349話 ミリオンズの装備一新の計画

 孤児院の件から数日が経過した。

今は、屋敷のリビングにてみんなでくつろいでいるところだ。


「さて。そろそろ、リーゼロッテが来てもおかしくない時期か?」

「うーん。あそこの領地はボクも通ったけど、ここからかなり遠いからね。出発時期にもよるけど、もう少しかかるかも」


 アイリスがそう言う。

彼女はここよりはるか北の中央大陸から、はるばるこの地までやって来た。

その際に、ラスターレイン伯爵領も寄ったそうだ。


「リーゼロッテさんとのあいさつが終われば、いよいよ他の街に行く感じだね?」

「ああ。領地経営やミッションも気になるが、冒険者としてまだまだ経験を積みたい思いもあるからな」


 モニカの問いに、俺はそう答える。


「ええと。ミッションとは?」

「んー、なんだろ?」


 サリエとマリアがそう言って、首をかしげる。

そういえば、彼女たちにはまだミッションのことを伝えていないのだった。


 うーん。

伝えるべきかどうか。

微妙なところだ。


 サリエは、忠義度が38。

かなり高めの数値ではあるが、まだ加護付与の条件は満たしていない。

信用していないわけではないが、ミッションという非常に重要な機密事項をほいほい話していいものかどうか。


 マリアは、忠義度が50を超えている。

もちろん加護を付与済みだ。

しかし、彼女はまだ10歳になったばかりの子ども。

ミッションという非常に重要な機密事項を共有するには、若すぎる気もする。


「ああ、いや……。今は気にしないでくれ。いずれ話す」


 俺はそう言ってごまかす。


「そうですか……。何かタカシ様にとっての機密事項がおありのようですね。わかりました」

「よくわからないけど、わかった!」


 サリエとマリアがそう言う。


「タ、タカシさん。それにミティさん。新たな見知らぬ土地を訪れる前に、”あれ”の進捗状況はどうなっていますか?」

「順調ですよ! みなさんの要望に沿えたものがつくれそうです!」


 ニムの問いに、ミティがそう返答する。

ええと、ミティが主体となってやってくれている”あれ”とは……。


「ふふん。私たちの装備を一新する件ね。使い慣れた弓もいいけど、そろそろワンランク上の装備が欲しいと思っていたのよ」


 ユナがそう言う。


 ミティに最後に装備をつくってもらったのは、ガロル村での俺と彼女の結婚式の直前の頃だ。

俺とミティの結婚記念日が1001年の10月13日なので、装備をつくってもらったのは同年の10月初旬ぐらいだな。


 今日は1002年の8月1日。

あれから、1年近くが経とうとしている。

通常であれば、まだ装備を入れ替えるのには早い。

大切に手入れしておけば、1年足らずで消耗するようなものではない。


 しかし、俺たちはステータス操作の恩恵によりかなりの成長速度を誇る。

10か月前の時点では十分高性能だった装備も、今の俺たちにとってはやや物足りない面が正直ある。

ミティの鍛冶で新たな装備をつくってもらうことになったのだ。


 彼女の鍛冶のスキルは、10か月前の時点でレベル5だった。

今も同じくレベル5。

スキルレベルは変わっていないので、彼女の技量に劇的な変化はない。


 しかし、この10か月の間にも、ミティはたまに里帰りをしていた。

もちろん、俺の転移魔法陣を使ってだ。

そして、彼女は父ダディや母マティに鍛冶を教わっていた。


 技量としてはミティが上でも、知識や経験はまだまだ彼らのほうが上だ。

ミティにとっても学ぶところは多いのだろう。


 そして、ここ最近になって、俺たちミリオンズの装備を一新させようという話が持ち上がった。

ブギー盗掘団捕縛作戦の功績で手に入れたオリハルコンと蒼穹の水晶。

サリエが持ってきてくれた、各属性の魔石。

これらがあれば、それぞれに合った高性能な装備をつくることも可能だろう。


「私もいただけるのですよね。新参者なのに、ありがたいことです」


