317話 面接 ヒナ、トリスタ

 模擬試合は無事に終わった。

戦闘能力の面で特筆するべきは、キリヤだ。

他にも、ヒナ、ヴィルナ、紳士風の男、チンピラ風の男あたりはそれなりに強かった。


 次は面接である。

領主として、厳しい姿勢で臨むことにしよう。

圧迫面接も辞さない。


 君、この空白の3年間は何をしていたのかね?

特技は○○? それがうちで働く上で何の役に立つというのかね?

みたいな感じだ。


 セバスからは事前に面接時の注意事項などをアドバイスしてもらった。

レインやクルミナを相手に、模擬面接の練習も行っておいた。

彼らは、控室にて応募者たちに面接の概要などを説明する役割だ。


 面接は、ミリオンズ全員が同席のもとで行う。

今は、部屋の中で準備をしているところである。


 メインは俺、ミティ、アイリスだ。

この3人で応募者への質問などを行う。

席は応募者の正面となる。


 横に少し離れたところに、モニカ、ニム、ユナが座る。

この3人は、応募者への質問などは行わない。

一応、これから登用する者を知っておいてもらうために座っているのである。

応募者の態度などをチェックしてもらう役割もある。


 応募者を部屋に呼ぶ前に、まずは俺たちで情報共有をしておこう。


「さて……。最初の人はだれだ?」


 俺はそう問う。


「応募者番号17番のヒナさんですね。私が戦いましたが、なかなかの戦闘能力でした」

「筆記テストのほうも、結構よくできていたよ。最後のほうの記述式は少しチグハグな解答だったから、採点に苦労したけど」


 ミティとモニカがそう言う。


 ヒナは、農村部出身の少女だ。

トリスタという少年とともに、この登用試験に臨んでいる。


 筆記テストでも模擬試合でも、”天眼”とかいう謎の技術を有効に使っていたようだった。

そのおかげもあってか、それぞれ悪くない結果を収めている。

人柄に問題がなければ、登用する方向でいいだろう。


 コンコンコン。

ドアがノックされた。


「どうぞ」

「失礼しまーす! 北東の村からやって来た、ヒナです!」


 俺の返事を受けて、ヒナが大きな声で部屋に入ってくる。

言葉遣いにやや雑な印象はあるが、元気なのは好評価と言っていいだろう。


 彼女がイスに座り、面接が始まる。


「……で、……が……」

「……ふむ。なるほど。では……」


 彼女の自己紹介から始まり、いろいろと話し込んでいく。

ここで1つ、気になっている点を質問しておこう。


「俺から1ついいか? 天眼という技はいったい何なのだ?」

「ええっと。第三の目で、空から俯瞰するように見ることができる技術です」


 俺の問いに、ヒナがそう答える。

なるほど?

空から俯瞰して、トリスタあたりの答案用紙を盗み見ていたわけだ。

模擬試合では、もともとの視界に加えて、空から俯瞰した視界により砂ぼこりの中のミティの攻撃を見切っていたと。


「それは、どういう理屈の技なんだ? 魔法か?」

「実は私も理屈はよく知らないのです……。私の母方の先祖が鳥獣人系の少数種族だったそうで、先祖返りであの技を使えるだけですので」


 本人もよくわかっていないと。

まあ、そういうこともあるか。

俺も、なぜ加護付与やステータス操作のような力を扱えるのかと聞かれても、答えられないしな。


「鳥獣人か。1年ほど前に、ハーピィとの友好関係が宣言されたな。それについてはどう思っている?」

「それはもう、うれしかったですよ! 私は鳥獣人の身体的特徴をあまり引き継いではいませんが、やはり少し肩身が狭かったので」


 ヒナが興奮した表情でそう言う。

俺たちの過去のがんばりが、こういったところにも好影響を与えていたのか。

うれしいものである。


「そうか。実は俺も、その時の一件では少し活躍したんだ。喜んでももらえて、うれしいよ」

「もちろん、ハイブリッジ騎士爵様の当時のご活躍も聞き及んでいます! ありがとうございました!」


 ヒナが明るい表情でそう言う。

本当に、俺に対して一定の好感度を持っているようだ。

恋愛方面というよりは、ちょっとした恩人に対する好意だろうが。

彼女にはトリスタというお相手がいるしな。


 その後もいくつか質問を繰り返していく。


「では、今回の登用試験を受けた理由を教えていただけますか?」

「はい。ここで色々と学ばせていただき、自らを磨きたいと思いまして応募しました!」


 ミティの問いに、ヒナが元気よくそう答える。


「(うーん……。一見向上心があって立派に聞こえますが、雇った者を勉強させて磨いてあげるために給金を出すわけじゃありませんし……)」


 ミティが小声でそう言って、微妙な顔をする。

だがーー。


「向上心があって大変結構! 筆記テストも模擬試合も好成績だったしな! 採用だ!」

「あ、ありがとうございます!」


 ヒナがそう言って頭を下げる。

ヒナとの面接はそのまま終了となり、彼女は退出した。


「タカシ様?」

「どういうつもりなの? タカシはあの子が気に入ったの?」


 ミティとアイリスがそう言う。

少し責めるような目つきだ。

ユナたちも、俺の突発的な採用宣言に少し困惑している様子である。


「まあ聞いてくれ。例の俺の力は、俺に対して一定以上の友好度を持っている者に使えるという話はしたな?」

「ふふん。そんなことを言っていたわね」

「その副産物として、現時点での友好度も測れるんだよ。俺に対する友好度がある程度あれば、裏切りやサボりなどのリスクも減るだろう」


 俺はそう説明する。


「な、なるほど。そういうことですか」

「ふうん。それで、彼女の友好度はどれぐらいだったの?」


 ニムとモニカがそう言う。


「彼女の俺に対する友好度は、それなりに高かった。具体的には、そうだな……。最初の頃にラビット亭で食事会を開いただろう? あの頃のモニカ、ニム、ユナたちと同じくらいだな。アイリスで言えば、メルビン師範のもとでいっしょに修行を始めた頃ぐらいだ。ミティで言えば、奴隷商会に何度か通って顔を合わせていた頃ぐらいだな」


