310話 人材登用に向けて打ち合わせ
さらに数日が経過した。
そろそろ、人材登用の件についてみんなと打ち合わせしていかないとな。
今この場には、9人いる。
俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ。
そして執事のセバスに、メイドのレインとクルミナだ。
ハイブリッジ家が全員集合している。
「みんな。少し前に話した通り、俺は騎士爵を授かったんだ。権限も与えられている」
いずれは王都で正式な叙爵式が行われる。
しかし、それを待たずとも領主としてあれこれ指示を出す権限は与えられているのだ。
まあ、現町長の手腕も悪くなさそうだし、無闇にかき回すつもりはないが。
「すばらしいことです! タカシ様が貴族様になり、妻として誇らしいです」
「うん。ボクは地位自体に興味はないけど、地位があれば救える人も増えるだろうし。いいことだね」
俺の言葉を受けて、ミティとアイリスがそう言う。
「ああ。そこでだ。今後に向けて、有能そうな人材の目星をつけておきたいと思っている。街の行政機関に送り込んだり、俺たちの屋敷の管理や警備を任せたり、ミリオンズに同行してもらったり、有能な人材はいくらでもほしい」
「有能そうな人かー。ラビット亭の常連さんに、仕事熱心な人はいるけど。今の仕事を辞めてまで来てくれるかなあ」
「き、近所の畑を管理している人で優しいおじさんはいます。でも、書類仕事や戦闘は厳しいかもしれません」
モニカとニムがそう言う。
彼女たちは、このラーグの街で生まれ育った。
なにかツテはないかと期待したのだが、そうそう都合よくはいかないか。
「ふふん。もちろん、私にも当てはないわよ。……どうしてもって言うなら、何かテストをしてみたらいいんじゃないかしら? 模擬試合とか、筆記試験とか」
「ふむ……。それもありだな」
俺たちミリオンズのだれかが試験官として、模擬試合を行う。
俺たちに勝つことは難しいだろうが、いい線いけるのであれば戦闘能力としては及第点だ。
筆記試験を行えば、当然知識や知恵を評価できるだろう。
「あとは、人柄も見たいです」
「そうだね。優秀でも、自分の利益ばかり考えるような人は、ボクは嫌だな」
ミティとアイリスがそう言う。
確かに、それはそうだ。
極端に利己的な人は避けるべきだろう。
まあ、俺も基本的には自分のことを第一に考えているので、あまり偉そうには言えないが。
「なるほどな。では、面接も行うか」
日本での就職活動を思い出す。
グループ面接、個人面接、圧迫面接。
俺は嫌いだったが、今となってはなつかしい思い出だ。
自分が面接官になる日が来るとはな。
「そういえば、セバス。セバスには職を探している知り合いなどはいないか?」
「残念ながら、ちょうどよさそうなツテはありませんな。必要であれば、既に勤め先がある者の引き抜きを打診致しますが……」
「いや。そこまではいい」
有能な人材を引き抜くとなると、要らぬ軋轢を生む可能性がある。
今のところ、差し迫った仕事があるわけでもない。
今後に向けて、有能な人材を確保しておこうという程度のものだ。
そんな感じで、ハイブリッジ家の意見を固めていく。
とりあえず、町民から希望者を募ってみることにした。
後は、ラーグの街近郊の農村などにもお触れを出す。
実施項目は、筆記テスト、模擬試合、面接。
この3つだ。
「どの程度の希望者が集まるだろうか?」
少ないと、寂しい。
有能な人材を見つけられる可能性も低くなるだろう。
逆に多すぎると、選考が大変だ。
選考のための諸経費もバカにならなくなってくる。
「レイン、クルミナ。どう思う?」
俺はそう問う。
彼女たち2人は、俺たちの中で最も庶民感覚に近いだろう。
「ええと。正直、お給金次第かと思います!」
「そうですね~。あとは、仕事内容も大切だと思います~」
やはり金か。
