329話 仮設住宅の建造

 奴隷商館で6名の奴隷を購入した。


 猫獣人の犯罪奴隷クリスティ。

どこにでもいそうな普通の女性ハンナ。

どこにでもいそうな普通の男性ニルス。


 大柄の男ネスター。

引き締まった体をしている女性シェリー。

片目を失明している幼い少女リン。


 以上の6名だ。


 彼女たちを連れて、屋敷に戻る。

もう夕方だが、庭で何やら作業が行われていた。


 アイリス、モニカ、ニム、ユナ。

それに体格のいい男たちがいる。

ヴィルナ、キリヤ、ヒナ、トリスタ、ロロもいっしょだ。


「みんな。今戻ったぞ。何をしているんだ?」

「お、おかえりなさい。タカシさん。さっそく、別館の建造の打ち合わせをしているところです」


 俺の問いに、ニムがそう答える。

ヴィルナやヒナたちも、俺を見て頭を下げている。

俺は彼女たちにも軽くあいさつをしておく。


「おお、仕事が早い。みんなで協力してくれているんだな。ありがとう」

「うん。ヴィルナさんたちが来て、一気に手狭になったからね。それにしても……」


 モニカが俺とミティの背後を見る。


「6人も買ったんだね。2、3人ぐらいかと思っていたのに。それほどいい人たちがいたんだ?」

「ああ。なかなか有望そうな人たちを得ることができた。期待してくれていい」


 クリスティ、ネスター、シェリーあたりは十分な戦闘能力を持つ。

ただし、それぞれ懸念事項はある。


 クリスティは自身よりも弱い者の言うことを聞かない。

ネスターとシェリーは肺を患っている。

それらの懸念事項が解決すれば、ヴィルナ、キリヤ、ヒナあたりに勝るとも劣らない人材だと言えるだろう。


 ハンナ、ニルス、リンについては、現状の能力よりも忠義度を目当てに購入したところはある。

加護付与さえできれば、非加護付与者よりもあっという間に優秀な人材に成長できるだろうからな。

加護をなかなか付与できなかったとしても、雑用などの仕事はいくらでもある。


「ふふん。この家もずいぶんとにぎやかになりそうね。ますます、別棟の建造を急がないといけないわね」

「そうだねー。でも、しっかりとしたものを建てようとすると、それなりの時間は必要だよね。それまではどうしようか?」


 アイリスがそう問う。


「うーん。ぶっちゃけ、あんまり考えていなかった。マズいかな?」

「ちょっと、しっかりしてよ。タカシ」

「ふふん。2人1部屋で割り振れば、入らないこともないけど……。生活リズムの違いもあるし、割り振りが少し難しいわね」


 俺の言葉を受けて、アイリスとユナがそう言う。


「そ、それなら、わたしの土魔法で仮の住宅をつくってみましょうか? 今のわたしなら、つくれそうな気がします」


 ニムがそう提案する。


「おお。ニムの土魔法はもうそんな域にあるのか。ものは試しだ。やってみてくれるか?」

「わ、わかりました。庭の西端につくってみます」


 ニムがそう言って、庭の西のほうに移動する。


 ここで、俺の屋敷の敷地内のレイアウトを整理しておこう。

敷地内の中央北側に屋敷がある。

中央南側に門があり、そこを南に抜けると東西に一般道が走っている。


 門から屋敷に向かう道があり、その両サイドにニムが管理している畑がある。

その他の庭の空いているスペースには、ユナの弓の簡易的な練習場や、ミティの筋トレゾーンがある。

図にまとめてみよう。


+ーーーーーーーーー+

│筋○○○○○○○弓│

|○○○○○○○○○|

|仮○○館館館○○別|

|仮○○館館館○○別|

|仮○○○○○○○別|

|仮○○畑○畑○○別|

|○○○畑○畑○○○|

|○○○○○○○○馬|

+ーーーー門ーーーー+

道道道道道道道道道道道


 ○印は空きスペースだ。

今回は、西側の空きスペースに仮の住宅をつくることになる。


 ちなみに、東側にはちゃんとした別館を職人たちに頼んで建ててもらう予定だ。

俺たちがこうしている間にも、体格のいい男たちが東側で打ち合わせなどを行っている。


 土魔法による仮設住宅の建造は、失敗したとしても失うものはMPぐらいである。

気楽に挑戦してもらえばいいだろう。


 ニムが集中した顔つきで目を閉じ、土魔法の詠唱を始める。


「……土の精霊よ。我が求むる通りに形成せよ。ロック・ビルディング!」


 ゴゴゴ!

ゴゴゴゴゴ!

ゴゴゴゴゴゴゴ!


 庭の土が隆起し、建物の形になる。

これは……。


「す、すごい……」

「ふっ。さすがだ。それでこそ、俺を倒した女だ」


 ヴィルナとキリヤがそう感嘆の声を漏らす。

確かに、ニムの土魔法はすごい。

すごいのは間違いなのだが……。


「ちょっと、歪んでないか?」

「そ、そうですね……。最初から難しいものに挑戦してしまったかもしれません」


 ニムが建てようとしたのは、2階建ての大きな館だ。

俺たちが住んでいる本館を参考にしたのだろう。

しかし、いくらニムでもまだこれほど巨大な建物の建造はムリがあったようだ。


「この際、見栄えは置いておこう。大切なのは強度だ。寝ている間に天井が崩れてきたら、一大事だからな」

「わ、わかりました。1部屋ずつ、じっくりとつくってみることにします」


 ニムがそう言う。

今つくった建物は、一度土に戻した。


 そして、彼女が再び目を閉じる。

彼女が土魔法の詠唱を始める。


「……土の精霊よ。我が求むる通りに形成せよ。ロック・ビルディング!」


 ゴゴゴ!

