第10章 騎士爵を授かる、人材登用、マリア、サリエ

309話 ラーグの街の自宅でのんびり これまでの活動の振り返り

 モニカとの結婚式やニムとの婚約のお披露目会などが無事に終了して1週間ほどが経過した。

俺たちミリオンズは軽めの狩りをこなしつつ、のんびりと過ごしている。


 今は、俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナの6人でリビングでくつろいでいるところだ。

そろそろ、今後の方針を話し合っておかないとな。


「ふう。いろいろあったが、みんな笑顔の結末になってよかったよ」


 俺はそうつぶやく。


「そうだね。お父さんたちも、今のところは仲良く暮らしているみたいだし」

「ひ、人手も増えましたし、ラビット亭は大繁盛しているそうです。よかったです」


 モニカとニムがそう言う。

彼女たちの両親は、諸事情により重婚というめずらしい形態で新たな家庭を築くことになった。

なかなか大変かもしれないが、幸せになってほしいところだ。


「元盗掘団の人たちも何とかなりそうだね。今後はこの街の所属になって、正式に採掘や遺跡の調査を行うそうだし」

「そうですね。私は彼らとの戦闘で少しやり過ぎた負い目がありますし、手伝えることがあれば手伝いたいところです」


 アイリスとミティがそう言う。

ブギー盗掘団の面々は、盗掘によって得た物品を国やラーグの街に捧げ、さらに採掘の技術などを提供することを条件に、罪が大幅に減じられた。

今後は、この街の所属になって正式に採掘や遺跡の調査を行うことになっている。


「ああ。困っていたら手伝う必要もあるかもしれないな」

「ふふん。まあ、最初は今まで通り好きにやってもらったらいいと思うわ」


 ユナがそう言う。

確かに、彼らはその道のプロだ。

素人である俺が口を出す必要性は低いだろう。

タイミングを見て、様子を伺いに行くぐらいがよさそうか。


 俺は冒険者としてBランクになった。

そして、騎士爵を授かる予定である。

順風満帆だ。

この街で末永く幸せに暮らしていこう。


 ……と言いたいところだが、実際にはそうするわけにはいかない。

30年後の世界滅亡の危機を回避しなければならないからだ。

いや、俺がこの世界に転移してきてから既に1年以上が経過しているので、正確に言えば29年後だ。


 世界滅亡の危機を回避するために、これまではミッションを参考に行動してきた。

この世界に転移した初日には、”魔物を1匹討伐しよう”や”街へ行こう”などのミッションに従った。


 その半月ほど後、他の冒険者と合同でホワイトタイガーを討伐した。

その際に、"ゾルフ砦の防衛に加勢しよう"などのミッションが追加された。

俺はそれに従い、ゾルフ砦を訪れることにした。


 ゾルフ砦に到着後、"ゾルフ砦のガルハード杯本戦に出場しよう"というミッションが追加された。

俺とミティは道場に入門し、武闘の訓練に励んだ。

その結果、無事にガルハード杯本戦に出場することができた。


 その後に防衛戦があった。

ゾルフ砦に、魔物の軍勢が押し寄せてきたのだ。

みんなで強力してファイティングドッグやゴブリン、それにジャイアントゴーレムなどを撃破した。


 防衛戦がひと段落したときに、"オーガ及びハーピィと和睦しよう"というミッションが追加された。

アドルフの兄貴たちとともに敵地に潜入し、なんやかんやあって無事に和睦することができた。

オーガ及びハーピィの国は、ハガ王国という名称に決まった。


 ハガ王国やゾルフ砦の面々に別れを告げ、ラーグの街に戻ってきた。

モニカやニムが困っていたのでいろいろと手伝った。

彼女たちが加護付与の条件を満たして冒険者としてデビューした。

俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

この5人でミリオンズとしてパーティ登録をした頃に、"ガロル村を訪れよう"というミッションが追加された。


 ガロル村というのはミティの故郷だった。

俺たちは5人でガロル村を訪れることにした。

ミドルベアや霧蛇竜ヘルザムとの戦闘もあったが、なんやかんやでみんな笑顔の結末となった。

俺とミティの結婚式という一大イベントもあった。


 ガロル村からラーグの街に戻り、のんびりと過ごした。

しばらくしてゾルフ砦を訪れることになった。

武闘の再鍛錬のためだ。


 メルビン道場にて1か月鍛錬し、メルビン杯にてそれぞれ優秀な成績を収めることができた。

特にアイリスは、優勝というすばらしい結果を残した。

大会中にアイリスから俺へのプロポーズがあり、大会後に俺とアイリスは結婚した。


 ゾルフ砦からラーグの街に帰ってきたところ、ユナと再会した。

彼女が一時的にミリオンズに加入した。

ウォルフ村のドレッドたちから不穏な手紙が届き、俺たちミリオンズでウォルフ村へ向かうことになった。


 ウェンティア王国のディルム子爵がウォルフ村に手を出してきた。

俺たちミリオンズはウォルフ村に加勢し、ディルム子爵配下の精鋭たちや、違法に研究されていたキメラを撃破した。

キメラによって破壊された街の復旧作業やケガ人の治療回りを積極的に手伝った。


 ウォルフ村からラーグの街に帰ってきた頃、この街の近郊を治める新たな貴族を叙爵する構想があるという噂を聞いた。

