350話 新しい装備

 さらに数日が経過した。

今日は、ミティがつくってくれた新しい装備をお披露目する日だ。

屋敷の庭に、みんなで集まる。

俺たちミリオンズの他、クリスティやキリヤたち警備兵組もいる。


「みなさん。お待たせしました。私ががんばってつくった武具が完成しました。喜んでいただけるとうれしいのですが……」


 ミティがそう言って、出来上がった武具をそれぞれに手渡していく。

鍛冶術レベル5の彼女がつくった武具は、見事な完成度だ。

今回は、オリハルコンや各種属性の魔石など、材料も奮発したことだしな。


 俺たちはさっそく、自分用の武器の感触を確かめる。


「ふむ……。これはいい剣だ。紅剣クリムウェルよりも軽い。紅剣クリムと同じくらいの重さだな。片手で持てそうだ」


 俺は新しい剣を構えて、そう言う。

この新しい剣も赤色だ。


「その剣は、紅剣ドレッドルートと名付けました。オリハルコンを使用することにより重量は抑えましたが、剣としての攻撃力はクリムウェルにも引けを取らないはずです。火の魔石を埋め込んでいるので、火魔法を増強させる効力も持ちます」


 ミティがそう言う。

火魔法を増強してくれる効力はありがたい。

俺の百本桜やフレアドライブの威力が向上するだろう。


 ドレッドは、恐怖を意味する。

ルートは、根源を意味する。

この剣の名前の意味は、恐怖の根源となる。


 ちなみにユナの兄であるドレッドと名前が被っているのはたまたまだろう。

決して、ドレッドをBL的な意味で攻略するルートに入るわけではない。


 紅剣ドレッドルート。

仰々しい名前だが、名前に恥じない出来栄えではある。

俺自身もこの剣に負けないように、がんばっていかないとな。


「ふふん。私の弓もいい感じね。使い慣れた弓を替えるのは躊躇していたけど、この弓ならそれもありね」


 ユナがそう言う。

彼女の弓も、見事な出来栄えだ。

赤色に輝いている。


「その弓は、魔弓ミカエルと名付けました。物理的な弓を引きつつ、魔法の発動もしやすいように設計しています。もちろん、火の魔石も埋め込んでいます」


 ミティがそう説明する。

ユナの攻撃手段は、物理的な弓に加えて、火魔法もある。

そして、火魔法の中でも特にファイアーアローを得意とする。

この魔弓ミカエルを使えば、物理矢と魔法矢で大量の弾幕を張って敵を殲滅することも可能だろう。


 それにしても、ここでミカエルという大天使の名前が出てくるとはな。

この世界では、神様や天使の伝承も地球とある程度共通しているのだろうか。


「この腕と足につけるやつ、軽くて使いやすい!」


 マリアが腕と足に籠手状の装備を付けて、元気に飛び回っている。


「不朽の羽衣ですね。オリハルコンを使うことにより、軽量化と剛性を両立させました。風の魔石を埋め込んでいますので、マリアちゃんの飛行の制御力も増すはずです」


 ミティがそう説明する。

空を飛び回るマリアは、重い武器や防具を身につけるわけにはいかない。

そんな彼女にぴったりの装備を、ミティはつくってくれたわけだ。


「ボクのガントレットも、軽くて使いやすいね。ありがとう」


 アイリスがそう言う。


「シルヴァリオン・ガントレットです。マリアちゃんの不朽の羽衣と同じ要領で、軽量化に努めました。アイリスさんの速度を活かせるはずです。耐久性もある程度は考慮しています」


 ミティがそう説明する。

アイリスは、聖闘気”迅雷の型”の発動時にはかなりのスピードを誇る。

そのスピードを活かすためには、装備は軽ければ軽いほどいい。


 しかし、彼女の戦闘スタイルはそれだけではない。

”豪の型”で一撃の威力を重視したり、”流水の型”や”守護の型”で受けに回ったりすることもある。

ある程度は耐久性も必要だ。


「私のガントレットは、アイリスのやつとちょっと違うね? これはこれでいい感じだとは思うけど」


 モニカがそう言う。

モニカとアイリスは、2人とも武闘家だ。

足技が中心でスピード派であるところも共通している。

普通に考えれば、モニカとアイリスの装備は同じものでもおかしくはないと思う。


「雷装ガブリエルと名付けました。オリハルコンは電気を通しにくいので、モニカさん用のものには使えません。電気を通しやすい材料を使いつつ、軽量化と耐久性のバランスを考えて仕上げました」


 ミティがそう説明する。

俺たちが少し前に手に入れたオリハルコンは、軽くて固い理想的な謎金属だ。

俺の紅剣ドレッドルート、ユナの魔弓ミカエル、マリアの不朽の羽衣、アイリスのシルヴァリオン・ガントレットなどに広く使われている。


 しかし、オリハルコンは電気を通しにくい。

防具として見れば悪いことではないのだが、本人が雷魔法を使うモニカとの相性は悪い。

彼女の装備にはオリハルコンを使うわけにはいかない。


「なるほど。アイリスのよりは重いけど、私の以前のよりは軽いね。これなら、スピードをさらに活かせそうだよ」


 モニカが上機嫌にそう言う。

彼女の戦闘スタイルは、雷魔法と格闘を併用した速攻スタイルだ。

とにかくスピード重視。

ミリオンズの中でも1番の速度を誇る。


「わ、わたしの杖は……。結構重量感がありますね」


 ニムがそう言う。


「巨杖ゴルディアスです。ニムちゃんは力が強いので、重量はあまり気にしていません。とにかく性能重視です。土の魔石を埋め込んであるので、土魔法の制御が向上するはずです。それに、単純に鈍器として使ってもらってもだいじょうぶです」


