348話 孤児院の援助
孤児院にやって来た。
この孤児院出身のロロ、それにミティ、ニム、サリエもいっしょだ。
そして、俺はミティの豪腕に押されて半ば強引に建物の中に突撃させられることになった。
俺は頭が真っ白になりつつも、何とかあいさつの言葉を口にする。
「ゴキゲン麗しゅうくだらねえクソガキどもよ!!! 今この瞬間から!!! この孤児院、いやこの街を、俺たちの支配下とする!!!」
……いかん。
緊張のあまり、変なことを口走った気がする。
完全に悪役の侵略者じゃねえか。
「ひい……」
「いやあ……」
子どもたちは、今にも泣き出しそうだ。
世話役のシスターたちも、顔が引きつっている。
「こ、これはこれは。タカシ=ハイブリッジ騎士爵様とお見受けします。ご、ご用件は何でしょうか?」
1人のシスターが怯えつつもこちらに近づいて来て、そう言う。
彼女とは、ロロの登用を決めた際にも顔を合わせている。
そのため、かろうじて口を開けたといったところだろうか。
奪え。
金品を全て奪い尽くせ!!!
……などという号令は、もちろんかけない。
「こちらのロロからの進言でな。街からの補助金が足りず、困窮気味だと聞いたのだ。その視察に来た。言葉足らずですまなかったな」
俺は気を取り直して、そう言う。
実際には言葉足らずというレベルではなかったかもしれないが、これで押し切ろう。
「そ、そうでしたか」
シスターがほっと胸をなで下ろす。
何とか俺の失言をごまかすことができそうだ。
泣きそうだった子どもたちも落ち着きを取り戻しつつある。
「それで、実際のところどうなのだ?」
「はい。ご覧の通り、食べるものには困っていません。しかしながら、衣服の充足や住居の保全などにはお金が回っていないような状況です」
確かに、子どもたちやシスターは、特に痩せぎすというわけではない。
食べるものには困っていないようだ。
「ふむ。なるほどな」
「雨の日、寒い日、暑い日。それぞれ、ちょっとした苦労があります。もちろん、直ちに命の危険があるわけではないので、我慢できると言えばできるのですが……」
シスターがそう言う。
我慢はできても、快適とは言い難い生活ぶりということか。
「ふむ。ではまず、補助金の増額を町長に打診してみよう」
権限的には、俺が即決で判断しても問題ない。
しかし、この街にはこの街の予算配分というものがある。
実際の判断は、そのあたりに詳しい町長に下してもらうほうがいいだろう。
「それはありがたいです。もう少し余裕ができれば、衣服の充足や住居の保全にお金を回せるようになります」
シスターがそう言う。
「そういえば、ロロの給金はどうなんだ? もちろん、ロロ本人の金だから使いみちに口を出すつもりはないが」
「ロロちゃんは初めてのお給金で、スピーディバッファローの肉を買ってくれました。みんな喜んでいました」
「…………(ぶい)」
ロロが稼いだ金は、もちろんロロのものである。
しかし彼女は、自分を育ててくれた孤児院に恩を感じて、初任給で肉を買ったそうだ。
ええ話や。
とはいえ、ロロの給金はさほど高くは設定していない。
将来性を感じさせるとはいえ、まだ6歳。
できる仕事にも限りがある。
事情を鑑みて少し高めに設定するのもなくはない。
しかし他の者との公平性の問題があるし、市井の相場との兼ね合いもある。
やたらと多めにするわけにはいかない。
「まあ気持ち程度に給金の額を再考しておこう。あとは、人手として俺たちが手伝えることがないかだが……」
「い、いえいえ。お気持ちだけで結構です。騎士爵様にそのようなことをしていただくわけにはいきません」
シスターがそう遠慮する。
「見たところ、衣服のもつれが気になりますね。私が修復しましょうか? 裁縫の心得はあります」
サリエがそう言う。
彼女が裁縫を得意としているのは初耳だが、せっかくなので任せることにしよう。
