313話 筆記テスト 後編

 人材登用テストが始まった。

今は筆記テストを行っているところだ。


 各問題の答えを脳内でおさらいしておこう。


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第1問

この街の名前は【ラーグの街】である。○か×か。

当然○だ。

この街の東にはゾルフ砦、南には巨大な山脈、西には西の森やブギー盗掘団の元アジトがある。

北には北の草原があり、そこの道を進めば王都やウェンティア王国へ至る。

王国へ続く道だ。


第2問

この街の東には【ウェンティア王国】がある。○か×か。

×だ。

ウェンティア王国があるのは、この街から北北西方向である。


第3問

冒険者ランクは、【S、A、B、C、D、E】の6段階となっている。○か×か。

○だ。

SSSランクやFランクはない。


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第14問

この国の名前を○で囲みなさい。

・ミナミ共和国

・ナンヤネン帝国

・サザリアナ王国

サザリアナ王国が正解だ。

他の選択肢にある国名は、適当に考えた架空のものである。


第15問

1年ほど前にこの国と新たに友好条約を結んだ種族の名前を全て選び、○で囲みなさい。

・オーガ

・竜人

・ハーピィ

・ドワーフ

・エルフ

オーガとハーピィが正解だ。

俺やアドルフの兄貴の活躍により、停戦に成功したのである。

ちなみに、竜人、ドワーフ、エルフとは、数年以上前に友好条約が結ばれているそうだ。


第16問

リトルベアという魔物は、突然変異で大きな個体に成長することがある。その正しい名前を○で囲みなさい。

・ミディアムベア

・ミドルベア

・テディベア

ミドルベアが正解だ。

ミティの故郷ガロル村にて、俺たちミリオンズで討伐したことがある。


第17問

聖ミリアリア統一教会の聖歌の1つ”2人いっしょにどこまでも”の作詞者は、メリダル=ローズである。

では、作曲者はだれか。

その正しい名前を○で囲みなさい。

・ウイリー=ガロン

・オルフ=ルシェド

・メイビス=シルヴェスタ

オルフ=ルシェドが正解だ。

ちなみに、メイビス=シルヴェスタはアイリスの姉である。

聖ミリアリア統一教会の中でも、結構なお偉いさんらしい。


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第28問

この街で営業を許されている奴隷商会は1つだけである。その名称を答えよ。

ラーグ奴隷商会が正解だ。

俺がミティを購入したのは、この商会である。

この登用試験が終われば、この商会から有望そうな奴隷を購入することもあるかもしれない。


第29問

ゾルフ砦にて4年に1度開かれる大規模な武闘大会の名称を答えよ。

ゾルフ杯が正解だ。

前回の優勝者はアドルフの兄貴で、準優勝者はマクセルである。

ちなみに、ゾルフ杯の次に大規模な武闘大会はガルハード杯だ。

ガルハード杯には、俺、ミティ、アイリスが出場したことがある。


第30問

初級の火魔法は、火の玉を飛ばす魔法である。その魔法の名称を答えよ。

もちろん、ファイアーボールが正解だ。

ファイヤーボールでも、まあ正解としていいだろう。

その次の初級魔法は、火の矢を飛ばすファイアーアローである。

ユナの得意魔法だ。


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 さて。

各問題の答えのおさらいはこんなところでいいだろう。


 80分の制限時間のうち、半分以上が経過している。

残りの制限時間は30分ほどだ。

俺は筆記テストに臨んでいる応募者たちを見回してみる。


 ……ふむ。

解くスピードには、少しバラツキがあるようだな。

 

 遅い人は、序盤の○×問題や選択問題をまだ必死に解いている。

速い人は、もう第45問目あたりに差し掛かっている。


 ……ん?

何やら目を閉じている人がいる。

答案用紙を見た感じ、まだ解き終わってはいないようだが。


 兎獣人の少女だ。

ええと。

名前はヴィルナか。

この街のやや貧しい者が暮らしている区画の者だ。


 目を閉じたまま、兎耳がピクピクと動いている。

これは……?


