319話 面接 ロロ
人材登用の面接の続きだ。
既に応募者の8割ぐらいの面接を終えている。
俺が即決で採用を宣言したのは、ヒナ、トリスタ、キリヤ、ヴィルナの4人だ。
残りは、後でハイブリッジ家のみんなと再相談しつつ決めることにしている。
「さて……。次はだれだ?」
俺はそう問う。
「応募者番号26番のロロちゃんです。タカシ様が気になさっていた女の子ですね。トリスタとかいうヘッポコ少年に勝っていましたし、私も印象に残っています」
ミティがそう言う。
地味に、彼女のトリスタへの評価が散々だ。
まあ、ミティは結構体育会系のところがあるからな。
運動能力がからきしのトリスタは、低評価になってしまっているのだろう。
「筆記テストのほうは、下の上くらいだね。年齢の割には大健闘かな。第46問以降も、自分なりに答えようという意思は伝わってきたよ。内容は、正直まだまだだけどね」
アイリスがそう言う。
ロロは、この街の孤児院からの応募者だ。
年齢は6歳で、応募者の中でぶっちぎりの最年少である。
そう言えば、年齢制限を設けていなかったな。
筆記テストは中の下ということだ。
6歳の彼女が大人に混じって中の下であれば、アイリスの言う通り大健闘と言っていいだろう。
字が書けるだけでも大したものである。
将来有望だ。
幼い彼女に戦闘能力を期待するのは酷だろう。
……と言いたいところだが、彼女はトリスタに勝っているんだよな。
まあ、トリスタが弱すぎただけかもしれないが。
コンコンコン。
ドアがノックされた。
「どうぞ」
「…………(ぺこり)」
俺の返事を受けて、ロロが部屋に入ってくる。
無言だ。
無口なタイプなのかな。
それとも緊張しているのか。
お辞儀をして敬意は示してくれているし、とりあえずはこのまま進めよう。
まだ6歳だし、ある程度は仕方ない。
彼女がイスに座り、面接が始まる。
「じゃあ、ロロちゃん。さっそくだけど、応募した理由を聞かせてもらえるかな?」
アイリスが優しくそう問う。
俺たちミリオンズで、小さい子に優しいのはアイリスだ。
次に優しいのが、モニカやユナあたりである。
ミティは優しい性格ではあるが、体育会系なところもあり小さい子からの受けはやや悪い。
マリアとも、最初の頃は少しぎこちなかった。
今では普通に接しているし、致命的に小さい子と相性が悪いわけではないが。
「…………お金がほしくて……」
ロロがボソッとそう言う。
喋れたんだな。
よかった。
さすがに一言もしゃべらない者だと、採用判断において大きなマイナスとなるところだった。
「(……タカシ様。この街の孤児院は、やや資金繰りに困っているそうです。見たところ、食うのに困るほどではないようですが……)」
ミティが小声でそう耳打ちしてくる。
お金に困っている孤児院を助けるために、自らが働きに出ようとしているのか。
まだ6歳なのにな。
ええ子や。
しかし、お金に困っているとはいえ、ミティの言う通り食べ物に困っていたりはしないようだ。
特に痩せぎすというわけでもない。
模擬試合でトリスタに勝てるぐらいの筋肉もついている。
そして、筆記テストでは大人の応募者に混ざって中の下の成績を取るぐらいの学力がある。
孤児院でも、なかなかしっかりとした教育が施されているのかもしれない。
もちろん、本人の努力や才能もあるだろうが。
その後も、いくつかのやり取りを繰り返す。
「ふむ。その年齢で立派なことだな。才能もあるし、若い。これからの成長にも大いに期待できるだろう。採用だ!」
「…………(ぐっ!)」
俺の言葉を受けて、ロロが無言でガッツポーズをする。
喜んでくれているようだ。
彼女との面接はそのまま終了となり、彼女は退出した。
●●●
ロロの後、数人と面接を行った。
そして、応募者全員との面接が終了した。
面接を終えた者たちは、随時解散を言い渡している。
採用結果は、3日後に発表と伝えている。
俺たちは、採用会場の後片付けをする。
執事のセバス、メイドのレインとクルミナにも手伝ってもらう。
そして、自宅のリビングに戻ってきた。
今は、俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナでくつろいでいる。
セバス、レイン、クルミナは別室で家事を行ってくれている。
まずは、ミリオンズのみんなで今日の登用試験を振り返っておこう。
「ふう。なかなか有望そうな人が多かったな」
「そうだねー。タカシが独断で採用宣言を始めたときには、どうなることかと思ったけど」
