312話 筆記テスト 前編

 人材登用に向けた打ち合わせをしてから、2週間ほどが経過した。

俺たちハイブリッジ家はそれぞれ、筆記テスト、模擬試合、面接などに向けた準備をしてきた。

また、町民へ人材募集の周知もしておいた。


 今日は、その人材登用のテストを行う日である。

場所は街の中央広場。


 ざっと見た感じで、応募者は30人以上集まっているようだ。

そして、野次馬もそこそこいる。


 俺は台の上に登る。

何人かが俺に気づき、注目する。

まだ気づいていない者もいるので、少し待つ。


 しばらくして、場は静かになった。

みんなが俺に注目している。


 はい、皆さんが静かになるまで5分かかりましたー。

……と言いたいところだが、このネタは通じない気がするので飲み込んでおく。


「皆の者。よく集まってくれた。俺がこの度この街を治めることになった、タカシ=ハイブリッジだ。国王陛下から騎士爵を授かることになっている」


 応募者たちが俺の言葉を真剣に聞いている。


「ここの町長は、現任の者に引き続き任せる予定だ。しかし、せっかくなので見込みのある者が在野に埋もれていないか、この目で確かめさせてもらう。筆記テスト、模擬試合、面接の3つで評価することになる」


 俺はそう言う。

ひと呼吸置いて、言葉を続ける。


「知力に優れている者は現町長の下で経験を積んでもらう。戦闘能力に優れている者は、我が領主館の警護や、希望があれば俺たちの冒険者パーティ”ミリオンズ”への加入も検討しよう。もちろん、知力や戦闘能力に加えて、人柄も確認させてもらう。……ここまでで質問のある者は?」


 俺はそう言って、あたりを見回す。

1人の男が、手を挙げている。

少しガラの悪い、チンピラ風の男だ。


 俺はその男を指し、発言を促す。


「俺……いや私は、戦闘には自信がありやすが、知力や礼儀はからっきしでさあ。模擬試合だけの参加でもよろしいでやすか?」


 男がそう言う。

なかなか鍛えられた体をしているし、戦闘に自信があるというのは本当だろう。

一方で、言葉遣いは少し適当だ。

知力や礼儀がイマイチという自己評価もあながち間違いではなさそうか。


「申し訳ないが、一応全ての試験を受けてもらうことになる。だが安心してくれ。模擬試合での評価が上々であれば、筆記テストや面接での多少のマイナス評価には目をつぶろう。その逆も同様だ。……他に質問のある者は?」


