314話 模擬試合 応募者同士の戦い

 登用試験の続きだ。

まずは筆記テストが終わった。

アイリス、ユナ、モニカたちにより、採点が進められることになっている。


 一方で、これから行われようとしているのは模擬試合だ。

模擬試合の試験官は、ミティとニムだ。


 応募者同士で近そうな力量の者同士を戦わせて、力量の把握をする。

特に有望そうな者とは、ミティやニムが直接戦う可能性もある。

ちなみに武器は、殺傷能力の低い木刀や緩衝材付きのハンマーなどを用意している。


 さっそく模擬試合が始まっている。

兎獣人ヴィルナと、20代の男性応募者が戦っている。


「はああ……! 閃光連突!」

「くっ! ぐああっ!」


 ヴィルナは細剣風の木刀を使っている。

細剣は、別名レイピアとも言う。

兎獣人としての脚力を活かして相手を惑わしつつ、的確な攻撃を加えている。


 ヴィルナについての手元の資料を確認する。

普段は冒険者として活動しているそうだ。

ランクはD。

一定の実力はありそうだ。


 そのままヴィルナが押し切り、この試合は彼女の勝利となった。



●●●



 また次の試合。

チンピラ風の男と、キリヤが対峙している。


 チンピラ風の男は素手で戦う格闘家。

最初の説明のときに、俺に対して質問を投げかけていた男だ。


 対するキリヤは、双剣使い。

短めの木刀を両手に構えている。


「ふっ。来な。軽くもんでやるよ」

「ガキがスカしやがって! ボコボコにしてやるぜ!」


 チンピラ風の男が、キリヤに迫る。

悪くはない動きである。


 男がキリヤに攻撃を仕掛ける。

キリヤがそれを軽く回避する。


「ふっ。動きにムダが多いぜ」

「うるせえ! ちょこまかと避けやがって!」


 男の怒涛の攻撃に対して、キリヤは涼しい顔で対応していく。

なかなか洗練された動きだ。


「ちっ。こうなりゃ奥の手だ! はああ……!」


 男が拳と腕に闘気を集中させる。


「ぬううぅ! ふんっ!」


 男が地面に拳を叩き込む。

地面が砕け、大小の石が宙を舞う。


「くらえぃ! 破岩弾ん!!」


 男がそう言って、宙に浮いた石をパンチで弾き飛ばしていく。


 どこかで見たような技だ。

確か、メルビン杯でアイリスと戦ったババンが使っていた技だな。

アイリスは、聖闘気”流水の型”で受け流していた。


 このキリヤはどのように対処するのだろうか。

俺はじっと様子を見る。


「ふっ。スキだらけだぜ」


 キリヤは、岩の破片をくぐり抜けるかのようにしておっさんに接近する。

なかなかの見切りと移動速度だ。


 そのまま、木刀の双剣で男を斬りつける。


「ぐっ!」


 男はダメージを負い、膝をついた。

勝負ありだ。



●●●



 また次の試合。


 ヒナと紳士風の男が対峙している。

2人とも素手で戦う格闘家のようだ。


 紳士風の男が先に動いた。


「はっはあ! お嬢さん。この私のスピードに付いてこれるかな!?」


 紳士風の男が足に闘気を集中させ、高速で駆け回る。


 なかなかのスピードだ。

さすがにアイリスやモニカに比べると劣るだろうが、一般的には十分に速い。

これに対応できる人は、それほど多くはないだろう。


「…………天眼!」


 ヒナが目を見開く。


「はっはあ! 何か変わりましたかな? 残念ですが、これにて終幕です。アデュー」


 男が高速移動をしつつ、ヒナに背後から攻撃を加える。

これは決まったか。

背後からの攻撃には、簡単には対応できない。


 だがーー。


「見えてますよ。……そこ!」


 ヒナが男に正確な反撃を繰り出す。

まるで背中にも目が付いているかのような反応だ。

ヒナの掌底が、男にヒットした。


「がはっ!」


 移動に闘気を割いていた分、男の防御力は落ちていたようだ。

ヒナの一撃を受けて、彼はダウンした。

勝負ありだ。



●●●



 また次の試合。


 トリスタとロロが対峙している。

両者素手で戦うようだ。


 トリスタは、筆記テストで全問解答していた男である。

早めに解答を終えて、グースカ寝るというなかなかの度胸を持つ。


 筆記テストは、現在アイリスたちにより採点中だ。

彼が本当に賢いのかどうかは、もうすぐでわかる。


 もし本当に賢くて、さらに戦闘能力にも秀でていたりしたら、この上なく貴重な人材となるだろう。

彼の試合は注視したいところだ。


 とは言っても、彼の対戦相手はいかにも弱そうな幼い女の子だ。

年齢は6歳。


 彼女の名前はロロという。

孤児院からの応募者だ。

心情的には彼女を応援したいが、露骨な贔屓をするわけにもいかない。


 トリスタとロロの戦いでは、当たり前のようにトリスタが勝ってしまうだろう。

これでは、彼の正確な戦闘能力が把握できない。

ミティやニムとの事前の打ち合わせでは、できるだけ近そうな力量同士の者を戦わせることにしていたのにな。


「はあ……。やれやれ。僕は運動は苦手なんだけどな……。お手柔らかに頼むよ。お嬢ちゃん」

「…………(こく)」


 トリスタの言葉を受けて、幼い女の子が無言でうなずく。

トリスタは運動が苦手なのか。

それを見切って、ミティやニムは彼の対戦相手をこの幼い女の子にしたわけだ。


 しかし、いくら運動が苦手とはいえ、さすがにトリスタが負けることはないだろう。

と思ったが。


「うっ。ち、力が強いね、君」

「…………(どや)」


 組み合った状態から、トリスタが押されている。

幼い女の子の力が見かけ以上に強いのか、トリスタが想定以上に弱いのか。


「トリスターー! 男でしょ! 踏ん張りなさい!」


 少し離れたところから観戦していたヒナがそう声援を送る。

やはり、トリスタとヒナは同じ農村出身の知り合い同士だったか。


「そ、そんなこと言われても……。うわあっ!」


 ヒナの応援もむなしく、トリスタは幼い女の子に投げ飛ばされてしまった。

トリスタが尻もちをつく。

勝負ありだ。


「…………(ぶい)」


 対戦相手の幼い女の子が、無言で勝利のVサインをつくる。

無表情だが、心なしかうれしそうに見える。


 しかし、トリスタは情けないな。

チートなしの俺でも、さすがにあの女の子に負けたりはしないと思うが……。

彼女は、見かけ以上に力が強かったりするのだろうか。


 まあ、トリスタの戦闘能力が皆無でも大きな問題はない。

筆記テストや面接の結果次第では登用もまだ十分にあり得る。

天は二物を与えずとも言うし、トリスタの戦闘能力については見なかったことにしよう。


 他の模擬試合もどんどん消化されている。

戦闘能力において特に有望そうなのは、ヴィルナ、キリヤ、ヒナあたりか。

キリヤと戦ったチンピラ風の男や、ヒナと戦った紳士風の男も悪くない。

ロロは……、相手のトリスタが弱すぎただけだと思う。


 そんな感じで、応募者同士の模擬試合は全て終了した。


 ここからは、ミティとニムの出番だ。

有望そうな応募者と彼女たちの1対1で戦ってもらう。


 ミティやニムに勝てる者がいれば、非常に有望だ。

また、勝てはしなくとも、善戦できればそれで十分である。

楽しみに見守ることにしよう。

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