そして、仕事内容も大切と。
稼ぎはよくとも、あまりにもキツすぎる仕事は敬遠されるだろう。
また、楽過ぎても”自身の成長に繋がらない”として敬遠されるかもしれない。
有能な人は上昇志向が強い人が多いだろうしな。
俺なら”楽してお金もらえてラッキー”と考えて居座るだろうが。
「お館様。1つ補足させていただきます」
「なんだ? セバス」
「お館様は冒険者から騎士爵を授かりました、非常に将来有望な新貴族です。今後のさらなる発展を期待している者も多いでしょう。現時点での待遇を多少控えめにされても、ある程度の応募者は集まるかと思われます」
なるほどな。
例えば、俺がさらなる功績をあげて騎士爵から男爵になるかもしれない。
功績云々は置いておくとしても、俺たちミリオンズの戦闘能力があれば、周囲の安全は格段に増す。
その安心感から、ラーグの街近郊のますますの発展にも期待できる。
現状での待遇がイマイチでも、今後に期待しての希望者は来るかもしれないな。
「ふむ。なるほどな。そのあたりも考慮して、適切な雇用条件を考えないとな」
「そうですね! あとは、筆記テスト、模擬試合、面接の具体的な内容も考えませんと……」
ミティがそう言う。
「特に厄介なのは、筆記試験じゃない?」
「そ、そうなりますね。模擬試合は強ければいいですし、面接は悪人でなければいいでしょうし……」
モニカとニムがそう言う。
「なら、ボクが考えてみるよ。これでも聖ミリアリア統一教会付属の学校に通っていたこともあるし、筆記テストの雰囲気はわかっているよ」
アイリスがそう言う。
このサザリアナ王国には、ある程度の教育体制が整っている。
日本で言えば小学校低学年ぐらいまでの基礎的な教育だ。
成人の識字率はおそらく7割を超えているだろう。
しかし、自ら字を書ける者となると、もう少し割合が下がる。
ミティも、カトレアの妨害による奴隷落ち云々の問題もあり、最近まで字が書けなかった。
今回の応募者の中にも、字が書けない者は一定数いるだろう。
俺以外のミリオンズのメンバーの中では、アイリスがもっとも学がある。
聖ミリアリア統一教会付属の学校で、しっかりとした教育を受けてきたそうだ。
また、座学だけではなくて、武闘や治療魔法も学校で習ったと言っていた。
「ふふん。アイリスがつくった筆記テストを、私が監修してあげるわ。問題に偏りがないようにね。聖ミリアリア統一教の教義とかは、この街で知っている人は少ないだろうし」
「そういうことなら、私も協力するよ」
ユナとモニカがそう言う。
アイリス、ユナ、モニカは、筆記試験の担当となりそうだ。
「では、私は模擬試合を担当します。むんっ!」
「わ、わたしもそうします」
ミティとニムは模擬試合担当に立候補した。
怪力のミティに少しでも抗えるような者がいれば、有望だろう。
また、ニムは見かけからは想像もできないほどの戦闘能力を誇る。
強力なのは土魔法だが、それを除いても優秀だ。
彼女は、身体能力強化系のスキルをたくさん習得しているからな。
見かけだけで彼女をなめるような者は、失格と言っていいだろう。
……いや、それは厳しすぎるか?
その基準だと、メルビン師範やジルガあたりも失格になってしまう。
まあ、合格基準はおいおい考えておこう。
「残った俺は、面接を担当しよう。1人だと大変だから……。セバス、協力してくれるか」
「承知しました。お手伝いさせていただきます。あとは、奥方様も可能であれば面接に同席されたほうがよろしいでしょう」
「ふむ。そのあたりは、今後の選考過程の忙しさなどを考慮しつつ判断しよう」
そんな感じで、今後の人材登用の方針は決まった。
筆記テスト、模擬試合、面接で評価することになる。
優秀な人材が見つかることに期待しよう。
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