第11章 ソーマ騎士爵領へ、サリエ、リーゼロッテ

351話 ラーグの街の自宅でのんびり これまでの活動の振り返り

 ミティから新しい装備をもらって1週間ほどが経過した。

俺たちミリオンズは軽めの狩りをこなしつつ、日々をのんびりと過ごしている。


 今は、俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ、マリア、サリエの8人でリビングでくつろいでいるところだ。

そろそろ、今後の方針を話し合っておかないとな。


「ふう。改めて、人材登用の件はうまくいってよかったよ。有望な人材を集めることができた」

「そうですね! これで、私たちがこの家を空けても問題ないでしょう」

「キリヤくんやクリスティちゃんは特に強いしね。彼らに留守を任せれば問題なさそうだね」


 ミティとアイリスがそう言う

キリヤやクリスティたち警備兵のおかげで、この屋敷が強盗などに襲われた際のリスクは軽減した。


「わ、わたしの菜園も、ニルスさんやロロちゃんに任せればだいじょうぶそうです」


 ニムがそう言う。

彼女の家庭菜園は、当初は手間をかけなくても育つものを選んで栽培していた。

今は人手が増えたので、多少手間がかかるものも育てている。


「ふふん。それに、馬の世話もハンナやヴィルナに任せられるようになったわ。今度の行き先は、馬を連れていくのかしら? それなら、どちらにせよ問題ないけれど」

「うーん。行き先はまだ決めていないんだ。しかし、馬は連れていくことになると思う」


 ユナの問いに、俺はそう答える。

俺たちの移動手段は、大きく3つに分けられる。

徒歩、転移魔法陣、馬車だ。


 普段はもちろん徒歩で移動する。

ラーグの街内の移動や、北の草原の狩りなどだ。


 ハガ王国やガロル村など、転移魔法陣を設置済みの場所へは転移魔法陣で移動する。

MPや魔力の都合上、あまり大人数での転移はできない。

転移距離にもよるが、1度に転移できるのは3~5人ぐらいだ。


 新たな街を訪れる場合は、基本的に馬車で移動することになる。

徒歩は大変だし、転移魔法は転移魔法陣を設置済みの場所にしか転移できないからだ。


「わあい! マリア、馬車で旅するのも好き! 楽しみ!」


 マリアが無邪気に喜ぶ。


「いよいよですね……。私も足を引っ張らないよう、がんばります」

「サリエさんとマリアちゃんは、私たちがサポートするからだいじょうぶだよ。あまり気負わないでね」


 意気込むサリエに対して、モニカがそう言う。

ミリオンズの新入りであるマリアとサリエに対しては、俺たち先輩冒険者が支えてやる必要があるだろう。


「とりあえず、リーゼロッテが来るまではこの街を離れるわけにはいかない。少し前に来た2通目の手紙によると、もうそろそろ着く頃のようだが……」


 サリエ=ハルクとリーゼロッテ=ラスターレインは、俺の騎士爵授与への祝いの品を持参してくれることになっていた。

ハルク男爵領はハイブリッジ騎士爵領の隣にあるので、サリエは結構すぐに来た。

今から3週間ほど前になる。


 ラスターレイン伯爵領は、ここからかなり遠い。

ハルク男爵領はもちろん、ガロル村よりも遠方だ。

その分時間がかかるが、さすがにそろそろ着く頃合いだ。


 ラスターレイン伯爵家からの祝いの品を受け取り、リーゼロッテの近況を確認する。

その後は、いよいよ俺たちミリオンズは旅立つわけだ。

まあ、まだ行き先は決めていないが。


 せっかく騎士爵を授かったのに、わざわざ旅を続ける理由は何か。

理由は大きく2つある。


 1つは、俺たちのレベリングのためだ。

加護やステータス操作は有用なチートではあるが、それを十分に活かすためには魔物狩りなどで基礎レベルを上げていく必要がある。

ラーグの街近郊は比較的平和なので、レベリングには向かない。

ブギー盗掘団も心を入れ替えてくれたことだしな。


 もう1つは、この世界の見識を広く深めておくためだ。

俺には、30年後の世界滅亡の危機を回避するという極めて重要なミッションがある。

いや、俺がこの世界に転移してきてから既に1年以上が経過しているので、正確に言えば29年後だが。


 世界が滅亡する具体的な理由はわからない。

1年ほど前にとりとめもなく推測してみたことがある。

もう1度振り返ってみよう。


パターン01、魔物が異常繁殖して人間を襲ってくる。

パターン02、魔王が誕生し魔物を率いて襲ってくる。

パターン03、邪神が復活して世界を絶望に沈める。

パターン04、権力にとりつかれた悪の枢機卿が暴走する。


パターン05、地底人が攻めてくる。

パターン06、宇宙から謎の侵略者があらわれる。

パターン07、巨大隕石が衝突する。

パターン08、温暖化により海面が上昇する。


パターン09、チート持ち転移者が大量流入して暴れだす。

パターン10、ワープホールが出現し地球軍が侵略してくる。

パターン11、この世界は実は壊れゆくゲームの世界だった。

パターン12、魔法の使いすぎにより世界にひずみが生じる。


 この1年ほど、冒険者として各地を巡ってきた。

その活動を通して、”これはなさそうだ”というパターンは感じ取れた。


 パターン02、魔王が誕生し魔物を率いて襲ってくる。

まず、これはなさそうだ。

この世界の魔物は、魔物間で統率が取れているわけではない。

別個の存在だ。

魔物が意思を統一された状態で人族に牙をむくことは考えにくい。


 パターン08、温暖化により海面が上昇する。

これもないと考えていい。

多少海面が上昇した程度ではこの世界は滅亡しないだろう。