 ミティがそう説明する。


「わ、わかりました。乱暴に扱ってもだいじょうぶなのは、助かります。これで思う存分に戦えると思います」


 ニムがそう言う。

彼女は、総合的な身体能力としてはミリオンズ内でもトップクラスだ。

腕力、脚力、体力などが非常に高くまとまっている。


 ロックアーマーを纏った状態から、タックルなどで派手に動いて暴れまわる。

確かに、武器が脆弱だと気になって戦いに集中できないだろう。

頑丈な装備は、ニムに向いている。


「わあ。これが私のための武器ですか。ありがとうございます」


 サリエがそう言う。

彼女が手にしているのは、棒術用の棒だ。


「サリエさんはまだ腕力が不十分のようでしたので、軽さ重視で仕上げました。安直ですが、オリハルコンクラブと名付けています」


 ミティがそう説明する。

ミリオンズの中で加護が付いていないのは、サリエだけだ。

ステータスやスキルの面で、どうしても他のメンバーには見劣りしてしまっている。


 サリエにも加護が付いてスキルをどんどん伸ばしていけば、彼女の戦闘スタイルも定まってくるだろう。

そのときに、改めて適切な装備をつくってもらうこともあるかもしれない。


 みんな、ひと通り自分向けの装備は確認したようだ。

武器だけではなく、防具も用意されている。

みんな、満足そうな顔をしている。


 いや。

そういえば、新たな武器をお披露目していない者が1人残っている。


「ミティ用の武器はどれだ? ……まさか、その巨大なハンマーか?」


 俺はミティにそう問う。

今使っているドワーフの大戦槌よりも、さらに大きい。

先端部の大きさは、1立法メートルぐらいはありそうだ。


「はい。とにかく破壊力重視で仕上げてみました。風の魔石も埋め込んであります。名前はまだ決めていませんが……」


 ミティがそう説明する。


「ふむ……。大戦槌ウリエルはどうだろう? ミカエルやガブリエルと並ぶ、大天使の名前だったはずだ」


 俺はそう言う。

ミティはミカエルやガブリエルという名前を知っているようだし、ウリエルの名前を使っても違和感はないはずだ。


「大戦槌ウリエルですか……。強そうな感じでいいですね! そう名付けることにします」


 ミティがそう言う。

これで、ミリオンズ内の装備の確認は終わった。

みんな大満足の結果である。


 ここで、俺たちミリオンズの現在の装備を整理しておこう。



タカシ

武器:紅剣ドレッドルート

防具:オリハルコンアーマー


ミティ

武器:大戦槌ウリエル

防具:アイアンアーマー(上)


アイリス

武器:シルヴァリオン・ガントレット

防具:レザーアーマー(上)


モニカ

武器:雷装ガブリエル

防具:レザーアーマー(上)


ニム

武器:巨杖ゴルディアス

防具:アイアンアーマー(上)


ユナ

武器:魔弓ミカエル

防具:布の服


マリア

武器兼防具:不朽の羽衣


サリエ

武器:オリハルコンクラブ

防具:レザーアーマー(上)



「そういえば、俺たちミリオンズが各自の装備をもらっても、まだまだ余るみたいだな。これは?」


 俺は地面に置かれている余った装備を指差し、ミティにそう問う。


「時間と材料に余裕があったので、警備兵のみんなにつくってあげました。さすがに、オリハルコンや魔石の使用は控えておきましたが……」


 ミティがそう言う。

オリハルコンと魔石はかなり貴重なものなので、ほいほい使うわけにはいかない。

しかしそれらを使っていなくとも、鍛冶術レベル5のミティがつくった装備は一級品だ。

普通に買おうとすれば、金貨数十枚は固いだろう。


「なるほど。確かに、警備兵たちにはより良い装備を付けてもらっていたほうが、俺たちの安全にも繋がるな」


 俺はそううなずく。

周りを見ると、クリスティとキリヤが期待を込めた目で装備を見ている。


「……というわけだ。クリスティにキリヤ。それに他の警備兵たちも。好きな装備を持っていくといい。……ああ、今まさに警備中の者や、寝ている者の分は残しておいてやってくれよ」


 俺はそう言う。

警備シフトの関係で、今はこの場にいない者もいるのだ。


「はっ。そりゃありがたい。あたいはこれにするぜ! アイリス姉さんのガントレットと少し似ているからな」

「ふっ。この双剣はなかなかの業物だ。電気をよく通す材料でつくられているようだしな。俺はこれにしよう」


 クリスティとキリヤが嬉々として装備を手に取る。

少し遅れて、他の者も装備を選び始めた。


 ミティのおかげで、俺たちミリオンズ、そして警備兵たちの戦闘能力は一回り向上したことになる。

この装備のすばらしさに負けないよう、俺たち自身もがんばっていきたいところだ。

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