323話 最終採用者の情報整理

 登用試験から数日が経過した。

今は昼前。

ハイブリッジ家のみんなで、自宅のリビングでくつろいでいるところだ。


 ちなみにここで言う”ハイブリッジ家”は、今のところ9人を指す。

俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ。

それに執事のセバス、メイドのレインとクルミナだ。


 ”○○家”の本来の使い方としては、俺、ミティ、アイリス、モニカの4人だけしか含まないかもしれない。

しかし、俺とニムは婚約済みだ。

それに、ユナとも将来的には結婚する可能性が高い。

本人も乗り気だった。

そう考えると、ニムとユナもハイブリッジ家に数えていいだろう。


 さらに、セバス、レイン、クルミナも同じ家で過ごす大切な存在だ。

雇用主と非雇用主の関係ではあるが、家族のように親しい関係であると言っても過言ではないだろう。


「よし。今日の午後から、採用した者たちとの顔合わせがあるのだったな」

「そうだねー。それに、今後のことも話しておかないと」


 俺の言葉を受けて、モニカがそう言う。


 あれから、ハイブリッジ家のみんなと協議して、最終的な採用者を決定した。

採用した者は10人だ。


「そうですね。タカシ様のますますの活躍のため、彼らにもがんばってもらいましょう。もちろん、私もがんばります!」


 ミティがそう言う。

今回登用する者たちががんばってくれれば、このラーグの街の発展に繋がる。

ラーグの街が発展すれば、近隣の農村や他領にもいい影響があるだろう。

そしてそれらは、最終的に俺の評価に繋がってくる。


 もちろん、他力本願ばかりで待つつもりはない。

俺たちミリオンズも冒険者活動を継続して、さらなる功績を上げていくのがいいだろう。

今回は最初の人材登用として領主っぽいことをしたわけだが、当面は街の運用自体に口を出すつもりはない。

現町長に引き続きがんばってもらおう。


「今日は、ヴィルナさん、キリヤさん、ヒナさん、トリスタさん、ロロさんの5人が来るんだったよね?」

「その通りだ。残りの5人は、既に街の警備兵などにねじ込んでおいた」


 アイリスの問いに、俺はそう答える。


 ヴィルナ、キリヤ、ヒナ、トリスタ、ロロ。

この5人には特に期待している。


 それ以外にも5人採用している。

チンピラ風の男や、紳士風の男などだ。

ええと、名前は……。

あとで応募用紙を見て思い出しておこう。


 彼ら5名は、とりあえず街の警備兵などにねじ込んでおいた。

領主権限での特別採用枠のようなイメージだ。


 やや強権的だが、仕方ない。

優秀な者は確保しておいたほうがいい。

ここで不採用にして他領や他国に流れてしまうと、損失となる。


「ふふん。私たちの屋敷の警備兵として、ヴィルナさん、キリヤさん、ヒナさんを雇うのだったわね」

「わ、わたしたちの留守中に屋敷が強盗に狙われても、これで安心できますね。キリヤさんは特に強かったですし」