 俺はそう言う。

数値で言えば、20台である。

ただ、数値を挙げると話がさすがに機械的になりすぎる気がする。

数値レベルで忠義度を測れることは、とりあえず秘密にしておこう。


 俺はヒナと初対面だ。

初対面にも関わらず、なかなか忠義度が高い。

ハーピィの一件がプラスに働いているのだろう。


 あとは、俺が貴族になったことも要因の1つか。

いわゆる後光効果というやつだ。

社会的ステータスが高いと、人間性なども優れているように錯覚する。

錯覚じゃなくて本当に優れていると思われるように、精進しないとな。


「そ、そうですか。なら問題なさそうですね」

「まあ、少なくとも軽い気持ちで裏切ったりはしないだろうね。サボりぐらいはあるかもしれないけど」


 ニムとモニカがそう言う。

忠義度20台は、そこそこ仲のいい友人ぐらいの数値だと思われる。

ちょうどモニカが言っているぐらいの感覚だろう。


 雇用関係の滑り出し時の数値としては、十分だ。

もう少し低くてもだいじょうぶなくらいである。



●●●



「さて……。次の人はだれだ?」


 俺はそう問う。


「お、応募者番号18番のトリスタさんですね。残念ながら、戦闘能力は皆無に近かったですが」

「でも、筆記テストは応募者の中でトップだよ。第45問までは満点。第46問以降も、結構いい線いってた。ボクよりも学力は高いね」


 ニムとアイリスがそう言う。


 トリスタは、農村部出身の少年だ。

先ほどのヒナとともに、この登用試験に臨んでいる。


 筆記テストでは、早めに解答を終えてグースカ寝ていた。

なかなかの度胸を持つ。


 模擬試合では、幼い女の子のロロに力負けしていた。

ロロは幼い割には強かったが、もちろん本来であれば年上の男に勝てるほどではない。

トリスタの戦闘能力の貧弱さは疑う余地がないと言っていいだろう。


 コンコンコン。

ドアがノックされた。


「どうぞ」

「失礼します……。北東の村からやって来た、トリスタです」


 俺の返事を受けて、トリスタが部屋に入ってくる。

覇気がない。

元気なヒナとは対照的だ。

これはこれで、いいコンビだったりするのだろうか。


 彼がイスに座り、面接が始まる。


「……の、……が……」

「……なるほど。では……」


 自己紹介から始まり、いろいろと話し込んでいく。


「今回の登用試験を受けた理由を教えてもらえるかな?」

「ええと。率直に言えばお金です。僕は本を読むのが趣味で、本を買うためのお金欲しさに応募しました」


 アイリスの問いに、トリスタがそう答える。


「(うーん……。お金かー。素直なのはいいけど、それってもっといい条件のところが見つかれば辞めそうってことでもあるよね……)」


 アイリスが小声でそう言って、微妙な顔をする。

だがーー。


「本か。俺も昔はよく読んだものだ。その知識を活かして、筆記テストは抜群の成績だったようだしな。採用だ!」

「え、ええと。ありがとうございます?」


 トリスタがそう言って頭を下げる。

突然の採用宣言に、戸惑っているようだ。

トリスタとの面接はそのまま終了となり、彼は退出した。


「タカシ? またなの?」

「ああ。彼の忠義度もなかなか悪くなかった。筆記テスト1位の知力は捨てがたい。採用でいいだろう」


 アイリスの問いに、俺はそう答える。


「ふふん。それはそうでしょうけど。これなら正直、タカシ1人での面接でもよかったんじゃないかしら?」

「そうだねー。タカシの力は、相当便利だね」


 ユナとモニカがそう言う。


「いや……。俺の力は信用できるとは思うが、確実とは限らない。それに、今後配下となる者との顔合わせを事前に済ませていると考えれば、これも悪くはないだろう」

「そ、そうですね。どんどん進めていきましょう」


 これで2人の面接が終わったことになる。


 10代後半の少女ヒナ。

筆記テストは好成績だったが、カンニング込みでの点数なので、実質的な知力は普通ぐらいだろう。

戦闘能力は、ミティ相手に少し善戦した。

そこそこだ。

彼女の特徴は、明朗快活な性格と、”天眼”というめずらしい技だ。


 10代中盤の少年トリスタ。

筆記テストは応募者トップ。

抜群の知力を誇る。

反面、戦闘能力は皆無に近い。

文官や管理人としての活躍に期待しよう。


 2人ともなかなか優秀な人材だ。

そして、これから面接を行っていく人たちにも、まだまだ優秀な者がいるかもしれない。


 双剣使いのキリヤに、兎獣人のヴィルナ。

孤児院から来た幼い女の子のロロ。

その他、紳士風の男やチンピラ風の男なども悪くはなさそうだった。

期待したいところである。

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