 サリエがそう言う。

彼女は生まれついての貴族。

元庶民のミティやアイリスたちよりも身分は上だ。


 しかし、ミリオンズとしては彼女は新参者。

まだまだ遠慮がちな様子である。


「もう仲間だし当然のことだ。サリエが持ってきてくれた魔石も使わせてもらうことになるしな。なあ? ミティ」

「そうですね! 私に任せておいてください」


 ミティがそう意気込む。

ミティは騎士爵である俺の第一夫人だ。


 騎士爵の第一夫人と、男爵の娘だと、どちらが立場が上なのだろう?

結構微妙なところだよな。

まあ、この場においてはミリオンズとして先輩なミティのほうが少し上位者の雰囲気があるが。


「わあい! マリアも楽しみ。ミティお姉ちゃん、よろしくね!」


 マリアがそう言う。

彼女の今の装備は、ハガ王国で使っていたものだ。

王族の娘ではあるが、やたらと高級な装備は持ってきていない。


 かつて俺を戦闘不能に追い込んだ”吸精の宝杖”は、ハガ王国の宝物庫に安置されている。

残念ながら持ち出しの許可は出なかったようだ。

まあ、国宝クラスの装備をほいほいと外には出せないよな。


 ここで、俺たちミリオンズの現在の装備を整理しておこう。



タカシ

武器:紅剣クリム(紅剣クリムウェル)

防具:アイアンアーマー、アイアンシールド


ミティ

武器:ドワーフの戦槌(ドワーフの大戦槌)

防具:アイアンアーマー


アイリス

武器:シルバーガントレット

防具:レザーアーマー


モニカ

武器:エレキガントレット

防具:レザーアーマー


ニム

武器:アイアンロッド

防具:レザーアーマー


ユナ

武器:ウッドボウ

防具:布の服


マリア

武器:ショートソード

防具:レザーアーマー


サリエ

武器:ウッドクラブ

防具:布の服



 俺は、通常時は紅剣クリムとアイアンシールドを併用する。

右手で剣を持ち、左手で盾を持つスタイルだ。

ここぞというときには、紅剣クリムウェルを使う。

こちらは大剣なので、両手で持つスタイルだ。


 ミティは、通常時はドワーフの戦槌を使用する。

ここぞというときには、大きなハンマーであるドワーフの大戦槌を使う。


 アイリスとモニカは、武闘家として軽めの装備だ。

アイリスのガントレットのほうがやや性能がいい。

モニカのガントレットは、電気をよく通す材料でつくられている。

雷魔法と格闘を併用するモニカには大切なことだ。


 ニムは、金属製の杖を使っている。

土魔法と相性がいい材料でつくられた杖だ。


 ユナは、彼女が”赤き大牙”として活動していた頃から愛用している木製の弓を使っている。

使い慣れた弓だし悪くはないのだろうが、ここらで新しいものに変えるのもいいだろう。


 マリアは、ハガ王国から短剣を持ってきている。

なんの変哲もない普通の短剣だ。

あって困るものではないが、もう少しいいものを使ってもいいと思う。


 そもそも、彼女は剣士というよりは武闘家としてスキルを伸ばしてもらおうと考えている。

短剣よりもガントレットのような装備のほうが適切だろう。

彼女の飛行能力の妨げにならないよう、軽量化に努めた装備が欲しいところだ。


 サリエは棒術を扱う。

棒術用に、木製の棒を持ってきている。

初心者向けのなんの変哲もない棒だ。

ファイティングドッグの相手ぐらいであれば問題ないが、今後のことを考えるともっと強度の高い装備があってもいい。


 以上が武器についてのまとめだ。

また、防具についても改善の余地がある。


 俺とミティは、転移魔法陣を利用して時おりガロル村を訪れている。

そして、ミティはコツコツと鍛冶を進めてくれている。

そろそろ、みんなの装備がひと通り揃う頃合いだ。

より上を目指していくためにも、ミティによる新しい装備が楽しみなところである。

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