 ユナとニムがそう言う。

戦闘能力は、トリスタ≦ロロ<<ヴィルナ<ヒナ<キリヤといった感じだ。


 雷魔法と双剣の合わせ技を使いこなすキリヤが最も強い。

ニムには負けていたが、相性の良し悪しもある。

キリヤは、冒険者で言えばCランククラスの実力はあると言っていいだろう。


 いざというときの用心棒として、俺たちの屋敷の警備兵として働いてもらうつもりだ。

キリヤほどの実力者を外で活躍させないのはもったいない気もするが、彼はあまり冒険などに興味がなさそうだったしな。

ちょうどいい。


「ヴィルナさんの聴覚を活かした索敵能力もすごそうだね。同じ兎獣人として鼻が高いよ」

「ああ。それに、ヒナさんも天眼という技を持っていた。空間把握能力に秀でている。警備兵として十分な活躍が期待できるだろう」


 ヴィルナとヒナは、両者違った方面で索敵能力や警戒能力が高い。

戦闘能力も冒険者で言えばDランククラスはある。

キリヤと同じく、屋敷の警備員として働いてもらうつもりだ。


「警備兵となりますと、私たちの屋敷に常駐してもらいますか?」

「そうだねー。ヴィルナさんとキリヤさん、ヒナさんとトリスタさんは特に仲がいいみたいだったし、近くに住んでもらうのがいいかもしれないね」


 ミティとアイリスがそう言う。


 ヴィルナはキリヤと幼なじみで、働かないキリヤをヴィルナが面倒を見ていたそうだ。

それはもはや、ただの幼なじみとは言えないのではないか。


 キリヤさえしっかりすれば、くっつくのも時間の問題かもしれない。

そういう意味でも、キリヤとヴィルナはセットで屋敷に常駐してもらうのがよさそうだ。

まあ、余計なお世話かもしれないが。


 ヒナとトリスタは、同じ農村の生まれだ。

幼なじみである。

抜群の知力を持ちながらも農村でくすぶるトリスタを見かねて、ヒナが強引に彼を連れ出したようだ。


 明言はしていなかったが、ヒナはトリスタに好意を持っているような様子があった。

一方のトリスタも、熱烈歓迎とまではいかなくとも、ヒナのことを憎からず思っているようだった。

こちらも、くっつくのは時間の問題かもしれない。

ヒナとトリスタもセットで屋敷に住んでもらおうか。


「でもそうなると、ちょっと手狭じゃない? 私は別にいいけど」

「そ、そうですね。わたしたち6人に、セバスさん、レインさん、クルミナさん。そこに今回の人たちが追加となりますと……」


 モニカとニムがそう言う。

俺たちの屋敷は、家族だけで住む家としてはかなり大きい。

部屋も10室以上ある。


 とはいえ、現状で9人住んでいるので、既にさほどの余裕がなくなってきている。

キリヤ、ヴィルナ、ヒナ、トリスタが加わるとなると、さすがに手狭だ。

場合によっては、ロロも住み込みになるかもしれないし。


「そうだな。執事やメイド、警備兵たち用の別棟でも増築しようか?」


 金は大量にある……と思ってどんどん使ってきたが、さすがに使いすぎか?

