324話 最終採用者との顔合わせ

 今日は、採用者との顔合わせの日だ。

具体的には、ヴィルナ、キリヤ、ヒナ、トリスタ、ロロと顔を合わせて今後の打ち合わせをする。

他にも5名採用としたが、彼らについては既に街の警備兵などにねじ込み済みである。


 打ち合わせ場所は俺たちハイブリッジ家の屋敷だ。

俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナの6人で座って待つ。

セバス、レイン、クルミナはヴィルナたちを迎えるために玄関付近で待機している。


 コンコンコン。

リビングのドアがノックされた。


「お館様。ヴィルナ氏、キリヤ氏、ヒナ氏、トリスタ氏、ロロ氏の5名がいらっしゃいました。お通しさせていただきますが、よろしいでしょうか?」

「ああ。待っていたぞ。こちらに案内してくれ」


 俺の言葉を受けて、5人がリビングに通される。

彼女たちが俺たちの近くまで進んでくる。

戦闘に立つのはヴィルナだ。


「こ、この度は採用いただき、誠にありがとうございます。恐悦至極に存じ上げます」


 ヴィルナがそう言う。

ずいぶんと丁寧な言葉遣いだ。

彼女は、面接のときにももっとも丁寧だった。

そういうタイプか。


 しかし、彼女はこの街のやや貧しい者たちが住む区画に住んでいる。

それに、普段はDランクの冒険者として活動しているそうだ。

俺のような貴族にあいさつする機会はなかったことだろう。

緊張のせいか、さすがに丁寧すぎるような気もするな。


「ふっ。俺を正式に採用するとは、見る目がある貴族様だぜ。期待しな」

「キ、キリヤ君! 口調をもっと丁寧にしてください! あわあわ」


 キリヤは相変わらず態度が大きい。

まあ実力が伴っているので、さほど不快ではない。

俺の加護付与スキルを通して、彼の俺に対する忠義度が一定程度あることは確認できているしな。

彼は不器用なだけで、人を敬う気持ちを持っていないというわけではないのだろう。


 ヴィルナは、そんなキリヤを見て焦っている。

そう言えば、以前に子爵家の警備員の内定を取り消されたと言っていたな。

今回のように、本採用直前に無礼な態度を取ってしまったのかもしれない。


「いや、俺はさほど気にはしないぞ。さすがに人の目もあるのでずっとその口調でいられても困るが。少しずつでも変えていってもらえばいい」


 人には向き不向きというものがある。

キリヤの言葉遣いについては、当面は目をつむろう。


「へえ。ハイブリッジ騎士爵様は、ずいぶんと心の広い方なのですね。僕も安心しました」

「これから、元気にお役目を全うしていきますので、よろしくお願いしますね!」

「…………(こくっ)」


 トリスタとヒナがそう言う。

ロロも無言でうなづいている。


「ああ、こちらこそよろしく頼む。それでだ。今後の具体的な職務内容についてだが……」


 俺はそう口を開き、ミティのほうに視線を向ける。


「ヴィルナ、キリヤ、ヒナ。あなたたちにはこの館に常駐してもらいます。いわゆる、警備員としての役割ですね」

「とりあえずは、朝昼夜の3交代制だね。少し大変かもしれないけど、がんばって」


 ミティとアイリスがそう言う。

このあたりは、もちろん事前にハイブリッジ家で内容を詰めてある。


 この世界の1日は、24時間だ。

3交代制ということは、1日の勤務時間は8時間である。

食事時間やトイレ休憩はあるものの、基本的に1人で8時間を警備することになる。


 日本の感覚で言えば、1日8時間労働自体はごく普通である。

この国の労働環境をモニカやニムに聞いたところ、8時間以上働く人もごく普通にいるとのことだった。

少なくとも、現代日本の感覚と大きく異なるわけではないようだ。


 とはいえ、ヴィルナたちに警備してもらう8時間には深夜時間も含む。

また、今の人員で回そうとすると年中無休となってしまう。

短期間ならまだしも、末永く働いてもらう環境としてはなかなか過酷かもしれない。


「承知しました。精一杯、がんばらせていただきます」

「ふっ。俺の剣のサビになるような賊が出ないことを祈っておくぜ」

「私もがんばりまーす!」


 ヴィルナ、キリヤ、ヒナがそう言う。

特に仕事内容に不満はなさそうだ。

少しぐらい文句が出るかと思ったが。

意外だ。


「近いうちに、また別口で優秀な人材を集める予定がある。戦闘能力に優れた者がいれば、警備兵として人材を補充する可能性はある。大変だろうが、それまではがんばってくれ。どうしてもムリそうなら、昼間の警備を少しだけ手薄にしたりすることも考える」


