299話 オリハルコンと蒼穹の水晶

 捕縛作戦の功績発表会は無事に終了した。

各パーティの代表者が報酬金の受け取りのために受付前に並んでいる。

俺たちミリオンズは少し出遅れたので、しばらく待つ必要がある。


 そうしてのんびり待っていたところ、冒険者ギルドのギルドマスターであるマリーが話しかけてきたところだ。

何やら、俺たちに渡したいものがあるらしい。


「それで、何をいただけるのでしょうか?」

「……これだ」


 マリーがそう言って、大きな鉱石と青く光り輝く水晶を取り出す。


「ブギー盗掘団から接収したオリハルコンと蒼穹の水晶ですね。それをいただいてもいいと?」


 俺たち先遣隊が強奪し、俺のアイテムボックスに収納していた。

捕縛作戦が終わった後、マリーに渡していたものだ。


「そうだ。ブギー盗掘団の面々の罪状は、まだ審議中なのだがな。盗掘によって得た物品を国やこの街に捧げ、かつ彼らの採掘の技術を国やこの街に提供することを条件に、罪が大幅に減じられることになったのだ」


 マリーがそう説明する。

彼女が言葉を続ける。


「また、シルバータイガー討伐の功績も正式に認められそうだ。盗掘の罪は、さすがに無罪放免とまではいかないが、それに近い処分になるだろう。ナーティア、パームスたち元記憶喪失者はさらに軽い罪となる。そして、知っているかもしれないが、ソフィアたち”光の乙女騎士団”については厳重注意と罰金のみとなっている」

「そうですか。まあそれほど悪い人たちではなさそうでしたし、過剰な刑罰は不要でしょう。俺もそれでよかったと思います」


 ブギー頭領やジョー副頭領は、山の向こうの世界を見たいという夢を叶えるために盗掘を行っていた。

ナーティアとパームスたちは、命の恩人であるブギー頭領たちに恩返しをしたいと考えて、盗掘団に加わった。

ソフィアはそんな彼らを見て、単純な盗掘団として断罪するのは忍びないと考えて、彼らに協力的な態度を取った。

いずれも、情状酌量の余地は大きい。


「うむ。それでだ。このオリハルコンと蒼穹の水晶だが、君たちミリオンズへの報酬にどうかと思ってな。報酬金の一部をこれらに置き換えるようなイメージだ。もちろん全て金貨による支払いでも構わないが、君たちレベルになるとこのような希少な物品のほうが有益だろう」


 確かに、マリーの言うことにも一理ある。

オリハルコンや蒼穹の水晶は、相当レアなアイテムだろう。

通常の手段で手に入れるのは、大変そうだ。


 一方で、ただの金貨であれば得る手段はいくらでもある。

俺たちは優秀な冒険者だからな。

ひたすら魔物を大量に狩るのもいいし、高ランクの魔物を狩るのもいい。


 それに、俺やアイリスの治療魔法で治療回りを行うのもありだ。

加えて、ミティの鍛冶術、モニカの料理術、ニムの栽培術、ユナの操馬術などを活かす手もある。

ただの金貨による報酬は、もはやさほど魅力的ではない。


「それはありがたいですね。なあ? ミティ」

「そうですね! オリハルコンは、私も村で一度だけ見たことがあります。お父さんと相談して、鍛冶に挑戦してみたいです」


 ミティがそう言う。

彼女の鍛冶術はレベル5だ。

腕前は既に達人の領域にある。


 ただし、ステータス操作によって強化された腕前に対して、経験や知識はやや不足している。

鍛冶師として経験豊富なダディに相談すれば、オリハルコンから見事な武具をつくることも可能だろう。


「ふふん。その蒼穹の水晶は、紅蓮の水晶と似たような雰囲気を感じるわね。なにかいわくつきのものなのかしら?」

「うむ。わからん。水の精霊の加護が付与されているようだ。武具に加工するといい。もしくはただ所有しているだけでも一定の効果はあるだろう。水魔法の威力の強化などの恩恵を受けることができる」


 ユナの問いに、マリーがそう答える。

蒼穹の水晶は、とりあえず持っておくだけで加工は保留としておこうかな。


 俺たちミリオンズのメンバーで、水魔法を使えるのは俺だけだ。

それに、その俺も水魔法レベル2までにしか強化していない。

まだまだ初級だ。


「さて。物品の件はこれぐらいでいいだろう。君たちミリオンズには、さらなる朗報があるぞ」

「朗報? なんだろ?」


 モニカが首をかしげる。

俺の冒険者ランクがBになり、モニカとニムが新たに特別表彰者となった。

さらに、オリハルコンと蒼穹の水晶というレアなアイテムをゲットした。

それ以外の朗報となると……。


「君たちミリオンズは、Bランクパーティに昇格する可能性がある。まだ申請中だがな」

「おお! 思っていたよりもずっと早いですね」


 Bランクパーティの基準は、Bランク3人以上と聞いたことがある。

ちなみにCランクパーティの基準は、Cランク3人以上だ。


 俺たちミリオンズは、今回の俺の昇格により、Bランク1人とCランク5人のパーティとなった。

Cランクパーティの基準は余裕で満たしてはいるが、Bランクパーティの基準は満たしていない。


「確かに、普通に考えれば少し気が早いかもしれん。しかし、お前たちミリオンズの成長速度は異常だ。近い内に、アイリスやミティもBランクになっているかもしれんし、ユナが特別表彰者になっているかもしれん。Bランク2人に、特別表彰者のCランク4人であれば、Bランクパーティとしては十分だ」


 マリーがそう言う。

冒険者ランクと特別表彰者制度は、独立した関係にある。

ただし、特定の依頼を集中的に受注し続けたり、限られた魔物の狩りばかりに固執したりしない限りは、ある程度の相関関係は出てくる。


 Bランク以上の冒険者は、ほとんどが特別表彰者だ。

一方で、Dランク以下の冒険者に特別表彰者はいない。


 Cランク冒険者の中では、上位2割から3割ぐらいが特別表彰者となっているそうだ。

つまり、特別表彰者のCランク冒険者は、Bランクに近い存在であると言える。

パーティとしてのBランク査定の際にも、プラスの評価になるというわけだ。


「ふふん。私の活躍に期待していなさい!」


 ユナがそう言う。

彼女は自分だけが特別表彰者でないことを、少しだけ気にしている様子だ。


 焦らずとも、彼女の力があれば近い内に特別表彰を得ることができるだろう。

加えて、俺のステータス操作の恩恵もある。


 今回の盗掘団の捕縛作戦で、それぞれのレベルも上がった。

差し迫った脅威はないので、スキル強化を急ぐ必要はない。

しかし、早めに振ってスキルを慣らしておくことも大切だ。


 適度にゆっくりと考えて、スキルを取得していくことにしよう。

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