315話 模擬試合 ヒナvsミティ

 登用試験の模擬試合の続きだ。

応募者同士で、近そうな力量の者同士に戦ってもらったところだ。


 ここからは、ミティとニムの出番だ。

彼女たちと直接戦ってもらい、より正確な戦闘能力を把握させてもらうことになる。

”百人力”のミティと、”鉄心”ニム。

はたして、彼女たちといい勝負ができる者はいるだろうか。


「次は、私と戦ってもらいます。……応募者番号17番のヒナさん。前に出てきてください」


 ミティがそう言う。

ヒナは10代後半の女性。

ラーグの街近郊の農村出身者だ。

トリスタと同郷である。


「はいっ!」


 ヒナが元気よく返事をして、前に出る。

ヒナとミティが対峙する。


 ヒナは素手で戦う武闘家だ。

対するミティの本来の武器は、ハンマーである。

しかしここは、相手に合わせて素手で戦うようだ。


「手加減は無用です。全力で来てください」

「わかりました! じゃあ、さっそく!」


 ヒナがミティに接近する。

なかなかの身のこなしだ。

先ほどは、紳士風の男に勝っていたしな。


「はあっ! せいっ!」

「……むむ。なかなかやるようですね」


 ヒナの連撃を受けて、ミティがそう言う。

確かに、なかなかの身のこなしだ。


 しかし、ミティによって受け流されている。

本来のミティは攻撃に特化した戦闘スタイルだ。

防御はさほど得意ではない。


 そんなミティに受け流されているようでは、ヒナの戦闘能力はほどほどという評価に留まってしまう。

何か奥の手はないのか?


「今度はこちらからいきますよ! はああ……! 砲撃連拳!」


 ミティがパンチの連撃を繰り出す。

彼女の本来の得意技は、もちろん大きな一発だ。

強力なパンチを繰り出す”ビッグバン”、全力でハンマーを振り下ろす”ビッグボンバー”、巨石を投擲する”ビッグメテオ”などである。


 とはいえ、もちろんそういった大技ばかりではない。

連撃や搦め手なども、一定程度は習得しているのである。


「うう……。一撃一撃がとんでもなく重い。このままじゃマズいわね……」


 ヒナが劣勢に立たされる。

連撃とは言っても、ミティの豪腕から繰り出されるそれは下位の武闘家の大技に匹敵する威力を持つ。

ただ受けるだけでは、どんどんダメージが蓄積されていってしまうことだろう。


「こうなれば奥の手! ……はああ!」


 ヒナがミティから少し距離を取る。

ミティがすかさず追撃のために距離を詰めようとするが、途中で取りやめた。


 ヒナが何やら大技を発動する素振りを見せているからだろう。

警戒しているのもあるだろうし、せっかくだから応募者の奥の手をきちんと見定めたいという思いもあるかもしれない。


「…………天眼!」


 ヒナが目を力強く見開く。

ああ、これがあったか。

筆記テストや、先ほどの模擬試合でも使っていたな。

具体的な効果はよく知らないが。


「用意はいいですか? 実力を見極めてあげましょう。はああ……」


 ミティが腕に闘気を集中させる。

彼女が拳を振りかぶる。


「ぬうん!」


 ミティが強烈なパンチを地面に叩きつける。


 ドゴーン!

あたりに砂ぼこりが舞い上がる。

これでは、正確な相手の位置を把握できない。


 そんな中、ミティがヒナに向けて接近していく。

この砂ぼこりはミティが発生させたものだ。

最初から予定に組み込んでいた分、ヒナよりも早く対処できているというわけだ。


「これで終わりです。ビッグ……」


 ミティが拳を振りかぶる。


「バン!」


 強烈なパンチがヒナを襲う。

砂ぼこりで翻弄されているところへの一撃。

これをまともに受けては、ひとたまりもないだろう。


「見えてますよ! ……そこ!」

「うっ!」


 ヒナは冷静にミティの攻撃を回避する。

そして、そのスキを突いてミティに反撃のパンチを入れた。


 ミティに一撃を入れるとは。

ヒナもなかなかやるな。


 あの天眼という技は、相手の攻撃を見切る効力があるようだ。

筆記テスト中にも使っていたことや、天眼という技名などから総合的に考えると、視界を俯瞰するような技なのかもしれない。

いわゆる、ホークアイというやつだ。


 ミティに一撃を入れたヒナは、満足気な表情をしている。

だが……。


「ふふふ。捕まえましたよ」


 ミティがヒナの腕を掴み、そう言う。


 ヒナは、攻撃を入れたことに安心して少し油断していたようだな。

本来であれば、すぐに離脱するべきだった。


「なっ! ううっ! なんて力……!」


 ヒナは必死に振りほどこうとするが、ムダだ。

もう遅い。

ミティの超パワーからは逃れられない。


「せえぃっ!」


 ミティがヒナを思い切り投げ飛ばす。


「きゃあああっ!」


 ヒナは為す術もなく、飛んでいった。

ちょうどトリスタがいる方向だ。


「ちょっ。ヒナ!?」

「トリスタ!? どいてどいてーー!」


 トリスタがあわあわしながら、受け止めるか避けるか迷っている。

そうこうしているうちに、ヒナがどんどん迫ってきている。


 ドーン!

ヒナがトリスタに直撃した。


「うっ。あたた……」

「いてて。うーん……」


 ヒナとトリスタが絡み合って倒れ込んでいる。


「……ん? なんだい? この柔らかい感触は?」


 トリスタの手が、ヒナの胸や尻をわしづかみしている。

どうしてそうなった?


「なっ!? どこ触って……!? 早く離れなさいよ!」

「ヒナの服が絡まって、離れられないよ。それに、前もよく見えない」

「ちょっ、ちょっとそこは……。あんっ!」


 ヒナの服の中にトリスタの顔が入り込んでいる。

トリスタがもぞもぞと動こうとするが、彼の上にヒナが乗っているような状況なので、うまく離れることができていない。


「うーん。まずは、上に乗っているヒナがどいてくれないとムリみたいだね。それにしても、また太ったかい? 少し重いよ」

「なっ。ななな……。バ、バカーー!」

「ごふっ!」


 ヒナがトリスタに一撃を入れて、離れる。

何をラブコメみたいなことをしているんだ。

うらやまけしからん。

俺も混ぜろ。


「……ゴホン! 静かに! ヒナさんの実力はわかりました。次に進みます」


 ミティがそう言って、仕切り直す。


「つ、次はわたしと戦ってもらいます。応募者番号8番のキリヤさん。前に出てきてください」


 ニムがそう言う。

キリヤは、この街のやや貧しい者が暮らしている区画の者だ。


「ふっ。試験官様が直接お相手してくださるってか。なかなか見る目があるじゃねえか」


 キリヤが不遜な態度でそう言う。

応募してきている側の立場で、この態度か。

大物なのかバカなのか。


 ニムと実際に戦ってもらえば、戦闘能力のほどがわかるだろう。

期待したいところだ。

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