とはいえ、貯め込んでいても仕方ないしな。

どうせ、このままだと29年後に世界は滅亡するのだ。

どんどん使って、俺の配下を増やしていくのは悪くないだろう。


「うん。今度、街の大工さんに依頼してみよう。ラビット亭の修復工事のときにお世話になった人たちにツテがあるよ」

「そ、そうですね。それに、わたしの土魔法でも、基礎部分などで少しお手伝いできるかもしれません」


 モニカとニムがそう言う。


 モニカのラビット亭は、以前魔物の被害により半壊したことがある。

俺やミティで簡単な作業を手伝いつつ、もちろん大事なところは専門の大工さんに頼んだのだ。


 ニムの土魔法は、レベル5だ。

かなりの応用力がある。

地盤を固めたり、土塀を作ったりすることも簡単にできるだろう。


「それがよさそうか。別棟を建てて、セバス、レイン、クルミナはそこに住んでもらおう。そして、ヴィルナ、キリヤ、ヒナ、トリスタもそこに加わるわけだ」

「ふふん。それは心強いわね。夜もぐっすり眠れるわ」


 ユナがそう言う。

まあもともとぐっすり眠っていたわけだが、今後はそれ以上に安眠できるようになるだろう。


「そうだな。警備兵が屋敷に常駐することにより、セバスたちも安心して仕事に励むことができるようになるだろう。別棟内の住み分けは一考しておこう」


 セバスは執事、レインとクルミナはメイドだ。

戦闘能力はほぼない。

コソドロ程度であれば対処できるが、強盗相手は荷が重い。

金を結構貯め込んでいるこの屋敷を、この3名だけで警備するのはムリがあった。


 別棟内で、家族関係にない男女が入り混じって生活するのは良くない。

セバス、レイン、クルミナはいい。

親戚関係にあるそうだし、年齢差もある。

間違いなどはそうそう起きない。


 ヴィルナとキリヤ、ヒナとトリスタが同居するのもまあいいか。

彼女たちは、くっつくのも時間の問題だしな。


 しかし、セバス、レイン、クルミナ、ヴィルナ、キリヤ、ヒナ、トリスタ、ロロの8人を全員同じ建物に住まわせるのは、さすがにどうかと思う。

男性用の棟と、女性用の棟を分けるべきだ。


 しかし、単純に二分割するのもな。

せっかくくっつきそうなヴィルナとキリヤ、ヒナとトリスタの仲を引き裂くのも忍びない。

まあ、住むところが別になる程度でひびが入るような関係ではないかもしれないが。


 このあたりは一考の余地がある。


「お心遣い、誠にありがとうございます。より一層、屋敷の管理業務などの質を高めて参ります」

「ありがとうございます! 私も頑張りますね!」

「私もです~」


 セバス、レイン、クルミナがそう言う。

彼らにも末永く、ハイブリッジ家の発展に貢献してもらいたいところだ。


「話を戻そう。ヴィルナ、キリヤ、ヒナはこの屋敷の警備兵として常駐してもらう。残りのトリスタとロロについてだが……」


 ここで、彼らの知力について整理しておこう。

ロロ<キリヤ<ヒナ≦ヴィルナ<<トリスタといった感じだ。


 ロロはまだ6歳なので仕方がない。


 キリヤは中の下くらいだ。

抜群の戦闘能力を考えれば、知力はこれぐらいでも十分許容範囲だろう。

決して無知だとか愚か者だとかいうレベルではない。


 ヒナとヴィルナは微差だ。

それぞれ、成績は上の下。

ただし、ヒナは天眼、ヴィルナは超聴覚によるカンニングまがいの行為があった。


 それらの行為でどの程度の得点がかさ増しされたのかわからない。

正確な知力は不明だ。

まあ、彼女たちは警備兵として活躍してもらうつもりなので、知力はあまり関係ない。

とりあえずヨシ!


 トリスタは、応募者全員の中で主席だった。


「トリスタには、将来の俺の内政関係の右腕になってもらおうと思っている。まずは経験を積んでもらうために、現町長のもとに行政官見習いとして送り込むつもりだ。そのあたりの調整は進めている」

「いいですね。私は内政などはさっぱりですし、知力面でタカシ様をサポートできる人材は貴重です」

「そうだねー。ボクも、少しは勉強したことがあるけど。どちらかと言えば、実際に自分が動くほうが性に合ってるかな」


 ミティとアイリスがそう言う。

確かに、彼女たちはどちらかと言えば体育会系の肉体派だ。


「ロロちゃんは、メイド見習いになるんだよね?」

「ああ。まあ、まだ6歳だしムリのない範囲でだが」


 モニカの問いに、俺はそう答える。


「ロロ氏の教育は、私どもにお任せください」

「優しく教えていきます!」

「お任せください~」


 セバス、レイン、クルミナがそう言う。

彼らであれば、厳しすぎることもなく適切に教育してくれることだろう。


 さて。

最終採用者についての事前の情報共有は、これぐらいでいいだろう。

今日の午後から、改めて彼らと顔合わせを行うことになる。

雇い主として、ビシッとしたところを見せないとな。



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【登用試験の結果一覧】


基本的にA~Eの5段階評価。

飛び抜けて優秀な分野はS評価。


ただし、ここで表記する評価はあくまで今回の登用試験上のものであり、例えば冒険者ランクなどとは関係がない。

(戦闘評価B≠冒険者ランクB)

忠義度について、B評価は20~25程度である。


      筆記 戦闘 面接 忠義 総合 特記事項

ヴィルナ   B  B  B  B  B  超聴覚

キリヤ    D  S  D  B  B  雷双剣

ヒナ     B  B  B  B  B   天眼

トリスタ   S  E  C  B  B  読書家

ロロ     D  E  D  B  D   6歳


紳士風    B  B  C  C  B

チンピラ風  E  A  D  C  C

他3名平均  C  C  C  C  C


応募者平均  D  D  D  D  D

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