347話 近況整理/孤児院への訪問
リンの目の治療に挑戦してから、数日後の休日。
ミリオンズのみんなで、のんびりと朝食を食べているところだ。
ちなみに、ミリオンズ以外はこの場にいない。
初日こそハイブリッジ家全員で夕食をとったが、普段は生活リズムの違いもあるしな。
ムリにいっしょに食べるようにはしていない。
「ふう。登用組も奴隷組も、精力的に仕事に励んでくれているみたいだな。よかったよ」
俺はそう言う。
「そ、そうですね。少し心配していたキリヤさんも、今のところはまじめに働いているようです」
ニムの言う通り、登用組で少し懸念事項があったのがキリヤだ。
彼は元プー太郎らしいからな。
まじめに働くかあやしい。
しかし、それは杞憂だった。
彼はそこそこまじめに働いている。
たまにサボるときもあるようだが、ヴィルナの超聴覚により見つかって怒られている。
彼は尻に敷かれるタイプのようだ。
あれはあれで、いいバランスのコンビのように思える。
「ヘッポコ少年トリスタも、ちゃんとがんばっているようですね。知力に優れた彼は貴重ですし、辞めさせないように気を付けないといけません」
ミティがそう言う。
トリスタの戦闘能力に対するミティの評価は相変わらずさんざんだ。
彼は知力派だから、戦闘能力には目をつむって差し上げろ。
トリスタは、労働嫌いという点で少しキリヤに似ている。
彼は、あくまで本を買うためのお金欲しさで登用試験に応募した。
街の行政機関で下働きとして働いてもらっている。
町長からの報告によれば、能力的には優れているそうだ。
経験を積んで慣れてくれば、戦力としても期待できるだろう。
ただし、適度に手を抜いている様子があるとの報告も受けている。
あまり本気を出しすぎると、あれやこれやと仕事を押し付けられると思っているのかもしれない。
まあ、実際にその通りになるだろうが。
能力のある者にはどんどん仕事をこなしてほしいが、あまり仕事を詰めすぎて辞められても困る。
適度に仕事を割り振るように、町長には指示を出しておいた。
トリスタとヒナとの仲も良好のようだ。
休日には、2人で仲良く街に繰り出している。
いや、仲良くというと正確ではないか。
ヒナがトリスタを引きずるようにして連れ出していた。
あれはあれで、バランスの取れたコンビと言えなくもない。
2人とも、末永くこの街に貢献してほしいところだ。
「ふふん。ロロちゃんとリンちゃんも、元気に仕事を学んでいるみたいよ」
「マリアもよくいっしょに遊ぶよ!」
ユナとマリアがそう言う。
ロロは、幼いながらも適度に見習いとしての仕事をこなしている。
リンも同様だ。
そして、彼女たちとマリアは仲がいい。
自由時間には、よくいっしょに過ごしている。
「クリスティちゃんは、武闘の鍛錬に熱心だね。もちろん、警備兵としての仕事もしてくれているけど」
アイリスがそう言う。
クリスティは、相変わらずアイリスになついている。
俺に対する忠義度は残念ながら30半ばくらいで停滞している。
そこそこ高いので、また何かあれば稼いでいきたいところだ。
「ハンナさんとニルス君も、ちゃんと仕事してくれているよ。私の料理を手伝ってくれることもある」
モニカがそう言う。
ハンナとニルスは、無難にメイドと執事としての仕事をこなしている。
警備兵を含めてハイブリッジ家の総人数がかなり増えたため、その分メイドや執事の仕事は増えた。
彼女たちは、大忙しのセバス、レイン、クルミナをうまく手伝ってくれている。
そして、モニカの料理の手伝ってくれることもある。
もちろん、ハンナとニルスの仲も良好だ。
シェリーとネスターは、警備兵として熱心に働いてくれている。
彼女たちには、俺とアイリスで定期的に治療魔法をかけている。
肺の病が再発する気配もなく、今や警備兵の中でも重要な戦力だ。
Cランク1歩手前まで行った経験は伊達ではない。
登用組も奴隷組も、みんなそれぞれ順調に仕事をしてくれている。
ハイブリッジ家は軌道に乗ったと言えるだろう。
「さて。少し前に報告した通り、リーゼロッテがこの街にやって来るそうなんだ」
俺はそう言う。
俺は俺で、済ませるべき用事を済ませていかなければならない。
「リーゼロッテさんと会うのは、ずいぶんと久しぶりですね。元気にされているのでしょうか」
「ふふん。ホワイトタイガーをいっしょに討伐した仲だしね。顔を合わせるのが楽しみだわ」
ミティとユナがそう言う。
かつて、”赤き大牙”、”蒼穹の担い手”、”黒き旋風”の3パーティ合同でホワイトタイガーを討伐したことがある。
