322話 【ヴィルナ視点】恐怖の面接

 タカシ=ハイブリッジ騎士爵様のお抱え登用試験の続きです。

筆記テストと模擬試合が終わりました。

次は面接が控えています。

今は、私の1つ前のキリヤ君が面接を受けているところです。


 キリヤ君は、筆記テストはぼちぼちだと言っていました。

また、模擬試合ではニムさんに負けはしたものの、いい試合をしていました。

総合的には、なかなかの好評価のはずです。


 この面接で大幅な減点がされない限り、キリヤ君はこの登用試験に合格できそうな気がします。

失礼なことを言っていないといいのですが……。


 おっと。

そんなことを考えている間に、キリヤ君が面接室から出てきました。


 次は私の番です。

キリヤ君とすれ違い、面接室の扉の前に向かいます。


 コンコンコン。

ドアをノックします。


「どうぞ」

「失礼します。この街に住んでいる、ヴィルナと申します」


 私は部屋に入り、深々と礼をします。

私は、冒険者にしては礼儀正しいとよく言われます。

いつも通りに振る舞えば、少なくとも大幅な減点はされないはずです。


 そんなことを考えつつ、頭を上げます。

部屋の中には、6人の方がいます。


 ズシン。

頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が走りました。


 ば、化け物揃い……。

この部屋には、とんでもない化け物たちが勢揃いしていました。


 まずは真ん中に、タカシ=ハイブリッジ騎士爵様ご本人。

その両隣に、ミティ第一夫人と、アイリス第二夫人。


 少し離れたところには、モニカ第三夫人と、ニム第四夫人(予定)が座っています。

さらに、その隣にはもう1人女性が座っています。

確か、ユナさん……だったかな。

ミリオンズに入ってからもっとも日が浅かったはずです。


 私は、タカシ様の側近はミティ様とニムさんの2人だと思っていました。

しかし、それは大きな誤解だったようです。


 この人たち……。

一人ひとりが、とんでもない実力を持っているようです。

彼らから放たれるプレッシャーに、思わず体が震えます。


 彼らには、私をビビらせようという狙いはないかもしれません。

私は生まれながらに、敏感な聴覚と、優れた危機察知能力を持っていました。

その危機察知能力が、全力で警鐘を鳴らしています。

彼らを怒らせてはいけない、と。


 震える体を必死に抑えつつ、私に用意されているイスまで何とかたどり着きました。

一声かけて、着席します。


「……が、……です。それに……」

「……へえ、なるほど。では……」


 自己紹介から始まり、いろいろと話し込んでいきます。


「じゃあ、応募したきっかけを教えてくれるかな?」


 第二夫人のアイリス様が私にそう問いかけます。

彼女は”武闘聖女”の二つ名を持つ、優しいお方だとお聞きしていました。

少しぐらいの失言は多めに見てもらえるとなめていたかもしれません。


 しかし、この圧力を前にしてそんな甘い考えは吹き飛びました。

スキを見せれば殺られる……!

