301話 モニカの借金の返済

 ラビット亭での修羅場から1週間ほどが経過した。

この1週間で3つほどの新情報がある。



 まず1つ目。

俺たちミリオンズのBランク昇格は無事に認められた。

これで、パーティとしてかなりの上位となった。


 個人ランクは、Bランク1人に、特別表彰者のCランク4人、それと通常のCランク1人の構成である。

それぞれのランクと貢献値を整理しておこう。


 ”紅剣”のタカシ、Bランク、貢献値8000万ガル。

”武闘聖女”アイリス、Cランク、貢献値4100万ガル。

”百人力”のミティ、Cランク、貢献値3400万ガル。

”雷脚”のモニカ、Cランク、貢献値2600万ガル。

”鉄心”ニム、Cランク、貢献値2300万ガル。

ユナ、Cランク。

以上だ。


 ミリオンズの総貢献値は2億400万ガルとなる。


 Bランクパーティの中では下のほうに位置するかもしれないが、そもそもBランクパーティ自体がかなり少ない。

もはや、ラーグの街近郊では敵なしと言ってもいいだろう。


 アドルフの兄貴やレオさんもBランクだ。

しかし彼らは、ラーグの街を拠点にしているわけではない。

護衛依頼などでたまに通るくらいだと以前言っていた。


 つまり、俺が武力で好き勝手しても、止められるやつはいないということだ。

グヘヘ。


 ……いやいや、この思考はマズい。

ついこの間、闇の瘴気のせいで暴走したばかりじゃないか。

これからはチートに溺れることなく、清廉潔白に生きていくのだ。



 次に2つ目。

俺の叙爵の件だが、ほぼ確定となりつつあるらしい。

本人である俺の意思の確認のために、屋敷に王都の高官が訪ねてきた。

もちろん、俺は前向きな回答をしておいた。


 叙爵後の流れについても、いろいろと聞いておいた。

この街の統治は、基本的には現町長に引き続き行ってもらえばいいそうだ。


 特別に希望があるなら、俺自身や俺が推挙する者への交代もできるそうだが。

もちろんそんなことはしない。

俺には内政系の知識がないし、ツテもない。

無難に行こう。


 いずれ、叙爵式が王都で行われるらしい。

ただし、これは俺1人のために行われるわけではない。

1年に1度行われる、新しく叙爵された者や爵位を受け継いだ者に対する信任の儀式だ。

そのため、時期についてはまだ少し先となる。



 そして3つ目。

俺とモニカの結婚式の件だ。

捕縛作戦も無事に終わり落ち着いてきたので、さっそく行う予定である。


 加えて、パームスとナーティア、それにダリウスとマムの再婚の件もある。

モニカの希望により、俺たちの結婚式と彼らの結婚式を合同で行うつもりだ。

さらに、俺とニムとの婚約お披露目会も同日に行われる。


 それらの後には、食事会が開かれる。

モニカ、ダリウス、ナーティアが事前に料理の用意をしておき、それを手伝いの者が仕上げてパーティに提供するのだ。

もちろん野菜などは、ニムやマムが育てたものを使用する。


 時期は1週間ほど後だ。

招待客には既に招待状を送っている、


 結婚式の当事者は、俺、モニカ、ニム、パームス、ナーティア、ダリウス、マム。

当事者だけでも7人いる。


 招待客は、まずはミティ、アイリス、ユナ。

俺の屋敷で働いてくれている、執事のセバス、メイドのレインとクルミナ。

ニムの兄サム。

冒険者仲間の、マクセルたち”疾風迅雷”、ギルバートたち”漢の拳”、ソフィアたち”光の乙女騎士団”、ディッダたち”荒ぶる爪”、ビリーたち”黒色の旋風”。

冒険者ギルドのギルドマスターであるマリー、受付嬢のネリー。

仮釈放中のブギー頭領やジョー副頭領たち元盗掘団の面々。

ラビット亭の常連さんたち。

さらに、ハガ王国のバルダインやマリアも招待してみようと思っている。



 この1週間の追加情報は以上だ。

これを踏まえて、俺たちミリオンズの今後の活動方針を考えよう。


 まず、Bランクパーティになったことは素直にうれしい。

この街の用事が済んだら、また精力的に活動していきたいところだ。


 叙爵に向けて、人材の登用を進めていきたい。

町長は、現任の人をそのままとする。

だが、せっかく貴族となることだし、ある程度の影響力は持っておきたい。

俺の息のかかった行政官を街の中枢に送り込みたいところだ。


 また、俺の屋敷の警備も強化したい。

現在の警備体制は、少し心もとない。

執事のセバス、メイドのレインとクルミナ。

この3名だけだからな。


 残念ながら、この3人に戦闘能力はほぼない。

コソドロを複数人がかりで撃退する程度はできるだろうが、強盗などが来たら危険だ。

門番や用心棒などを新たに雇いたいところである。


 行政官にせよ門番や用心棒にせよ、俺に人材のコネはない。

第一の候補は、奴隷だろうか。

最初から優秀な人を購入してもいいし、気長に育成するのも悪くない。

理想は、加護付与の対象者となることだ。

資金にはかなりの余裕があるし、購入を前向きに検討したいところだ。


「ふう。盗掘団の件も終わったし、落ち着いてきたな。いい結果になってよかったよ」

「そうですね。私は今回は暴れすぎましたし、反省しないといけませんが……」

「まあ闇の瘴気の影響なら、仕方ないんじゃないかな。ボクも止められなかったし」


 俺の言葉を受けて、ミティとアイリスがそう言う。

俺とミティは、闇の瘴気の影響を特に強めに受けて、暴走してしまった。