その後、食事会に招いてともにおいしい料理を食べたこともある。
なつかしい思い出だ。
「リーゼロッテさんですか。私も少し交流があります。実家の方針に反発されて冒険者になっていたそうですが、最近になって戻られたそうですね。何やら事情がありそうでした」
サリエがそう言う。
同じ貴族として、俺たちとはまた違った方面で交友があったということか。
「じ、事情ですか。わたしたちに協力できることであれば、協力したいところですが……」
ニムがそう言う。
確かにその通りだが、今の段階であれこれ考えても仕方がない。
「それもいいけど、ロロちゃんの孤児院の件も済ませておきたいよね。タカシが領主として、一度訪問したいんでしょ?」
「ああ、そうだな。今後立て込んでくるかもしれないし、先に孤児院の件を済ませておくか」
モニカの問いに、俺はそう答える。
そうして、さっそく今日のうちに孤児院を訪れることになった。
●●●
孤児院にやって来た。
この孤児院出身のロロもいっしょだ。
それにミティ、ニム、サリエも連れて来ている。
「さあ。遅くなってしまったが、とうとう孤児院に来たな」
「そうですね! ここでタカシ様の偉大さを知らしめましょう!」
ミティが威勢よくそう言う。
「え、ええと。目的はそうではありませんよね?」
「あ、ああ。少し困窮しているらしいこの孤児院を視察して、必要であれば補助金の拡充などを検討する目的だ」
ニムの問いに、俺はそう答える。
ミティは俺のためを思って言ってくれているのだろうが、本来の趣旨を忘れるのは良くない。
「ロロ。あなたが慕っている院長さんたちにも、楽をさせてあげられるかもしれませんね」
「…………(こくっ)」
サリエの問いに、ロロが無言でうなずく。
無表情ではあるが、どことなく何かを期待しているような雰囲気を感じる。
そんなことを話しつつ、孤児院のトビラの前に立つ。
中に人の気配を感じる。
トビラを開けると、一斉に注目を浴びるかもしれない。
少し緊張してきたな。
「さあさあ! まずは、偉大なるタカシ様が孤児院のトビラを開け放ってください!」
ミティがそう言う。
ハードルを上げるんじゃない。
ええと。
トビラを開けたら、まずは何と声を掛けようか。
俺は思考を整理し始める。
子どもたちよ、ご機嫌いかが?
補助金が足りず苦労をかけていると聞いている。
今回、ロロからの進言もあり少しの増額を検討している。
そうなれば、今までの悩みはくだらないものだったと笑える日が来るだろう。
この孤児院、そしてこの街は俺の領地に属する。
そこに住まう者たちが幸せになるために、俺は全力を尽くす所存だ。
……こんな感じか?
ちょっと言葉遣いが変かもしれない。
もう少し推敲の余地がある。
しかし、あまり時間はない。
事前に考えておくべきだったか。
「うーん、うーん」
俺は、ドアノブを捻ったまま悩み続ける。
「タ、タカシさん? まだ何か考えているのですか? 領主様なのですし、ドンと構えていればいいんですよ」
「そうですわ。貴族として、民の尊敬を集められるような立派な姿を見せてあげてください」
ニムとサリエがそうアドバイスしてくれる。
彼女たちが俺の背中を押してくる。
「ちょ、ちょっと待った。もう少し時間を……。ええい。これ以上押すな。押すなよ、絶対に押すなよ」
「え? 押せばいいんですか? わかりました!」
ドン!
ミティにより、俺の背中が力強く押される。
ちょっ。
俺の異世界言語のチートスキルが、ここにきて誤翻訳をかましたのか?
俺は入り口のトビラを勢いよく開け放ってしまう。
そしてそのまま、建物の中へよろけるように数歩入っていく。
中には、20人を超える子どもたちがいた。
それに、世話役のシスターたちも数人いる。
「だれー?」
「男の人だ」
「後ろにはきれいなお姉ちゃんたちもいるよ」
子どもたちが突然の乱入者である俺のほうに視線を集めながら、そう言う。
やばい。
心の準備ができていない。
突然たくさんの人の前に出されて、あいさつの言葉が出てこない。
お、落ち着け。
先ほど考えておいた、あいさつの言葉を思い出すんだ。
えーと、確か……。
「ゴキゲン麗しゅうくだらねえクソガキどもよ!!! 今この瞬間から!!! この孤児院、いやこの街を、俺たちの支配下とする!!!」
……あれ?
緊張のあまり、変なことを口走った気がする。
また俺なんかやっちゃいました? (^^;)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます