティのアイテムバッグに入れている物で、それなりの対応はできる。

火魔法、水魔法、土魔法などを応用すれば、風呂を用意することも可能だ。


 最後に美女の世話役だが、これも不要だ。

なぜならミリオンズのみんながいるからだ。

正確に言えば、彼女たちは世話役ではなくて愛するべき家族や大切なパーティメンバーだが……。

いろいろな方面でかわいく、カッコよく、魅力的で尊敬に値する彼女たちがいれば、そこらの美女などはかすんでしまう。


「さて、村長殿。今回も食事と寝床の用意をお願いしたい。行きよりも人数は増えているが、その分の金もはずもう」


 コーバッツがそう言って、村長にいくらかの金貨を握らせる。

小さな村の村長よりも俺たちのほうが目上の存在ではあるが、だからといって無料であれやこれやをさせるわけにはいかない。

あまりムチャばかり言っていると、ハイブリッジ騎士爵家やラスターレイン伯爵家に悪評が立つだろう。


「おお! これはありがたい! ちょうど現金が入り用だったのです」


 村長がそう言って喜ぶ。


「現金が入り用? 何か事情があるのか?」


 俺は村長にそう問う。

このような山間部の村で、現金が入り用な局面というのはピンと来ないな。


「実は……。この近くで、ゴブリンジェネラルの目撃情報があるのです。隣村とも金を出し合い、街の冒険者ギルドに討伐依頼をするつもりなのです」


 ゴブリンジェネラル。

ゴブリンたちを統率する将軍のような魔物である。


 ゴブリン自体は、低級の魔物だ。

ファイティングドッグよりも少しだけ厄介な程度である。


 ゴブリンジェネラルは、ゴブリンが突然変異で巨大化した魔物だ。

中級に属する。

リトルベアよりもやや強いらしい。


 ファイティングドッグ、ゴブリン系、リトルベア系の魔物の戦闘能力をざっくり整理してみよう。

ファイティングドッグ<ゴブリン<リトルベア<ゴブリンジェネラル<ミドルベアとなる。


 俺がそんな感じで情報を整理していると、そこへ1人の女性が歩いてきた。

年齢は10代後半。

すらっとした体ではあるが、なかなかの身体能力を持つようだ。

歩き姿を見ているだけでも、一定以上の実力を持っているのがわかる。


 そして、彼女の最も特筆すべき点は、和風の着物を着ているという点だ。

女性が着るようなオシャレな着物ではなくて、時代劇とかでサムライが着ていそうな着物である。

腰には1本の剣……いや、刀を携えている。


 和風の着物を着ているが、顔立ちは和風というわけではない。

金髪碧眼。

そして、耳が横方向に長い。

これはいわゆる、エルフという種族だろうか。

この世界で、時おり種族名だけは聞く機会があった。


 彼女が俺たちのすぐ側まで来て、口を開く。


「村長殿。それほど大掛かりな討伐依頼を出す必要はないでござる。数人のしー級冒険者を補助として付けてもらえれば、拙者が討伐してやろうぞ」


 口調も和風だ。

いや、俺の異世界言語のスキルがそう訳しているだけではあるが。


「蓮華(れんげ)殿。お言葉はありがたく思っておりますが、やはり少人数では危険かと……。何とか複数人のCランク冒険者に、10人以上のDランク冒険者を揃えようと思っています。蓮華殿には、その主戦力として戦っていただければと」


 村長がそう言う。

この少女は蓮華という名前のようだ。


「むう……。そうこうしているうちに、被害が拡大するやもしれぬぞ?」


 蓮華が心配そうな顔をしてそう言う。


「それはその通りですが……。焦って不十分な討伐隊を編成すれば、いたずらに被害を拡大させる懸念もあるのです。我々としても、非常に難しい判断なのです」


 村長がそう言う。


「ふむ。話は聞かせてもらった。何なら、俺たちが協力してやろうか?」


 俺はそう口を挟む。

ミティやアイリスたちの同意は、後で得ればいいだろう。

みんななら、きっと反対はしないはず。


「……ぬ。そちは何者でござる?」


 蓮華が首をかしげて、そう問う。

俺は、ラーグの街では一般市民にもそれなりに顔が売れている。

ゾルフ砦あたりでも、一般市民はともかく武闘家や冒険者などには顔が売れている。


 しかし、このような遠くの山間部の村では、やはり名乗らないと気づいてもらえないようだ。

村長も、俺が名乗るまでは気づいてくれなかった。


「申し遅れた。俺はタカシ=ハイブリッジだ。この国で騎士爵を授かっている。冒険者ランクはBで、腕には覚えがある」


 ドヤ顔で言いたいところだが、グッとこらえる。

初対面の人にマウントを取りにいくのもな。


 俺には加護付与というチートスキルがある。

どんな人が加護付与の有力候補となるかわからん。

いたずらに人から嫌悪感を抱かれるのは避けたい。


「ほほう。たかし殿は、びー級の冒険者でござったか。それは頼りになる」

「そう言うそちらは、何者なのだ?」


 俺はそう問う。


「これは失敬。拙者は蓮華と申す。大和連邦出身のしー級冒険者であり、侍でござる。はるか北方の”そらとりあ”という都市へ向かっている途中でござるよ。目的は武者修行であるゆえ、こうして道中でも魔物退治には積極的に協力しているのでござる」


 蓮華がそう答える。

ソラトリアは、以前アドルフの兄貴やレオさんがオススメしていた都市の1つだ。

剣の聖地として有名らしい。

俺もいつかは行きたいと思っていた。


 しかし、彼女がCランク冒険者か。

なかなかやるな。


 この世界は魔力や闘気という概念がある分、女性でも男性と対等に戦うことができる。

ミリオンズを除いた女性冒険者で特に強いのは、特別表彰者のアルカやソフィアあたりだろうか。

特別表彰者ではないが、Cランクのリーゼロッテ、セリナ、エレナあたりも十分に強い。

あとは、ウィリアムのパーティメンバーのニュー、ハガ王国王妃のナスタシア、ゾルフ砦の冒険者ギルドのギルドマスターであるテスタロッサ、ディルム子爵領の警備隊長であるガーネットあたりも確かな実力を持つ。


 蓮華も、そのあたりの面々に勝るとも劣らない実力を持っているのだろう。

そして、女性としては少しめずらしい剣士であり、さらにその中でもめずらしい刀使いである。

俺もいつかは行ってみたいと思っているソラトリアを目指しているそうだし、ここで情報交換をしたり、ともにゴブリンジェネラル討伐に参加して戦闘を見てみたいところだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る