アイリスがそう言う。
俺は加護付与のスキルの応用により、読心術のようなことができる。
しかしそれは彼女たちに伝えていなかった技術だ。
突然の採用宣言で、戸惑わせてしまった。
「タカシ様が即採用を言い渡したのは、5名でしたね。確か、ヴィルナ、キリヤ、ヒナ、トリスタ、ロロですか」
「ああ。その5人は、筆記テストや模擬試合の結果がそれぞれ悪くなかったし、俺に対する友好度も高かったからな。有望な人材は少しでも早く確保しておきたかったんだ。みんなはだれが気になった?」
俺はそう言う。
彼女たちは将来の加護付与候補者だ。
多少の青田買いをする価値はあるだろう。
「私はヴィルナさんが気になるかな。同じ兎獣人だし」
モニカがそう言う。
兎獣人の少女ヴィルナ。
10代後半。
ラーグの街のやや貧しい者が暮らす区域に住んでいる。
彼女は並外れた聴覚を持つ。
冒険者パーティ内でも、高い索敵能力で重宝されていたそうだ。
「わ、わたしはキリヤさんです。彼はかなり強いですよ。さすがにタカシさんやアイリスさんほどではないでしょうが……。冒険者ランクで言えば、Dランク上位からCランク下位ぐらいはあると思います」
ニムがそう言う。
人族の男キリヤ。
20代前半。
ラーグの街のやや貧しい者が暮らす区域に住んでいる。
雷魔法を双剣にまとわせて戦う。
子爵家の警備員として声を掛けられた経験を持つ。
相性の悪いニム相手に善戦していたし、実力は確かに高い。
「私は、ヒナさんでしょうか。空間把握能力に長けているようでした。今の私たちにはない能力です」
ミティがそう言う。
人族の少女ヒナ。
10代後半。
ラーグの街近郊の農村出身。
”天眼”という特殊な技を使う。
索敵能力や空間把握能力に優れている。
「ボクは、トリスタ君かな。聖ミリアリア統一教関係の問題や、最後のほうの難問も含めて、きっちり解答していたからね。さすがに満点ではなかったけど……」
アイリスがそう言う。
人族の少年トリスタ。
10代中盤。
ラーグの街近郊の農村出身。
戦闘能力は皆無だが、抜群の知識量を持つ。
満点ではなかったが、そもそもあの筆記テストは満点を取れるような難易度ではないので仕方がないだろう。
「ふふん。私はロロちゃんに期待するわ。ぶっちぎりで一番若いし、将来大化けするかもしれないわよ」
ユナがそう言う。
人族の女の子ロロ。
6歳。
ラーグの街の孤児院から来た。
まだ子どもなのに、筆記テストで中の下を取る知識量と、模擬試合でトリスタに勝つ戦闘能力を持つ。
「なるほどな。みんなの意見も参考になる」
俺が独断で採用を決めた5人ではあるが、みんなそれぞれ一定の評価はしてくれているみたいだ。
と、そんなことを話しているうちに、セバスたちの家事がひと段落したようだ。
彼らがリビングに入ってくる。
「お館様。本日の業務はひと段落致しました。また何かご用向があればご指示ください」
「ご苦労、セバス。それにレインとクルミナも」
俺はそうねぎらいの言葉をかける。
「そうだ。ちょうどいい。セバスは、今日の応募者の中に気になる者はいたか?」
「ふむ? ……そうですな。まずは、お館様が即決で採用を宣言された5名です。それぞれ、なかなかの人材かと思います。トリスタ氏は将来の行政官として期待できるでしょう。ヒナ氏、ヴィルナ氏、キリヤ氏は、警備兵としての活躍や、ゆくゆくはお館様のミリオンズへ加入しての活躍が期待できます」
セバスがそう言う。
「ふむ。ちなみにロロはどうだ?」
「ロロ氏は、さすがにまだ幼いので適正な評価が難しいですな。当面は、メイド見習いとして働かせるのがよろしいかもしれません」
まあ、まだ6歳だしな。
無難な仕事を与えて様子を見ていくか。
「無口ではありますが、なかなか素直そうな子でした! 教えがいがあります!」
「そうですね~。私たちで優しく教えますよ~」
レインとクルミナがそう言う。
彼女たちの下でなら、ロロも元気に働いていけるだろう。
とはいえ、まだ6歳だしあまり働かせ過ぎるのも申し訳ないな。
適度に働いてもらいつつ、勉強や遊びなどにも精を出してほしいところである。
そもそも、彼女がうちに応募したのは、孤児院が金銭的にやや困窮しているからだそうだ。
俺の領主権限で、そのあたりも改善しておこうか。
近いうちに、孤児院に顔を出すことにしよう。
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