アイリスはそれほどでもなかったが、俺やミティを制止できなかった。


「わ、わたしは特別表彰者になれてうれしいかったです」

「そうだね。報奨金もたくさん手に入ったし。……あ、そうだ」


 モニカが何かを思い出したような顔をする。


「タカシ、それにみんな。私がパーティ資金から借りていたお金を、やっと返せるよ。……はい」


 モニカがそう言って、今回彼女が得た報奨金の多くを俺に渡してくる。

普段の狩りの報酬や今回のような臨時の報奨金は、その大部分をパーティ資金とし、残りを各個人にお小遣いとして配るようなイメージで運営している。

冒険者活動に伴う諸経費、普段の食費、消耗品の購入などは、パーティ資金から捻出されている。

各個人がお金を使うのは、趣味やおやつの購入ぐらいに限られる。


 ちなみにパーティ資金の管理は、俺が行っている。

俺がしっかり者で信頼されているから……と言いたいところだが、それ以外にも理由はある。


 空間魔法の存在だ。

アイテムボックスやアイテムルームは、防犯性能が極めて高い。

何しろ、術者本人が魔法を発動しない限り、物を取り出せないわけだからな。

歩く金庫のようなものだ。

俺のアイテムボックスには金貨数百枚以上が入っている。


 ただし、もちろんいいことばかりではない。

術者が死亡した場合、アイテムボックスに入っていた物の大部分は、その場にぶちまけられるらしい。

そして、残りの一部は少し離れたところに、一部は遠く離れたところに、一部は時空の狭間に消失すると言われているそうだ。


 俺が死んでしまったときのことを考えると、俺のアイテムボックスのみで全てのパーティ資金を管理するのはさすがにリスクが大きい。

それに死ぬ以外にも、例えば誘拐されたり、記憶を失ってどこかへ旅立つという可能性もなくはない。


 これらのリスクを軽減させるため、資産をある程度は分散させている。


 まず、ミティのアイテムバッグだ。

そこに金貨数十枚を入れている。

アイテムバッグ自体を盗難されるリスクはあるとはいえ、持ち運びにも便利だし、重宝している。


 アイリス、モニカ、ニム、ユナも金貨数枚程度を常に身につけて持ち歩いている。

また、俺たちの屋敷の各個人の部屋にも、タンス預金みたいなイメージで金貨数枚以上を保管している。


 さらに、執事のセバスには屋敷の管理費と合わせて、金貨数十枚以上を預けている。

屋敷の庭には、金貨100枚以上が入った金庫が埋められている。

ニムの土魔法の応用により、地下深くに埋められて、固くならされている。

容易には取り出せない。


 資金の分散管理は以上となる。

これで、リスクはある程度分散できていると言っていいだろう。


 無闇に貯め込んでも、強盗被害などのリスクが増えるばかりだ。

機会があれば、どんどん使っていきたい。


 もちろん無駄遣いをする気はない。

先ほど考えたように、奴隷の購入などが第一候補だ。

いい奴隷を購入できれば、今後の俺たちの稼ぎもさらに増えるだろう。

貯金額ではなく、収入額を増やしていこう。


 さて。

モニカがパーティ資金から借りていたのは、金貨200枚ほどだ。

日本円にして200万円ほど。

一般的には大きな額だが、俺たちミリオンズからすれば極端に多額というわけでもない。 


 俺はもはやさほど気にしていなかった。

むしろ忘れていた。

しかし、モニカはきっちりと覚えていたようだ。


 俺は、モニカが差し出した金貨を受け取る。


「ああ、ありがとう。しかし、これから結婚して家族になるわけだし、気にしなくてもよかったのだが」

「そうはいかないよ! 家族になるからこそ、きっちりしていかないと。それに、タカシだけじゃなくてパーティ資金から借りているわけだし」


 モニカがそう言う。

まあ、それもそうか。

原資はパーティ資金だ。

俺個人が自由にできる金ではない。


「私は気にしていませんでしたが……」

「ボクもだよ。まあ、パーティ資金は余裕があったほうがいいけどね」


 ミティとアイリスがそう言う。

彼女たちはあまり物欲がない。

個人に配っているお小遣いも、ほとんど使っていないようだ。


「ふふん。話には聞いていたけど、私も気にしないわ。そのお金の原資は私が加入する前のものだしね」

「わ、わたしも同じです。それに、モニカさんとは二重の意味で家族になるわけですし……」


 ユナとニムがそう言う。


「二重の意味? 俺とモニカ、そして俺とニムが結婚すれば、確かにモニカとニムも家族になるな。それと……」

「わ、わたしの親と、モニカさんの親が結婚する件です。そうなれば、わたしとモニカさんは義理の姉妹となります」

「ああ、そういうことか」


 確かに、二重の意味でモニカとニムは家族になるわけだ。


「こ、これからもよろしくお願いします。モニカお姉ちゃん」

「うん。よろしくね。ニムちゃん」


 もともと仲のよかった2人だが、これでさらに絆が深まったことだろう。

ハーレムと言えば、妻同士の仲違いが気になるところだが、今のところはだいじょうぶそうか。

ミティ、アイリス、モニカ、ニム、そしてユナ。

彼女たちの中に、極端に仲が悪い者はいないはずだ。

まあ、多少の相性の良し悪しぐらいはあるだろうが。


 彼女たちと幸せな家庭を築いていけるよう、俺もますますがんばっていかないとな。

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