300話 再会と修羅場
捕縛作戦の功績発表から1週間ほどが経過した。
この1週間で、ブギー盗掘団への処罰が正式に確定した。
主犯のブギー頭領、ジョー副頭領。
下っ端戦闘員たち。
そして、盗掘団の一員として活動していたナーティアやパームスたち元記憶喪失者。
彼らの罪は、非常に軽いものとなった。
刑罰については個別異なる。
比較的重い者でも、数か月の強制労働。
軽い者では、数週間の強制労働や少額の罰金、あるいは社会奉仕活動などである。
このような軽い処分になった理由として、やはり一般人などへの加害が確認できなかったことが大きい。
むしろ、シルバータイガーを撃破したことにより人命を救っている。
その点が好評価だったようだ。
ただし、記憶喪失者をすぐに街に届けなかった点はマイナス評価となった。
主犯であるブギー頭領やジョー副頭領、それに下っ端戦闘員ですら、そういった事情からさほど重い刑罰ではない。
記憶喪失という特別な事情があるナーティアやパームスは、もちろんそれよりも軽い刑罰となっている。
あと、どの程度効果があったかはわからないが、俺も一応口添えしておいた。
”あまり重い罪にはしてほしくない”とな。
俺は叙爵の有力候補だし、現時点でも少しの発言力はある。
まあこの国は司法制度がしっかりとしている。
いくら将来の権力者候補だからといって、ムチャは通らないだろうが。
一考ぐらいはしてもらえたはずだ。
そして、モニカの母ナーティアと、ニムの父パームスは、無事に解放された。
俺、モニカ、ニムの3人で、彼ら2人を迎えに来たところだ。
あと、犬のリックもいる。
リックは俺たちの屋敷でとりあえず預かっていたのだ。
「お疲れ様です。無事に解放されて何よりです」
俺はナーティアとパームスにそう声を掛ける。
「うん。ありがとう。タカシちゃん」
「聞いたぞ。俺たちの待遇や処分について、口添えしてくれたそうじゃないか。礼を言う」
「いえいえ。俺の義理の親になるわけですし、当然のことです」
俺とモニカ、俺とニムが結婚すれば、ナーティアとパームスは俺の義理の親になる。
「そっか。無事に釈放されたことだし、さっそくうちのモニカとの馴れ初めをぜひ聞きたいところね」
「俺のかわいいニムとの馴れ初めも説明してもらおうか。親として、タカシ君の人となりを正確に知っておきたい」
ナーティアとパームスがそう言う。
「お母さん。私たちのことはとりあえずいいよ。それよりも、まずはお父さんに会いに行こう」
「そ、そうですね。ママとダリウスさんには、パパたちを今日連れて行くと伝えています」
モニカとニムがそう言う。
「うん。それもそうだね。ダリウスと会うのはドキドキするなあ」
「俺もだ。マムには苦労をかけちまったからな。許してくれるだろうか……」
ナーティアとパームスは、期待と不安が入り混じったような顔をしている。
そんな彼女たちを連れて、ラビット亭に向かう。
同行者は、俺、モニカ、ニム、ナーティア、パームスの5人である。
あと、犬のリックも連れて行く。
ラビット亭の中では、ダリウスとマムが待ってくれているはずである。
モニカの両親であるダリウスとナーティア。
ニムの両親であるパームスとマム。
それぞれの感動的な再会となる……はずだ。
ガチャリ。
モニカがラビット亭のドアを開けて、中に入る。
「お父さん。マムさん。来たよ」
「あ、ああ……」
ダリウスが緊張した面持ちでこちらを見る。
隣に立つマムも緊張している様子だ。
まずは、ダリウスとナーティアが見つめ合う。
「ナーティア……」
「ダリウス……」
ガシッ。
2人が力強く抱きしめ合う。
それぞれの目からは涙があふれている。
「ナーティア! 夢じゃないんだな……。俺はてっきり……死んでしまったかと……! 心配させやがって……!」
「ごめんね……。すぐに戻ってくるべきだったわ。大切な人を忘れてしまっていた」
ダリウスとナーティアは、抱きしめ合い続けている。
数年間、離れ離れになっていた夫婦の再会だ。
感動もひとしおだろう。
さらにモニカも加わり、3人で再会の喜びを分かち合っている。
そして、他方では、パームスとマムが見つめ合っていた。
「マム……」
「あなた……」
2人が力強く抱きしめ合う。
それぞれの目から、涙が流れ落ちる。
「すまなかった。長い間、苦労をかけちまったな」
「いいの。あなたが無事で生きて帰ってきてくれただけで……」
パームスとマムは、抱擁を続けている。
「ワンワンッ!」
「うふふ。もちろん、リックのことも忘れていないわよ」
ペットのリックの頭を、マムが撫でる。
さらにニムも加わり、3人と1匹で再会の喜びを分かち合っている。
うんうん。
無事に感動的な結末となって何よりだ。
しかし、俺は1人蚊帳の外な感じはある。
自宅で待っていたほうがよかったか?