ゴゴゴゴゴ!


 庭の土が隆起し、建物の形になる。

今度は、こじんまりとしたものだ。

1部屋だけである。


 少し大きな物置みたいな感じだ。

6畳ぐらいか。

土魔法でここまでしっかりした建物をつくれるとはな。


 出入り口は、ただスペースが空いているだけになっている。

ここだけは、別途で開閉式のドアを設置しないといけないな。


 モニカとユナが、建物の上に飛び乗る。


「よっと。……うん。強度もいい感じじゃない?」

「ふふん。悪くないわね」


 やっぱりニム製。

2人乗っても、だいじょうぶ!

……100人はさすがにムリそうかな。


「ふむ。これならだいじょうぶそうだ」

「念のため、私が全力で殴ってみましょうか?」


 ミティがそう提案する。

腕をぐるぐる回して、既にやる気マンマンだ。


「い、いやいや。ミティの全力の殴打を受けては、ほとんどの建物は全壊してしまうぞ。本館のほうだって耐えられないだろう。その必要はない」


 俺は慌ててミティを止める。


「で、では、この調子でたくさん部屋をつくっていきますね。ええと。全部で何室必要なのでしょうか?」

「そうだな。とりあえずは、11室かな。少しぐらい余分につくっておいてもいいかもしれないが」


 登用試験組のヴィルナ、キリヤ、ヒナ、トリスタ、ロロ。

奴隷組のクリスティ、ハンナ、ニルス、シェリー、ネスター、リン。

以上の11人だ。


 街の警備兵にねじ込んでいるチンピラ風の男や紳士風の男の存在もあるが、彼らはこの街にちゃんとした居を構えていると聞いている。

俺の配下だからといって、全員がこの屋敷の敷地内で生活する必要もない。


「こ、個室をいただけるのですか。ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 ハンナとニルスが、そう言って頭を下げる。

彼らは奴隷。

狭い部屋に押し込められての雑魚寝を覚悟していたのかもしれない。


「はっ。思っていたよりも悪くない待遇だな。でも、こんなことでご機嫌取りをしようとしてもムダだぜ? あたいは、あたいより強い者にしか従わない」


 クリスティがそう言う。

現時点で俺に対する忠義度が最も低いのが彼女だ。

なかなか生意気な口を聞きよる。


 俺はあまり気にしないが、ミティあたりが怖い顔をしているからほどほどにしてほしい。

近いうちに模擬試合でも行って、実力を見せておかないとな。


「まあ、クリスティにはいずれ俺の強さを見せてやるさ。それよりも、リンはこういった部屋で問題ないか?」

「は、はいぃ。問題ありません。隷属奴隷の私に対して、過分な部屋ですぅ」


 リンがおどおどした様子でそう答える。

彼女は彼女で、まだまだ俺に対する警戒が抜けない。

彼女の目をうまく治療して、関係の改善に期待したいところだ。


「ニムの土魔法があってこそだ。個室とはいえ、簡易的な住まいで申し訳ないがな」

「奴隷の私たちに対して、十分過ぎる待遇だよ。ゴホッ」

「この配慮に報いることができるよう、精一杯役目を務めさせてもらおう。ゲホッ」


 シェリーとネスターがそう言う。

やはり、奴隷たちは求める待遇水準が低いのだろう。


 しかしそう考えると、登用組の心境はどうだろうか。

奴隷たちと同じ待遇にされて、不満を持っていたりするのだろうか。

少し配慮に欠けていたかもしれない。


「ヴィルナやヒナたちはどうだ? この個室で不満はないか?」

「私は問題ありません。正直、今住んでいるところもあまりちゃんとした家ではなかったので」

「ふっ。俺もだぜ」


 俺の問いに、ヴィルナとキリヤがそう答える。

彼らは、この街のやや貧しい者たちが住む区域の出身だ。

住まいに対して求める水準はあまり高くないようだ。


「私も問題ありません! 毎日宿屋に泊まって出費がかさむことに比べたら、小さな問題です!」

「うーん。僕は、できれば本棚が欲しかったですけどねえ。……いてっ! ああもう。自分で用意するのでだいじょうぶですよ」


 ヒナとトリスタがそう言う。

トリスタは若干の不満を漏らしていたが、ヒナに足を踏まれて慌てて言い直していた。


 本棚くらい用意してあげてもいいが、ここは自分で用意してもらうことにするか。

給金も、そこそこ出すつもりだしな。

本棚ぐらいは好きに買えるだろう。


「…………(キラキラ)」


 ロロは、何やら期待に満ちあふれた視線で個室を見ている。

まあ、孤児院では個室などなかっただろうしな。

自分1人の部屋というのは、生まれて初めてなのかもしれない。


 今のところ、仮設住宅に不満そうな者はいない。

この調子で、ニムに合計11個の仮設住宅を建ててもらうことにしよう。

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