 俺はそう言う。

昼間は、セバス、レイン、クルミナが起きて仕事をしているしな。

それに、真っ昼間から強盗に入ろうという者もなかなかいないだろう。

通行人の目もある。

夜の警備は確保しておきたいが、昼の警備は少しぐらい手薄でも問題ない。


「1日8時間の警備ぐらいであれば、全然問題ありません。冒険者としての経験もありますので。お任せください」

「ふっ。怪しいやつがいればボコボコにするだけの仕事だろう? それぐらい造作もない」

「私も、村の畑仕事で鍛えていますから。元気なのが取り柄ですので!」


 ヴィルナ、キリヤ、ヒナがそう言う。

この様子だとだいじょうぶそうだな。

人員の追加について、必要以上に焦る必要はなさそうだ。


 次の人材拡充の当ては、奴隷の購入と、孤児院からの登用だ。

まずは、近いうちに奴隷商館を訪れてみる予定である。


「さて。次はトリスタ、君の件だ」

「僕ですか。どういった仕事を任されるのでしょうか? できれば楽で稼げる仕事がいいのですが」


 おい。

本音で話しすぎだろう。

ミティが少し怖い顔でトリスタを睨んでいる。


 素直なのはいいことだが、もっとビブラートで包んでだな……。

いや、オブラートか。

とにかく、少しはごまかすことを覚えてほしい。


「トリスタには、現町長のもとで経験を積んでもらう。具体的な仕事内容は、先方へ出向いて教えてもらってくれ。なに、領主である俺がねじ込んだわけだから、向こうもそこまで無下にはしないはずだ。給金も、そこそこ出る。本を買うお金も読む時間も、ある程度は確保できるだろう」

「そうですか。それはうれしいですね。ありがとうございます」


 トリスタは喜色満面……というほどではないが、ある程度は喜んでくれているようだ。

女性ばかりではなくて、こうして男の面倒も見ておかないとな。

忠義度を稼いでいこう。


「最後は、ロロちゃんだね」

「あ、あなたには、この館の雑用などのお手伝いをしてもらいます」


 モニカとニムがそう言う。


「ふふん。まだ小さいようだし、もちろん仕事内容は軽めにするわ。できるわね?」

「…………(ぐっ!)」


 ユナの問いに、ロロがガッツポーズをして答える。

無表情かつ無口ではあるが、決してやる気がないわけではないようだ。


「ああ、そうそう。面接のときにも言っていたが、いずれ孤児院の様子も見させてもらうつもりだ。そのときには、紹介を頼むぞ。まあ、シスターさんとはもう顔を合わせているがな」


 6歳のロロの採用にあたっては、事前に孤児院のシスターにも相談・報告済みなのである。


「…………(こくっ)」


 ロロがうなづく。

彼女以外にも、優秀な人材が埋もれていないか期待したいところだ。


 まあ、孤児院でさほど教育を受ける機会には恵まれていないだろうし、能力面では期待薄かもしれない。

しかし、能力以外にも忠義度という指標がある。

忠義度50を達成して加護を付与できれば、現時点の能力の高低は誤差でしかなくなる。


 この街の孤児院は、食うものに困るほどではないが、経済的にやや困窮気味だと聞いている。

俺がさっそうと援助すれば、忠義度を稼げるかもしれない。


「さて。先ほども言ったが、ヴィルナ、キリヤ、ヒナの3名については、警備員としてこの館に常駐してもらうことになる。つまり、この館に寝泊まりしてもらうということだ。それで問題がある者はいるか?」


 俺はそう問う。


「いえ。だいじょうぶです」

「ふっ。俺も問題ないぜ」

「私もです! むしろ、ありがたいですね。今はこの街の宿屋で寝泊まりしていますが、宿代がかさんできていたので!」


 ヴィルナ、キリヤ、ヒナがそう言う。

ヒナは、トリスタとともにラーグの街近郊の農村からやって来ている。

まだこの街に生活拠点はないようだ。


「トリスタはどうだ? この館から街の行政機関までは遠くないし、通うのにそこそこ便利だと思うぞ。それに、ヒナとも離れたくはないだろう?」

「僕とヒナは別にそういう関係じゃありませんが……。宿代が浮くのは正直ありがたいですね。僕もこちらに住ませていただこうかと思います」


 俺の問いに、トリスタがそう答える。

トリスタとヒナは、まだ明確にできてはいないようだ。


「ロロはどうする? 慣れ親しんだ孤児院を離れるのは寂しいだろう? 孤児院から通うのでも、ここに住むのでも、どちらでも構わないぞ」

「…………ここに住む……です……。早く一人前になります……」


 ロロがそう言う。


「そうか。まあここから孤児院までそれほど遠くないし、寂しくなれば時おり帰るのは問題ないからな。自由時間ならいつでも帰ってくれていいし、時間がなければ相談してくれ」

「…………(こくっ)」


 ロロが無言でうなずく。


「タカシ様。彼女たち5名をこの館に住まわせるとなると、さすがに手狭になると思いますが……」

「そうだな。少し前にも相談した通り、別館を建てよう。それまでは、手狭でも我慢してくれ。ギリギリ部屋数は足りるだろう」


 俺はそう言う。

今後もミリオンズのパーティメンバー拡充や、俺のハーレムメンバー拡充にあたり、部屋数にゆとりは持っておきたい。

とはいえ、今すぐにどうこうというわけでもない。

別館を建てるまでは、とりあえず俺たちの住む本館のほうに住んでもらえばいいだろう。


 そんな感じで、登用試験の合格者たちとの顔合わせは無事に終了した。

さっそく今日から、この館に寝泊まりしつつ、それぞれの職務にあたってもらう予定だ。


 一方の俺たちミリオンズの今後の予定も整理しておこう。

まずは、さらなる人材の登用である。

具体的には、奴隷商会の訪問と、孤児院の訪問を行う。

それぞれ気合を入れて臨むことにしよう。

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