318話 面接 キリヤ、ヴィルナ

 人材登用の面接の続きだ。

まずは、ヒナとトリスタを即決で採用した。

筆記テストと模擬試合の評価や、俺に対する忠義度を総合的に判断した結果である。


 それ以降の人たちも全員即決採用……と言いたいところだったが、さすがにそうするわけにはいかない。

領主としての権限は与えられているので、彼らに対する給金はどうとでもなる。

最悪は、俺のポケットマネーから出すことも可能だ。


 しかしそうは言っても、差し迫った仕事があるわけではない。

優秀な人材を確保しておこうという程度のものである。

とりあえず、街の行政機関に見習いとして送り込んだり、俺たちの屋敷の管理や警備を任せたりするぐらいだ。

いずれはミリオンズに同行してもらうこともあるだろう。


 差し迫った仕事がないのに無闇に人を雇うのはよくない。

俺の領主としての手腕に、国王や領民から疑問符を持たれてしまうかもしれない。

就任早々のマイナス評価は避けたいところだ。


 というわけで、ヒナとトリスタの後に面接した数人の採用結果は保留としてある。

全員の面接が終わったら、再度ハイブリッジ家で相談して最終的な採用者を決める予定である。


「さて……。次はだれだ?」


 俺はそう問う。


「お、応募者番号8番のキリヤさんです。わたしが戦いましたが、かなり強かったです。ディルム子爵領軍のダイアおじいちゃん並みかもしれません」

「筆記テストのほうは、中の下くらいだね。第45問までは埋めてあったし、何とか解答しようという気概が伝わってきた」


 ニムとアイリスがそう言う。


 キリヤは、この街のやや貧しい者が暮らしている区画の者だ。

ヴィルナという少女とともに、この登用試験に臨んでいる。


 キリヤの特筆すべき点は、戦闘能力の高さだ。

雷魔法と双剣を組み合わせて戦う。

ニムと相当いい試合をしていた。


 一方で、筆記テストも中の下くらいは取れていると。

総合的に見て、かなり優秀な者と考えていいだろう。


 コンコン。

ドアがノックされた。


「どうz……」


 ガチャッ。

俺の返事を待たずに、ドアが開け放たれる。


「ふっ。失礼するぜ。この街育ちの、キリヤだ」


 キリヤが部屋に入ってくる。

礼儀としてやや怪しい上に、言葉遣いがまったく丁寧ではない。

だが、とりあえずこのまま進めていこう。

これほどの逸材をそんなことで落とすのはもったいない。


 彼がイスにどかっと座り、面接が始まる。


「……が、……だ。そして……」

「……ふむ。なるほど。では……」


 自己紹介から始まり、いろいろと話し込んでいく。


「次に、アピールポイントを教えてもらえるかな?」

「ふっ。戦闘なら俺に任せておけ。模擬試合では不覚を取ったが、あれは双剣とは相性の悪い相手だったからな。並みの相手なら、俺はそうは負けん」


 アイリスの問いに、キリヤがそう答える。


「そ、そうですね。確かに、剣士はわたしに対する相性は悪いです。彼が勝つことはそもそもムリがあったかもしれません」


 ニムがそう言う。


「ふっ。それにだ。俺は、子爵家から警備員として内定を受けたこともあるんだぜ。いろいろあって、断らせてもらったがな」


 キリヤがそう言う。


「(うーん……。子爵家ですら満足できないのであれば、騎士爵であるタカシ様に仕えるのは不満なのでは? 侯爵家あたりじゃないと……)」


 ミティが小声でそう言って、微妙な顔をする。

だがーー。


「なんと! 子爵家からそんな打診を受けたことがあるのか! それは信用できそうだ。模擬試合で抜群の戦闘能力を見せてもらったことだしな。採用だ!」

「ふっ。見る目があるじゃねえか。タカシ様よお。期待してもらっていいぜ」


 キリヤがそう言って、一応形だけは頭を下げる。

キリヤとの面接はそのまま終了となり、彼は退出した。



●●●



「さて……。次の人はだれだ?」


 俺はそう問う。


「応募者番号7番のヴィルナさんです。戦闘能力はそこそこでしたね」


 ミティがそう言う。

俺が気にしている5人の中で戦闘能力を順位付けてみよう。

トリスタ≦ロロ<<ヴィルナ≦ヒナ<キリヤといった感じとなる。


 ヴィルナは5人の中ではちょうど真ん中くらいだ。

応募者全員の中では、平均より少し強いぐらいである。


「筆記テストは悪くなかったよ。さすがに、第46問以降はほぼ空欄だったけど」


 アイリスがそう言う。


 ヴィルナは、この街のやや貧しい者が暮らしている区画の者だ。

先ほどのキリヤという男とともに、この登用試験に臨んでいる。


 筆記テストでは、兎獣人としての聴覚の良さを活かして他の応募者の解答を写している様子だった。

さすがに、第46問以降の難問は聴覚ではコピーしきれなかったのかもしれない。


 コンコンコン。

ドアがノックされた。


「どうぞ」

「失礼します。この街に住んでいる、ヴィルナと申します」


 俺の返事を受けて、ヴィルナが部屋に入ってくる。

なかなか丁寧な口調だ。

キリヤとは対照的だ。


 彼女がイスに座り、面接が始まる。


「……が、……です。それに……」

「……へえ、なるほど。では……」


 自己紹介から始まり、いろいろと話し込んでいく。