思わずそう感じてしまうほどの圧倒的な強者のオーラが彼女から発せられています。


「はい。この街で安定した収入を得たいと思ったからです。今はDランク冒険者として収入を得ていますが、少し不安定なので」


 私は声が震えそうになるのを抑えつつ、そう絞り出します。

少し、正直過ぎたかもしれません。

緊張のあまり、自分が何を口にしているかわからなくなってきました。


「安定した収入か。街の食堂とか、清掃員とかではダメだったのか?」


 タカシ様が、そう問いかけます。


「それでは、お給金のほうが少し足りないのです。うちのキリヤ君の分も稼がないといけませんし……」

「うちのキリヤ君だと? 結婚しているのか?」


 タカシ様が重ねてそう問いかけてきます。


 うっかり、余計なことまで口走ってしまいました。

キリヤ君のことは、面接に関係ないのに。


「えっ。い、いえ! まだです!」


 私は慌ててそう否定します。

自分の顔の温度が上がっているのを感じます。


 焦っていたせいで、少し雑な返答になってしまいました。

幸い、タカシ様はそれ以上の追及はしてこられませんでした。

何やら、納得したような顔をされています。


 次は、ミティ様が口を開こうとしています。


「応募者番号8番のキリヤさんとあなたは、知り合いなのでしょうか? 年齢も近いですし、住所も近いですね。応募者番号も連番ですし……」


 模擬試合のときに続き、ミティ様からはかなりのプレッシャーを感じます。

一度捕まれば全体に逃れられない超パワーというのは、恐ろしいものです。

ヒナさんもあっさり負けていましたし。


「はい。いわゆる幼なじみです。彼はなかなか働こうとしないので、私が彼の分の生活費も稼いでいるのです」


 私は正直にそう答えます。

ちょっとプライベートなことまで答えすぎました。

キリヤ君が労働嫌いであることは、彼の登用判定にマイナスだったかもしれません。


「そうだったのか。それでは、1つ朗報があるぞ。キリヤ君には、先ほど採用を伝えたのだ」

「ほ、本当ですか!? 彼の戦闘能力は、私が保証します。ありがとうございます!」


 キリヤ君は無事に登用されたそうです。

まるで、自分のことのようにうれしいですね。

彼は抜群の戦闘能力を持っているのに、今まで活躍の機会がありませんでした。

活躍の場を与えてくれるタカシ様には、感謝の気持ちでいっぱいです。


 その後も、いくつかのやり取りを行っていきま。


「では、アピールポイントを教えてもらえますか?」


 ミティ様がそう問いかけます。

ここも、下手な回答はできません。


「はい。私は、聴覚に優れています。以前組んでいたDランクの冒険者パーティでは、索敵役として重宝されていました。少し前にパーティから抜けさせてもらいましたが」


 これで無難な答えのはず。

自分ではそう思っていましたが……。


「(うーん……。重宝されていた冒険者パーティをわざわざ辞めたのですか。安定した収入を得たいという気持ちはわかりますが……。はたしてうちでも長続きするかどうか……)」


 ミティ様が小声でそうつぶやき、微妙そうな顔をします。

普通なら聞こえないぐらいの声量でしたが、私には聞こえます。


 ブワッ。

嫌な汗が吹き出します。


 失敗した?

失敗した失敗した失敗した失敗した。


 ミティ様の心証を害してしまったようです。

何とか補足して、挽回をーー。

私が必死に思考している、そのとき。


「ふむ。これまでも重宝されていたのか。それは期待できそうだな。キリヤ君とともに、その能力をうちで活かしてくれ。採用だ!」


 タカシ様が堂々とそう宣言します。

え?

今、何とおっしゃいました?

採……用……?


 一拍遅れて、私は言われたことを理解しました。


「あ、ありがとうございます!」


 私は深々と頭を下げます。

そのまま面接は終了となり、私はフラフラと部屋から退出しました。


 ふ、ふう……。

寿命が縮みました。

化け物揃いの部屋に、私1人だけ凡人とか。

狼の群れに迷い込んだ羊のような状態でしたね。


 しかし、終わってみればこの上ない結果となりました。

キリヤ君も私も無事に採用です。


 詳細の雇用条件は数日後に再打ち合わせと聞いています。

貴族様お抱えとなるわけですし、期待できるでしょう。


 事前に確認した登用試験の案内用紙には、目安のお給金も表記されていました。

今の私のDランク冒険者としての稼ぎよりもずっと多額です。


 そして何より、ずっとプー太郎だったキリヤ君が働いてくれるだけでも私にとっては十分です。

もしかしたら、実際に働く場所も同じになるかもしれません。

そうなれば、愛想が悪いキリヤ君のフォローを私がすることもできます。


 ああ。

私とキリヤ君の未来は、光り輝いて見えます。

願わくば、この幸せな気持ちがずっと続きますように。

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