352話 リーゼロッテの来訪

 数日が経過した。

マリアとサリエの冒険者活動は順調だ。

ただし、2人とも魔物狩りよりも未知の街への好奇心が勝っている。

はやく次の街に向かいたがっている様子だ。


 俺やミティも基本的には同じ気持ちだが、リーゼロッテの来訪より前に旅立つわけにはいかない。

彼女の来訪を待ちつつ、みんなでリビングにてくつろいでいるところだ。


 そこに、セバスが近づいてきた。


「お館様。来客でございます」

「いよいよ来たか」

「左様でございます。ラスターレイン伯爵家が長女、リーゼロッテ=ラスターレイン嬢でございます。門の前にてお待ちいただいておりますので、早急にお出迎えいただければと」


 リーゼロッテと会うのは、もう1年ぶりぐらいになる。

かなり長い間会っていない。

少しドキドキしてきた。


 俺と結婚済みのミティ、アイリス、モニカ。

俺と婚約しているニムに、婚約はしていないがその意向があるユナ。

最近ミリオンズに加入したマリアとサリエ。

まだ幼い者も混ざってはいるが、みんなそれぞれ魅力的な女性だ。


 リーゼロッテは、伯爵家の長女。

貴族として、確かな気品を感じる。

それでいて食いしん坊という一面もある。

また、高級ポーションを人助けのために惜しみなく使う優しさも兼ね揃えている。

彼女は彼女で、また違った魅力がある女性だ。


 俺は正門に向かう。

ミティとサリエもいっしょだ。


 立派な馬車が止まっている。

その前には、リーゼロッテが立っている。

周りにはコーバッツ、それにお付きの者もいる。


 少し離れたところで、キリヤとヴィルナが立っている。

最低限の警戒はしつつ、リーゼロッテたちの対応をしている感じだ。

きちんと警備兵としての任務を全うしてくれているようだな。


 リーゼロッテは貴族。

俺も貴族として、きちんとした態度で接する必要がある。


「お久しぶりです。リーゼロッテ=ラスターレイン様」


 俺はそう言って深々と礼をする。

俺は騎士爵本人。

リーゼロッテは伯爵家の長女。

一般人の感覚からすると、どちらの序列が上か微妙なところだ。


 しかし、もちろん事前にサリエからアドバイスをもらっている。

こういった細かな序列も、貴族界においては常識の範疇らしい。

今回の場合は、俺のほうが序列が下となる。


 男爵家次女<騎士爵本人<伯爵家長女だ。

それ以外にももちろん細かな序列があるが、まだまだ覚えきれていない。

必要に応じて覚えていこうと思う。


 とりあえず、今回の俺のあいさつに問題はないはず。

そう思っていたが。


「お久しぶりですわ、タカシさん。おいしいものをたくさん持ってきました。楽しみにしていてくださいまし」


 リーゼロッテが気安い感じでそう言う。


 あれ?

こんなあいさつでだいじょうぶか?

俺はもちろん気にしないけどさ。


「リ、リーゼロッテ様。お久しぶりです。サリエ=ハルクです」


 俺の傍らにいたサリエが、そう言って優雅に礼をする。

合わせてミティも礼をする。

うんうん。

サリエに聞いていた話では、こういうあいさつが貴族の常識なんだよな。


「まあ。サリエさんではありませんか。奇遇ですわね。どうしてここに?」

「もちろん、タカシ=ハイブリッジ騎士爵様にごあいさつするためです。リーゼロッテ様のご用件も、同じですよね?」


 リーゼロッテの問いに、サリエがそう返答する。

彼女たちは以前から知り合いだったそうだが、友だちというほどではなさそうか?

結構よそよそしい感じだ。


「もちろんそうですわよ? でも、お固いことはよろしいではありませんか。さっそくおいしいものを……」

「んんっ! ゴホン!」


 リーゼロッテの言葉の途中で、コーバッツが大きな咳をした。

彼がリーゼロッテを無言でジロリと見る。

さらに、サリエもリーゼロッテをジロリと見ている。


「……もう。わかりましたわ」


 リーゼロッテが何かを諦めた様子で、俺に向き直る。


「タカシ=ハイブリッジ騎士爵殿。この度の叙爵、まことにおめでとうございます。ラスターレイン伯爵家を代表して、お祝い申し上げます」


 彼女が華麗に礼をする。

やはり伯爵家の娘だけあって、気品のある雰囲気だ。

最初からこうしなかったのは、めんどくさがっていた感じだろうか。


「ご丁寧にありがとうございます。さあ、私の屋敷に案内させていただきましょう」


 俺はそう言って、リーゼロッテとコーバッツを屋敷内に案内する。



●●●


 ミリオンズのみんなに、リーゼロッテが来たことを報告する。

リーゼロッテの応対をするのは、俺自身と、俺と結婚済みのミティ、アイリス、モニカだ。

貴族であるサリエにも同席してもらう。

さらに、セバスは部屋の隅で控えている。

ニム、ユナ、マリアは別室にて待機だ。


 応接室にリーゼロッテとコーバッツを案内する。

リーゼロッテの他の付き人は、馬車などで待機中だ。


 応接室の中にいるのは、8人。

俺、ミティ、アイリス、モニカ、サリエ、リーゼロッテがソファに座って向き合っている。

セバスとコーバッツはそれぞれの後方に控えている。


「改めまして、ご挨拶致します。タカシ=ハイブリッジ騎士爵殿。この度は、叙爵おめでとうございます」

「ありがとうございます。リーゼロッテ=ラスターレイン様」


 俺はそう返答する。

彼女のほうが貴族社会において序列が上なので、俺のほうが礼を尽くさなければならない。


「……と、お固い口調はこの辺にしましょうか。お祝いの品として、おいしい食材をたくさん持ってきましたのよ」


 リーゼロッテが少しだけ口調と佇まいを崩した。

先ほどの件といい、彼女はかしこまった雰囲気が苦手なのかもしれない。


「それは楽しみですね。期待しましょう」


 俺も少しだけ口調と佇まいを崩しておく。

相手が崩しているのにこちらだけ頑なに崩さないのも、それはそれで無礼だろう。


「手紙にも書きましたが、しばらくここで滞在させていただきますね。おいしい食材を調理してもらって、いっしょにいただきましょう。話に聞きましたが、そちらのモニカさんとご結婚されたのですよね?」

「ええ。確かに、俺とモニカは結婚しました」

「その通りです」


 リーゼロッテの問いに、俺とモニカがそう同意する。

こちらから大々的に発表したわけではないが、やはりこういった情報は拡散されているようだ。


「モニカさんの料理の腕前は確かでした。わたくしもスカウトを狙っていたので、少し残念ですわ。持参した食材をモニカさんに調理していただくことは可能でしょうか? ある程度の料理の心得を持つ者を連れてきてはいるのですが、やはり本職の方に調理していただきたいのです」

「問題ありません。なあ? モニカ」

「私に任せてください。おいしい料理を振る舞いましょう」


 モニカが自信あり気にそう答える。

彼女の料理術のスキルはレベル4に達している。

スキル云々は置いておくとしても、彼女は各地を巡っていろいろな料理を習得しているし、経験も積んできている。


 彼女はまちがいなくおいしい料理を振る舞ってくれることだろう。

期待したいところだ。

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