いや、そんなわけにもいかないか。
俺とモニカ、俺とニムは、結婚する予定だ。
そうなると、彼女たちの親は俺にとって義理の親となる。
無関係な他人ではない。
ことの成り行きを、おとなしく見守ることにする。
しばらくして、彼女たちは少し落ち着いてきたようだ。
抱擁を解き、彼女たちが少しだけ離れる。
モニカが口を開く。
「それで、お父さん、お母さん。また2人でラビット亭を再開するんだよね? 私も、たまには手伝いに来るから」
「む……。そのことなんだが……。どうしたものか……」
「そうですね……」
ダリウスとマムが、歯切れ悪くそう答える。
「ダリウス? どうしたの?」
「それが……。俺は、こっちのマムさんと再婚しようとしていたんだ」
そうだ。
その件があった。
素直に感動して一件落着では済まないかもしれない。
「なっ!? この、裏切り者ーー!」
ナーティアがそう叫び、強烈な回し蹴りをダリウスに放つ。
「ぐっ!」
ダリウスはそれをかろうじて受け止める。
彼は料理人だ。
戦闘については素人だと思っていたが、意外とやるな。
いや、こんなことを考えている場合じゃない。
「ナーティア。落ち着け。もちろん、お前が生きていると知っていればお前を待ったさ! しかし、王国からは死亡宣告が出されていたし、俺はお前が死んでしまったものだと……」
ダリウスがそう言う。
彼の言い分ももっともだ。
これは浮気や裏切りとは言い難いだろう。
「マム……。俺は寂しい。しかし、確かに長い間戻らなかった俺が悪いのだろうな……」
「あなた……」
パームスの言葉を受けて、マムも複雑そうな顔をする。
そして、場に微妙な空気が流れる。
だれも言葉を発しない。
胃が痛くなってきた。
「ええと。それで……どうされるのでしょうか?」
俺は恐る恐るそう言う。
「うむ……。どうだろう。ここは、重婚制度を利用するのは? 要するに、多夫多妻だ」
ダリウスがそう言う。
重婚か。
現代日本では認められていないが、この国ではそういうのもありなのか。
まあ、一夫多妻であるハーレムが許容されているぐらいだもんな。
「……私はそれで構いません。あなたはどうですか? それに、ナーティアさんも」
マムがそう答える。
「そうだね……。うん。私もそれで構わないよ。ただ、それなら1つお願いがあるかな。ねえ? パームス」
「……ああ。……そういうことなら、俺とナーティアの結婚も認めてほしい」
ナーティアとパームスがそう言う。
盗掘団のアジトからラーグの街への道中でも、彼女たちは少しいい雰囲気を出していた。
やはり、できていたか。
記憶を失っていたし、浮気というわけではないのだろうが。
「なっ!? ナーティア。お前、人のことを裏切り者と罵って蹴っておいて……!」
「ご、ごめんごめん。ついカッとなってさ。許してよ」
確かに、ダリウスの言うことももっともだ。
ナーティアは、自身の行いを棚上げしている。
まあ、気持ちはわからないでもないが。
俺は、自分はハーレムをつくっている。
だが、もしミティやアイリスたちが他に男をつくったりしたら、激昂する自信がある。
自身の行いを棚上げして、妻には厳しくあたっているわけだ。
こればっかりは、人間だし自分の欲望を最優先にしても仕方ないだろう。
あとは、どの程度その欲望を自制できるかだ。
ナーティアも、カッとなって回し蹴りをぶっ放しはしたが、今それを指摘されて素直に謝る理性は持ち合わせている。
俺も、いざそういうときが来たときの心構えをしておかなくてはならないかもしれない。
……ミティやアイリスが俺以外の男をつくる、か。
想像するだけでも嫌だな。
こればっかりは、理性ではどうにもならないかもしれない。
せめて、彼女たちに不自由のない暮らしをさせてあげられるよう、チートを存分に活かして稼いでいくことにしよう。
そんな感じで、モニカの父ダリウス、モニカの母ナーティア、ニムの父パームス、ニムの母マムの再会は無事に終了した。
彼らは、元の婚姻関係を維持したまま、新たに2つの婚姻関係を結ぶ。
重婚だ。
ママレードな少年みたいな、カオスな家庭環境になるかもれない。
だが、彼らであれば、それでも幸せな家庭を築けるはずだ。
俺たちミリオンズは金銭的にかなりの余裕があるし、いざというときにはいくらでも援助することができる。
少なくとも、彼らが経済的に困る心配はない。
モニカとニムは俺のところに嫁に来るわけだし、彼らが幸せな家庭を新たに築けるよう祈ることにしよう。
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