 パターン11、この世界は実は壊れゆくゲームの世界だった。

これもない。

魔法やスキルという概念があるとはいえ、このリアリティにあふれる世界がゲームの世界だとは感じられない。

この世界がゲームの世界だとすると、ミティやアイリスもゲームの登場人物ということになる。

そんなことはない。

彼女たちは完全な1つの人格を形成している。


 この1年ほどの冒険者活動を通して、以上の3パターンは可能性として消去できた。

おそらく、残りの9パターンのどれかが世界滅亡の要因だろう。

まあ、俺が思いついていないパターンの可能性も十分にあるが。

そこまで考え始めるときりがない。


 今後も、レベリングをしつつこの世界の見識を広めていくために、冒険者として各地を巡っていく方向性がいいだろう。

ここで、これまでの活動を振り返ってみよう。




 俺は、ミッションを参考に行動してきた。

この世界に転移した初日には、”魔物を1匹討伐しよう”や”街へ行こう”などのミッションに従った。

その後、他の冒険者と合同でホワイトタイガーを討伐し、"ゾルフ砦の防衛に加勢しよう"などのミッションが追加された。

ホワイトタイガーの報酬金で奴隷のミティを購入し、パーティメンバーとして迎え入れた。


 ゾルフ砦に到着後、"ゾルフ砦のガルハード杯本戦に出場しよう"というミッションが追加された。

俺とミティは道場に入門し、武闘の訓練に励んだ。

アイリスと出会ったのはこの時だ。

鍛錬のかいがあり、無事にガルハード杯本戦に出場することができた。


 その後に防衛戦があった。

武闘家や冒険者たちと協力して、ゾルフ砦に押し寄せる魔物の軍勢を撃破した。

防衛戦がひと段落したときに、"オーガ及びハーピィと和睦しよう"というミッションが追加された。

ミティや武闘家たちとともに敵地に潜入し、なんやかんやあって無事に和睦することができた。

オーガ及びハーピィの国は、ハガ王国という名称に決まった。


 ハガ王国やゾルフ砦の面々に別れを告げ、ラーグの街に戻ってきた。

モニカやニムが困っていたのでいろいろと手伝った。

彼女たちが加護付与の条件を満たして冒険者としてデビューした。

俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

この5人でミリオンズとしてパーティ登録をした頃に、"ガロル村を訪れよう"というミッションが追加された。


 ガロル村というのはミティの故郷だった。

俺たちは5人でガロル村を訪れた。

ミドルベアや霧蛇竜ヘルザムとの戦闘もあったが、なんやかんやでみんな笑顔の結末となった。

俺とミティの結婚式という一大イベントもあった。


 武闘の再鍛錬のために、ゾルフ砦を訪れた。

道場にて1か月鍛錬し、メルビン杯という大会にてそれぞれ優秀な成績を収めることができた。

特にアイリスは、優勝というすばらしい結果を残した。

大会中にアイリスから俺へのプロポーズがあり、大会後に俺とアイリスは結婚した。


 ユナの故郷であるウォルフ村を訪れることになった。

ウェンティア王国のディルム子爵がウォルフ村に手を出してきたためだ。

俺たちミリオンズはウォルフ村に加勢し、ディルム子爵配下の精鋭たちや、違法に研究されていたキメラを撃破した。

なんやかんやあってディルム子爵も改心し、みんな笑顔の結末となった。


 ウォルフ村からラーグの街に帰ってきた頃、この街の近郊を治める新たな貴族を叙爵する構想があるという話を聞いた。

そして、西の森の奥地に居座る盗掘団の捕縛作戦に俺は張り切って参加した。

いろいろあったが、結果は上々。

俺の活躍が評価され、無事に叙爵が内定した。

さらに俺とモニカは結婚し、俺とニムは婚約した。


 サザリアナ王国から騎士爵を授かったことと、新たなミッションとして”新たに忠義度40を達成しよう”が追加されたことを受け、俺たちハイブリッジ家は大規模な人材登用を行うことにした。

まずは、登用試験として、筆記テスト、模擬試合、面接を行った。

その結果、キリヤやヴィルナなど優秀な者を採用することができた。


 続けて、奴隷商館で有望な奴隷を購入することにした。

クリスティやリンなど、優秀だったり訳ありだったりする奴隷を購入した。


 その後、マリアとサリエが俺たちミリオンズに加入することになった。

彼女たちを冒険者として育成しつつ、奴隷たちの病の治療や孤児院の訪問などの諸用を済ませ、さらにはミティにより新しい装備がつくられた。

そして、後はリーゼロッテとの用件さえ済ませれば、俺たちは新たな街へ向けて旅立つというわけだ。




 こうしてあらためて活動を振り返ってみると、俺の異世界生活は極めて順調だと思える。

ミッション報酬や忠義度稼ぎという目的はあるにせよ、世のため人のためにいろいろとがんばってきた。


 今やり残しているミッションは、”新たに忠義度40を達成しよう”だ。

これの第一候補はサリエだ。

彼女の忠義度は38。


 かつて彼女の病を治療したこと、俺が平民から騎士爵に成り上がったこと、そして日々の善行をその目で見てもらったことにより、着々と上昇中である。

この調子でいけば、忠義度40は近いうちに達成可能だろう。

ミッションのためだけに、ミリオンズとして何か特別な方針が必要なわけではない。


 そう考えると、やはり純粋にレベリングとこの世界の見識を深めていくことを考えて、次の行き先を決めるのがいい。

まずは、リーゼロッテの訪問を待つことにしよう。

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