328話 奴隷の購入を検討 リン

 奴隷商館で奴隷の購入を検討しているところだ。

ここまでで購入を決めたのは5人。


 猫獣人の犯罪奴隷クリスティ。

どこにでもいそうな普通の女性ハンナ。

どこにでもいそうな普通の男性ニルス。

大柄の男ネスター。

引き締まった体をしている女性シェリー。


 資金にも限りがあるので、そろそろ引き上げる頃合いである。

しかし最後に、1人だけ気になる者が残っている。


 片目に眼帯をしている幼い少女について、俺は店長に尋ねる。


「この少女の目はどうしたのだ?」

「難病によるものですな。近隣の農村で生まれたこのリンは、少し前に目の病を発症しました。徐々に視力が下がり、ゆくゆくは失明や死亡にもつながる難病です」


 店長がそう答える。


「厄介な病のようだな。それで、奴隷になった経緯は?」

「本人の治療費を賄うために、両親と相談の上で隷属契約の奴隷として売却されました。隷属契約の奴隷のほうが、売却費は上がりますからな。もちろん、王国の許可も得ています」


 隷属契約の奴隷は、通常の主従契約の奴隷よりも主人の権限が強くなる。

その分、奴隷としての価値も上がる。


 自身の難病の治療費を賄うために、自身を奴隷として売ったわけか。

まあ確かに、両目とも失明したり死んでしまったりすることに比べれば、奴隷落ちのほうがマシだろうか。


「そうか。治療はうまくいったのか?」

「そうですな。今は、何とか片目の失明までで病状の進行を抑えることができています。もう少し対応が遅ければ、両目とも失明してしまっていたかもしれません」


 完治はできていないが、病状の進行を抑えることはできているということか。


「それはよかったと言っておこう。目の事情を除けば、なかなか悪くない奴隷だな」

「はい。見ての通り、幼いながらも器量がいいので将来性はあります。お値段のほうはこれぐらいでいかがでしょうか?」


 店長がそう言って、彼女の価格を耳打ちしてくる。


「ふむ。悪くはないな」


 俺はそう言う。

将来性を感じる容姿である上に、隷属契約の奴隷だ。

本来であれば結構高めの価格となるところである。


 しかし、彼女の場合は片目が失明している上に、幼いため労働などにも適さない。

今後も、病状の進行を抑えるために定期的な治療が必要である。

そのあたりを割り引いた価格となっているようだ。

正直、お買い得感はある。


 俺はリンを改めて見る。

年齢は6歳から8歳ぐらいか?

ロロと同じか少し上くらいだと思われる。

マリアよりは下だろう。


「ひぃっ」


 俺がジロジロと見すぎたのか、彼女が怯えた様子で1歩下がる。

いかんな。

奴隷に対する適切な距離感がわからん。


 隷属契約の奴隷を購入するとなると、初めての経験となる。

まあ、持ち主の権限が強かったところで、やってもらうことは他の奴隷と大差ないだろうけどな。


「リンといったか。うちに来る気はあるか? 屋敷の雑用などをしてもらうことになるが」

「は、はいぃ。精一杯がんばりますぅ」


 ちょっとおどおどした感じだな。

まあ、おいおい慣れるだろうが。


「よし。ではこの娘ももらおう」


 リンの現時点での忠義度は10。

さほど高くない。


 片目が失明しているので、労働力や戦力としてもあまり期待できない。

容姿は優れているが、まだ幼い。


 それなのにわざわざ購入する理由は1つ。

治療魔法を彼女にかけて、忠義度を稼げないかと期待しているからだ。


 近いうちに、俺とアイリスで治療魔法レベル4の合同魔法を試してみよう。

病状の進行をさらに遅らせることができるかもしれない。

失明を治せるかはさすがに微妙か?