 俺はあたりを見回す。

どうやら、特に質問はないようだ。


 まずはさっそく、筆記テストを始めよう。



●●●



 広場にて各自少し距離をあけて座ってもらう。

机やイスはないので、地面にだ。


 そして、アイリス、モニカ、ユナたちがテスト用紙を配っていく。

アイリスがメインとなりつつ、モニカやユナの監修のもと仕上げたテストだ。

俺やセバスも、事前に目を通している。


「時間は80分だ。……はじめ!」


 俺の合図を皮切りに、応募者たちがテストに取り掛かり始めた。


 今からの80分は、俺は特にやることがない。

まあ、カンニングなどがないかは見ておかないといけないが。


 俺以外にも、ミリオンズのみんなや、セバス、レイン、クルミナも目を光らせている。

そして、少し離れたところには野次馬もいる。

あまり変なことはできないだろう。


 俺の手元には、余ったテスト用紙がある。

事前に目を通していたものであるが、改めて見てみよう。

問題は全部で50問。


 最初の第1問から第10問は、かなり簡単だ。

字が書けない応募者も一定数いるであろうことを考慮し、○×形式の問題を並べてある。

内容も初歩的だ。

多少戦闘能力に長けていても、このあたりの問題をたくさん落とすようでは登用は厳しい。


 第11問から第20問は、少しだけ難易度が上がる。

とはいえ、一般的にはまだまだ簡単だ。

選択肢から正答を選ぶ問題を並べてある。

ここまでは、字が書けなくても回答できる。


 第21問から第30問は、ごく一般的な難易度の問題を並べてある。

○×や選択型ではなく、語句を記述する問題ばかりである。

字が書けなければ、このあたりの問題はそもそも回答できない。

字が書けても、正答率7割超えはあまりいなさそうな難易度となっている。


 第31問から第40問は、計算問題だ。

足し算、引き算、割り算、掛け算など。


 第41問から第50問は、やや難易度の高い問題を並べてある。

ぶっちゃけ、俺やアイリスでも解くのは難しい問題がある。

アイリスは、教本などを片手に問題を作成していた。


 そんなことを考えつつ、俺はぼんやりと待ち続ける。

制限時間の80分まで、まだまだある。

個別の問題に改めて目を通して、ひまをつぶすか。


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第1問

この街の名前は【ラーグの街】である。○か×か。


第2問

この街の東には【ウェンティア王国】がある。○か×か。


第3問

冒険者ランクは、【S、A、B、C、D、E】の6段階となっている。○か×か。


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第14問

この国の名前を○で囲みなさい。

・ミナミ共和国

・ナンヤネン帝国

・サザリアナ王国


第15問

1年ほど前にこの国と新たに友好条約を結んだ種族の名前を全て選び、○で囲みなさい。

・オーガ

・竜人

・ハーピィ

・ドワーフ

・エルフ


第16問

リトルベアという魔物は、突然変異で大きな個体に成長することがある。その正しい名前を○で囲みなさい。

・ミディアムベア

・ミドルベア

・テディベア


第17問

聖ミリアリア統一教会の聖歌の1つ”2人いっしょにどこまでも”の作詞者は、メリダル=ローズである。

では、作曲者はだれか。

その正しい名前を○で囲みなさい。

・ウイリー=ガロン

・オルフ=ルシェド

・メイビス=シルヴェスタ


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第28問

この街で営業を許されている奴隷商会は1つだけである。その名称を答えよ。


第29問

ゾルフ砦にて4年に1度開催される大規模な武闘大会の名称を答えよ。


第30問

初級の火魔法は、火の玉を飛ばす魔法である。その魔法の名称を答えよ。


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第41問

ラスターレイン伯爵領の領海にある孤島には、何が眠ると言われているか。その名称を答えよ。


第42問

東方の島国”ヤマト連邦”の国家元首の名前を答えよ。


第43問

聖ミリアリア統一教において、聖ミリア様は愛と勇気を司ると信じられている。

では、聖アリア様は何を司ると信じられているか。

2つ答えよ。


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第47問

次の「」内に当てはまる語句をそれぞれ答えよ。

”(前略)……魔素における意味のある術式を持たない「」は魔力をぶつけた「」式においての「」の変化を……(後略)”


第48問

”デボルニクスの最終定理”より出題。

魔術によって人間の魂が作り出せないことを下記に証明せよ。


第49問

”聖ミリアリア統一教会の教え”より出題。

力はあるが勇者の適正に乏しい娘と、力はないが勇者の適正に長けた息子がいたとする。

あるとき2人は邪悪な呪いを受け死にかける。

呪いを解くための聖杯は1つ。

どちらを救うべきかを答え、その根拠を示しなさい。


第50問

図の放物線Bは、高さ7メートルの木の上にいるスメリーモンキーの糞の投擲における最大射程距離を描いている。

……(中略)……。

この糞の描く楕円に現れるスメリーモンキーの特徴、及び平面戦闘時における最大射程距離を想定し答え、その根拠を示しなさい。


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 ふーむ。

第1問から第30問は、俺にとっては簡単な問題ばかりだ。

しかし、一般人がどの程度これらの問題を解けるかどうか。


 第31問から第40問の計算問題も、なかなか厄介だろう。

日本で言えば小学生から中学生レベルの計算問題だ。

この国の教育水準は、それほど低くはない。

とはいえ、現代日本と比べるとさすがにな。


 第41問から第50問は、難しい問題ばかりが並んでいる。

特に第46問以降は超難易度だ。

というか、俺にもわからん。


 これらの問題を、はたして応募者たちは解けているのかな?

今はテスト開始から40分ほどが経過している。

残り時間は、ちょうど半分くらいだ。


 俺は筆記テストに臨んでいる応募者たちの様子をうかがう。





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第1問~第3問

第14問~第17問

第28問~第30問

については、これまでの話で出てきたところです。


よければ解答してみてください!

次話で答え合わせがあります!


(第41問~第43問の答えは今後の物語内にて明かされます。第47問以降の答え合わせはありません)

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