「じゃあ、応募したきっかけを教えてくれるかな?」

「はい。この街で安定した収入を得たいと思ったからです。今はDランク冒険者として収入を得ていますが、少し不安定なので」


 アイリスの問いに、ヴィルナがそう答える。


「安定した収入か。街の食堂とか、清掃員とかではダメだったのか?」

「それでは、お給金のほうが少し足りないのです。うちのキリヤ君の分も稼がないといけませんし……」


 ヴィルナがそう言う。

うちのキリヤ君、か。

模擬試合のときにも少し感じたことだが、やはりヴィルナとキリヤは何か特別な関係にあるようだな。


 少し気になるが、応募者のプライベートにどこまで突っ込んで聞いてもいいものなのか。


「うちのキリヤ君だと? 結婚しているのか?」


 やべ。

つい口に出して聞いてしまった。

セクハラだ。


 訴えられたら負けるかもしれない。

そのときは領主権限で握りつぶそう。


「えっ。い、いえ! まだです!」


 ヴィルナが顔を真っ赤にしてそう答える。


 なるほど。

まだ、か。

結婚も時間の問題のようだ。


 これほど初々しい反応が見られるのであれば、権力を笠に着たセクハラも悪くない。

癖になりそうだ。


 クセになってんだ、セクハラするの。


 い、いや。

いかんいかん。

俺は真っ当に生きていくと誓ったのだ。


 どうも、油断すると悪寄りの考えになってしまうな。

ソフィアから光の精霊石はもらったのだが。

これは、闇の瘴気がどうこうではなくて、俺個人のもともとの精神力の問題かもしれない。


「応募者番号8番のキリヤさんとあなたは、知り合いなのでしょうか? 年齢も近いですし、住所も近いですね。応募者番号も連番ですし……」

「はい。いわゆる幼なじみです。彼はなかなか働こうとしないので、私が彼の分の生活費も稼いでいるのです」


 ミティの問いに、ヴィルナがそう答える。

彼女もなかなか苦労しているようだ。


「そうだったのか。それでは、1つ朗報があるぞ。キリヤ君には、先ほど採用を伝えたのだ」

「ほ、本当ですか!? 彼の戦闘能力は、私が保証します。ありがとうございます!」


 ヴィルナが、まるで自分のことのように喜ぶ。

キリヤの面接が終わってからすぐにヴィルナの面接だった。

まだキリヤからヴィルナへ結果の報告はされていなかったのだろう。


 その後も、いくつかのやり取りが繰り返される。


「では、アピールポイントを教えてもらえますか?」

「はい。私は、聴覚に優れています。以前組んでいたDランクの冒険者パーティでは、索敵役として重宝されていました。少し前にパーティから抜けさせてもらいましたが」


 ミティの問いに、ヴィルナがそう答える。


「(うーん……。重宝されていた冒険者パーティをわざわざ辞めたのですか。安定した収入を得たいという気持ちはわかりますが……。はたしてうちでも長続きするかどうか……)」


 ミティが小声でそう言って、微妙な顔をする。

だがーー。


「ふむ。これまでも重宝されていたのか。それは期待できそうだな。キリヤ君とともに、その能力をうちで活かしてくれ。採用だ!」

「あ、ありがとうございます!」


 ヴィルナがそう言って、頭を下げる。

彼女との面接はそのまま終了となり、彼女は退出した。


「キリヤさんに続き、ヴィルナさんもですか。ヒナさん、トリスタさんと合わせて、これで4人目ですね」


 ミティがそう言う。


「ああ。この4人は、筆記テストや模擬試合のときから目を付けていたんだ。面接のやり取りでも大きな問題はなさそうだったし、何より俺に対する友好度がそこそこあったからな」

「まあ、タカシがそう言うならそれでいいけどね。タカシのその友好度を測る力は、本当に便利だね」


 アイリスがそう言う。

これは一種の読心術のようなものだからな。

単純な戦闘能力の強化系スキルとはまた違った便利さがある。


「ああ。彼らは、優秀だし、裏切ったりはしないだろうという安心感がある。即決で採用を宣言する価値はあると思う」

「ふふん。なかなか優秀そうな人を確保できたわけね」


 ユナが満足気な顔でそう言う。


「そ、そうですね。それに、即決では決めなかった人たちの中にも、まだまだ優秀な人はいたでしょうし……」

「その人たちについては、後でみんなで相談しないとねー。あの紳士なおじさんとか、悪くないと思ったけど」


 ニムとモニカがそう言う。

即決で決めたのは今のところ4人だけだ。

しかし、他にも優秀な人は何人もいる。


「ボクは、あのちょっとガラの悪いチンピラみたいな男の人が気になったかな? 根は悪い人じゃないと思う」

「模擬試合でもなかなかでした。ところでタカシ様は、あと気になる者は残っていますか?」


 アイリスとミティがそう言う。


「そうだな。模擬試合でトリスタに勝っていた幼い女の子がいただろう? あの子が気になるな」


 確か、名前はロロだ。

この街の孤児院から来た。


 まだ幼すぎるので、実際に採用するかは微妙なところではあるが。

応募理由は気になるところだ。

何か事情があるのだろうか?

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