 失明の治療がムリだったなら、いずれ治療魔法をレベル5に上げたときに再チャレンジすればいい。

治療魔法をレベル5に上げるのがいつになるのかは不透明だが。

少し怖いしな。

しかし、その間にもリンには簡単な雑用などをしてもらうことはできるので、購入費がまったくのムダになるわけでもない。


「かしこまりました。たくさんお買い上げいただき、ありがとうございます」

「うむ。今日のところはこの6人をいただこう。手続きを頼む」


 俺はそう言う。

店長が奴隷契約の手続きを進めていく。

契約魔法の使い手である老人が部屋に入ってきて、契約を行っていく。


 俺はその手続きを進めながらも、今日購入することになった6人の奴隷についての情報を頭の中で整理し始める。


 猫獣人の犯罪奴隷クリスティ。

自身よりも強い者にしか従わないという気質を持つ。

以前彼女を購入した冒険者パーティでは彼女を従わせることができず、返品に至った。


 ちなみに犯罪奴隷とは言っても、食い逃げやスリの常習犯というだけだ。

人殺しや放火などの罪状はない。


 俺の実力なら、彼女を従わせることも可能だろう。

とりあえずは屋敷の警備兵として働いてもらう。

実力や忠義度の上昇具合の様子を見つつ、いずれはミリオンズへの加入も検討したい。


 どこにでもいそうな普通の女性ハンナ。

どこにでもいそうな普通の男性ニルス。

この2人は、北部の農村の出身だ。

口減らしとして売られてしまった。


 俺は、最初はハンナだけを購入しようかと思った。

しかし、近くにいたニルスが彼女と将来を誓い合った仲であることが発覚した。

俺には人の女を奪う趣味はない。


 せっかくなので、2人ともうちで引き取ることにした。

2人の仲を取り持ちつつ、安定した衣食住を提供してあげよう。

そうすれば、忠義度も稼げるかもしれない。


 ただ、もとは普通の村人なので、加護が付いたとしてもミリオンズへの加入は微妙かな?

俺の欲望として、できればハーレムメンバー限定でパーティを固めたい気持ちもあるしな。

彼らに加護が付けば、家事能力、索敵能力、戦闘能力などを伸ばして、スーパー執事やスーパーメイドとして屋敷を守ってもらうことになるかもしれない。


 大柄の男ネスター。

引き締まった体をしている女性シェリー。

この2人は、元Dランク冒険者のコンビである。

Cランク1歩手前まで行った実力者だ。


 ただし、彼らは肺を患っている。

短時間の戦闘や雑用程度であれば問題ないそうなので、とりあえずは俺の屋敷の警備兵として働いてもらう。

ヴィルナ、キリヤ、ヒナ、クリスティたちをメインにしつつ、シェリーとネスターが補助するような形だな。

6人もいれば、各人の負担もずいぶんと軽くなるだろう。


 シェリーとネスターには、近いうちに俺とアイリスの治療魔法をかけてみるつもりだ。

肺の病が完治すれば理想的だ。

完治までは至らずとも、ある程度の改善は見込まれるだろう。


 そして最後に、片目を失明している幼い少女リン。

俺としては初めてとなる、隷属契約の奴隷だ。

まあ、それほどムチャな命令をするつもりはないが。


 彼女にも、俺とアイリスの治療魔法をかけてみるつもりだ。

目が見えるようになれば、忠義度の大幅な上昇が期待できるだろう。

目が治療できなければ、当面は屋敷の簡単な雑用を手伝ってもらうイメージかな。


 そんなことを考えている間にも、6人との奴隷契約が進んでいく。


「タカシ様。第2の主人として、ミティ様を設定なさいますか?」

「第2の主人?」


 店長の言葉を受けて、俺はそう聞き返す。

彼が簡単な説明をしてくれる。

奴隷契約は、第2の主人を設定することも可能らしい。


 第1の主人である俺が不在のときには、第2の主人が奴隷たちに指示を出す役割を担うことになる。

まあ俺が不在だからと言って、奴隷たちがすぐさま反旗を翻すことも少し考えにくいだろうが。

あくまで保険のようなイメージだ。


「そうか。では、ミティを第2の主人としておこう。ミティもそれでいいよな?」

「もちろんです。彼女たちの教育は私にお任せください。むんっ」


 ミティがそう意気込む。

彼女は優しい性格ではあるが、少し体育会系なところがある。

また、俺のことを大切に考えてくれるあまり、他人の利益の優先度を下げるところもある。


「ああ。よろしく頼む」


 ミティであれば、俺の利益になるようにしっかりと奴隷たちを指導してくれるだろう。

しかし、彼女に任せきりにすると思わぬ方向に行ってしまう可能性がある。

俺やアイリスも、目を光らせておかないといけない。


 登用試験で採用した者たちと、奴隷として購入した者たちの仮配属先を整理しておこう。

屋敷の警備兵:ヴィルナ、キリヤ、ヒナ、クリスティ、シェリー、ネスター

屋敷の執事:ニルス

屋敷のメイド:ハンナ

屋敷のメイド見習い:ロロ、リン

街の行政機関にて見習い:トリスタ

街の警備兵:チンピラ風の男、紳士風の男、他3名


 こんな感じだろう。

最終的には、ハイブリッジ家のみんなと相談して決めることになる。


 屋敷の警備兵が少し多かったか?

しかし、戦闘能力に長けた者たちは、加護が付き次第ミリオンズに引き抜く可能性もあるしな……。

少しぐらい人手が余り気味のほうがいい。

これで正解だと思うことにしよう。


 さて。

今日はもう夕方だ。

彼らを連れて屋敷に帰って、とりあえずはゆっくりするか。

明日以降に、彼らの今後の仕事内容の具体的な打ち合わせや、治療などを行っていくことにしよう。


 ずいぶんと大所帯になりつつあるので、屋敷の別棟の建造も急がないとな。

ニムの土魔法により、簡易的な住宅をつくってもらうことも検討する必要がある。 

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