そして、西の森の奥地に居座る盗掘団の捕縛作戦に、俺は張り切って参加した。

いろいろあったが、結果は上々。

俺の活躍が評価され、無事に叙爵が内定した。

さらに俺とモニカは結婚し、俺とニムは婚約した。


 そして、ここ1週間ほどのんびりして今に至る。

こうしてあらためて活動を振り返ってみると、いろいろと感慨深い。

ミッション報酬や忠義度稼ぎという目的はあるにせよ、世のため人のために結構がんばれていると思う。


 今は、全てのミッションを達成済みである。

何をすべきかは自分たちで考えていかなければならない。


 まずは……貴族としての地盤固めかな。


 このラーグの街一帯の領主は俺だ。

騎士爵を授かる予定である。

正式な叙爵式こそまだではあるが、既に書類上は俺が領主となっている。

権限も与えられている。


 このサザリアナ王国における爵位の序列は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵の順となる。

お隣のウェンティア王国でも似たようなイメージだ。

騎士爵は貴族の中では最下級ではあるが、そもそも貴族という時点で上流身分である。

騎士爵に特に不満はない。


 俺は、貴族家の知り合いが3つある。

ラスターレイン伯爵家、ディルム子爵家、ハルク男爵家だ。


 ラスターレイン伯爵家は、リーゼロッテの実家だ。

何やら水魔法で有名な家系らしい。

リーゼロッテの兄でありラスターレイン伯爵家の次男であるリルクヴィストは、防衛戦のときに確かな水魔法の実力を見せていた。

さらに、その少し前のガルハード杯ではミティ、マクセル、エドワード司祭と並んで同時優勝するほどの武闘の実力も見せていた。

伯爵家だけあって、かなりの名門であると言えよう。

領内には、強力な配下も揃っているかもしれない。


 ディルム子爵家は、ウォルフ村の近くを治めている貴族である。

ディルム子爵本人の戦闘能力はそれほどでもないようだった。

しかし、配下の領軍にはアカツキ総隊長、ガーネット隊長、カザキ隊長、オウキ隊長、ダイア隊長などの強者が揃っていた。

また、違法ではあるがキメラの研究を行うだけの資金や人材も持っていた。

さすがは子爵家だと言えよう。


 ハルク男爵家は、ラスターレイン伯爵家やディルム子爵家と比べると少し地味だ。

配下の兵士たちは、約半年前の時点でのミティに一蹴される程度の実力しかない。

とはいえ、俺がハルク男爵の娘であるサリエを治療した際には、お礼の品を奮発してもらえた。

金貨や馬車などだ。

財力は確かであると言えよう。


 そして、俺も彼ら貴族の仲間入りをするというわけだ。

彼らにあって俺にないものは何か。

数え切れないほどたくさんある。


 しかしあえて1つ挙げるとすれば、人材だろう。

俺が動かせるのは、ミリオンズのみんなだ。

あとは、執事のセバス、メイドのレインとクルミナぐらいか。

元ブギー盗掘団の面々も配下のようなイメージになるだろうが、彼らは採掘や遺跡の調査がメインだ。


 ミリオンズのみんなは俺の家族だ。

配下とは少し違う。

純粋に配下として好きに命令できるような人材を揃えていきたいところだ。


 冒険者の面々を引き抜くのもなくはないが、彼らは金を出せばたいがいのことは引き受けてくれる。

このラーグの街を拠点に活動してくれている冒険者は、既に半分は俺の配下のようなイメージで考えてもいいだろう。

無理に引き抜く必要性は低い。


 街の衛兵などは、引き続き町長の管轄となる。

町長は俺の代官だ。

つまり、衛兵についても実質的に俺の配下のようなイメージだ。

こちらも無理にどうこうする必要性は低い。


 そうなると……。

現状で俺の影響力が及んでいない者たちから、有望な者を見つけたいところだ。

人材の登用案を考えてみよう。


 第1案は、一般市民から希望者を募ることだ。

筆記テスト、模擬戦、面接などでもしてみようか。


 第2案は、奴隷の購入だ。

金はたくさんあるし、数人以上買うことも可能だ。


 第3案は、孤児院からの子どもの引き取りだ。

これまではあまり意識したことがなかったが、少し前に街を散歩していたところ孤児院を見かけたのだ。

何やら経済的に困窮している様子だった。

即座に餓死したり病死したりするレベルではなさそうだったので、今のところは手を出してはいないが。


 この3つを軸に、人材の登用を進めたい。

理想は、いずれその中から加護の条件を満たす者が出ることだ。


 ああ。

加護と言えば、そろそろマリアに声を掛けてみてもいいかもしれない。

彼女には既に加護を付与済みだ。

少しずつスキルを強化してきたかいがあって、今では初級冒険者並みの戦闘能力があるはずだ。


 ハーピィが友好種族であることは、この1年ほどでずいぶんと浸透してきた。

また、俺が騎士爵を授かることにより、安易に俺たちに手を出そうとする者もいなくなるだろう。

マリア自身、この1年で年齢を重ねた。

今は9歳で、もうそろそろ10歳になる。

10歳と言えば、冒険者として活動できる年齢だ。


 あとは、サリエの現況も確認しておこうかな。

彼女は加護の条件を満たしていない。

しかし、忠義度は30を超えているので、何かきっかけがあれば忠義度50の達成も可能かもしれない。

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