「(この字のリズム、書き順、字画数からして…。………なるほどね……)」


 ヴィルナが小声でそうつぶやきつつ、答案用紙を埋めていく。


 そ、そんな技術があったとは。

他の応募者が解答を書き込むときの音を聞き取って、何を書いているか推測しているのか。

並外れた聴覚の為せる技だ。


 聴覚強化レベル1を取得している俺でも、同じ芸当はできそうにない。

兎獣人としての生来の能力があってこそだろう。

同じく兎獣人で、かつ聴覚強化をレベル2にまで伸ばしているモニカであれば、同じようなことができるのかもしれないが。


 ちなみに、これは日本の中学生や高校生のテストにも多少の応用ができるだろう。

もっとも活用しやすいのは、英語のリスニングの選択問題かな。

まあ、詳細は語るまい。


 この技術はカンニングのようなものだ。

しかし、他人の答案を直接覗いたわけではない。

ヴィルナを注意すべきか、少し悩むところだ。


 それに、これほどの聴覚は兎獣人の中でも優れているほうだろう。

即失格というのももったいない。

とりあえず見なかったことにしておこう。


 そんなことを考えつつ、他の人の様子を見回る。


 ヴィルナの近くでは、人族の男が涼しい顔をして問題を解いている。

ええと。

名前はキリヤか。

この街のやや貧しい者が暮らしている区画の者だ。


 応募者番号がヴィルナと連番だ。

もしかすると知り合い同士なのかもな。


 涼しい顔をしているということは、難問もあるこのテストを解ききったということか。

なかなかやりおる。

見たところ体も鍛えられているし、これは期待できそうだ。


「(ふっ。序盤は問題ない。中盤も何とかそれっぽい解答で埋めた。しかし、後半は難しすぎる……。特に第46問以降だ。こんなの…一問たりともわかんねぇ………)」


 キリヤが小声でそうつぶやき、涼しい顔のまま諦めたような顔をする。


 いや、わからんのかい。

まあ俺もわからんけど。


 キリヤの知力は人並みのようだ。

模擬試合に期待しよう。


 気を取り直して、他の人の様子を見回る。


「(ぐー、ぐー)」


 グースカ眠っている者がいた。

やる気ねえな、おい。


 ええと。

名前はトリスタか。

近くの農村の出身者だ。


 農村生まれには、正直ペーパーテストは厳しかったかもしれない。

序盤の○×ぐらいはできているだろうか。

俺は彼の答案を覗き込む。


 ……ん?

全問回答済みだ。

第46問から第50問の超難問も含め、全て解答が記入されている。

まあ、合っているかどうかは俺にはわからないが。

もし正答しているなら、相当な知力だ。


 これは期待しておこう。

自分の回答が終わったからと言って寝るのは正直どうかと思わないこともないが。

まあ、本当に優秀ならそのようなことはささいなことだ。


 俺はトリスタから視線を外す。

ふと、トリスタの後ろでテストを受けている少女が目に入った。


 ええと。

名前はヒナか。

近くの農村の出身者だ。


 応募者番号がトリスタと連番だ。

もしかすると知り合い同士なのかもしれない。


 ヒナはひと通りの解答の記入を終えているようだ。

しかし、第46問から第50問の他、ところどころ空白の解答欄がある。

まあ、これだけ埋めていれば悪くはないだろう。

模擬試合や面接の結果次第では、合格も十分にあり得る。


「(…………天眼!)」


 ヒナが何やらつぶやいたかと思うと、空欄をどんどん埋め始めた。

何かしているのか?

目に何やら力を入れている様子ではあるが……。


 よくわからんな。

ヴィルナのように、何らかの技術によるカンニングでもしているのかもしれない。

しかし明確な証拠はない。

とりあえずそのままにしておこう。


 気を取り直して、他の人の様子を見回る。

残り時間は10分ほど。

ほとんどの人は、既に解けるところは解き終わっている感じだな。

制限時間の設定は適切だったようだ。


「…………(じっ)」


 幼い女の子が、自分の答案用紙を静かに見つめている。

ええと。

名前はロロか。


 この街の孤児院からの応募だ。

年齢は6歳。

今回の応募者の中でぶっちぎりの最年少である。

そういえば、年齢制限を設けることを忘れていたな。


「…………(むぅ)」


 無表情ながらも、真剣な表情で自分の答案用紙を見つめている。

わからない問題を最後まで考えたり、解き終わった問題の見直しをしているのだろう。


 俺が彼女の答案用紙をぱっと見た感じ、序盤あたりの正答率はそこそこある。

6歳でこれなら悪くない。


 それにしても、なかなか鬼気迫る雰囲気だ。

孤児院の者だし、お金に困っていたりするのだろうか?


 心情的には優先的に雇ってあげたいところだが……。

あまり贔屓すると、他の応募者から不満が出るかもしれないしな。

公正に評価した上で、彼女が採用基準に達していることを祈ろう。


 まあ今回の登用試験とは別に、孤児院には援助を行うのもありだ。

登用試験などが落ち着いたら、様子を見に行くことにしようかな。


 その後も、見回りを続ける。

俺が興味を持ったのは、ヴィルナ、キリヤ、トリスタ、ヒナ、ロロの5人だ。

模擬試合や面接が楽しみなところである。


 そんなことを考えているうちに、残り時間が少なくなってきた。


「皆の者。あと3分で筆記テストは終わりだ」


 俺はそう告げる。

そして、3分待つ。


「…………時間だ。そこまで!」


 応募者たちが筆記用具を置く。

アイリス、モニカ、ユナたちが答案用紙を回収していく。


 応募者たちは、ほっとひと息ついている。


「今からしばらく休憩とする。20分後に、またここに集まってくれ。次は模擬試合を行う」


 模擬試合の試験官は、ミティとニムだ。

近そうな力量の応募者同士を戦わせて、力量の把握をする。

特に有望そうな者とは、ミティやニムが直接戦う可能性もある。


 はたして、彼女たちの眼鏡にかなうものはいるだろうか。

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