「なら俺は、治療魔法をかけてやろう。大きなケガ人はいないようだが、擦り傷切り傷がなくなるだけでも少しは楽になるだろう」
「わ、わたしは、住居の修繕を手伝いましょう。わたしの土魔法を使えば、スキマ風が入り込んでいるところを埋められるはずです」
ニムがそう言う。
彼女の土魔法には相当な応用性がある。
住居の修繕も可能だろう。
「むう……。私は何をしましょうか。鍛冶場などはもちろんありませんし……」
ミティが困り顔でそう言う。
彼女が得意とするのは、戦闘、鍛冶、力仕事だ。
もちろん戦闘はこの場で役に立たない。
鍛冶も同様。
彼女が役立てるとすれば……。
「シスター。何か力仕事はないか?」
「え? そうですね……。敷地に、1つ巨大な岩が埋まっていて邪魔なのです。あれがなければ、敷地内でちょっとした畑をつくれるかもしれないのですが……」
俺の問いに、シスターがそう答える。
「では、それは私に任せてください。むんっ!」
ミティが自分の仕事が見つかったことに安堵して、やる気を見せる。
「そ、そちらの方がされるのですか? ちょっとやそっとではビクともしない大きさの岩ですが」
「ああ、問題ないさ。ミティは、俺たちの中でもダントツの腕力を持つ。そこらの岩ごときは、ちょちょいのちょいだとも」
そんな感じで、俺たちの仕事内容が決まった。
俺は治療魔法。
ミティは巨石の撤去。
ニムは土魔法で住居の修繕。
サリエは裁縫で衣服の修繕だ。
さっそく、各自が自分の仕事を進めていく。
俺は擦り傷切り傷がある者たちを集める。
治療魔法の詠唱を開始する。
「……神の御業にてかの者たちを癒やし給え。エリアヒール」
「おお! 手のケガが治ったぜ!」
「私の足のキズも治ったー」
俺の治療魔法を受けて、子どもたちがそう言って喜ぶ。
次は、ミティだ。
彼女が巨大な岩が埋まっている場所まで案内される。
「これが邪魔な巨石ですか。直径2メートルといったところですね。……ふんっ!」
「なっ……!? ほ、本当に持ち上げられるとは」
「お姉ちゃん、すげー!」
「ゴリラだゴリラ!」
ミティの怪力を見て、シスターや子どもたちが驚いている。
ミティをゴリラ呼ばわりしたやつはだれだ?
後で八つ裂きにしてやろうか……。
次に、ニム。
彼女が建物が傷んでスキマ風が入り込むところまで案内される。
「……土の精霊よ。我が求むる通りに形成せよ。ロック・ビルディング!」
ニムが土魔法を発動させる。
ゴゴゴ!
ゴゴゴゴゴ!
敷地内の土が隆起し、既存の建物の隙間を埋めていく。
これで、スキマ風が入り込むことはなくなっただろう。
「魔法って、便利なんだねー」
「俺も使えるようになりたいぜ!」
子どもたちがそう言う。
「が、がんばって練習すれば使えるようになるかもしれませんよ。タカシさんへの感謝の念を忘れずに、コツコツと練習してみてください」
ニムがそうアドバイスする。
魔法が使えるかどうかは、才能による面が大きい。
だが、努力によって使えるようになる事例もあるそうだ。
この子どもたちも、コツコツとがんばれば使えるようになる可能性はある。
努力に加えて、俺に対する感謝の念も大切だ。
忠義度50を達成すれば、ステータス操作で魔法などを習得できるようになるからな。
「みなさん、すごいですね……。私は、これぐらいしかできませんが」
サリエが手慣れた様子で衣服の修繕を進めていく。
彼女の裁縫の技術はなかなかのものだ。
ベテランのプロ級というと少し言い過ぎだが、趣味にしてはレベルが高い。
スキルレベルで言えば、2ぐらいだろうか。
「わあ。かわいい模様をありがとう。お姉ちゃん」
「俺の服にも、カッコいいドラゴンがいるぜ!」
サリエは、衣服の修繕のついでに模様も裁縫したようだ。
子どもたちは大喜びである。
そんな感じで、俺たちミリオンズの孤児院訪問は無事に終わった。
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